雨漏りする、その前に… 収益アップへの布石・長期修繕計画の薦め

7月に入り、梅雨が明けたと思ったらもう台風の季節ですが、暴風や大雨への対策は万全でしょうか。昨年、全国を襲った台風被害は記憶に新しいところ。災害時ほど、日ごろのメンテナンスの良し悪しが試されます。毎年やって来る台風に備え、「長期修繕計画」や定期的な「大規模修繕」について考えてみましょう。

◆壊れてからでは損をする。修繕資金の早期積み立てが大切

多額の費用を必要とする大規模修繕ですが、はじめの一歩は長期修繕計画をたてることです。国交省の調査(※)によれば、個人家主1126人のうち、長期修繕計画を保有物件の半数以上に対して用意できている家主は、わずか21.3%に留まったとのこと。大規模修繕を実施しない理由には「資金的余裕がない」という声が最も多く、資金繰りの難しさがうかがえます。

ですが、要修繕箇所の放置は、雨水の浸入や雨漏り、外壁のはく落といった緊急事態につながりかねません。加えて、事故が起こってからの対処費用は、事故を未然に防ぐメンテナンス費用よりもはるかに高額になってしまいます。長期修繕計画を立てておけば修繕する箇所と時期が明確になり、資金も積み立てやすくなります。

◆長期修繕計画の重点チェックポイントと目安

○鉄部塗装
 外廊下やエントランス、階段などの鉄部を塗装します。鉄部は劣化が早く、サビの発 生・腐食によって強度も落ちるため注意が必要です。また、劣化部分は入居者の目に も留まりやすく、物件の印象を悪化させてしまうことも。5~7年ごとに塗り直しが必 要でしょう。

○共用部の防水処理・美観回復
 共用部では防水処理も重要。廊下床やバルコニー床の防水施工、サッシまわりのシー リング工事などが代表例です。防水処理を怠ると、軒天からの漏水や、階下室内への 浸水にもつながりかねません。事態が深刻化する前に手を打ちたいものです。
 また、年月が経つと日常清掃では手に負えない汚れも目立ってきます。美観向上のた めにも定期的な高圧洗浄がおすすめです。

○外壁塗装
 紫外線や雨風により劣化した外壁を塗り直すことで、防水性を回復します。塗装の劣 化を放置すると、外壁に少しずつひび割れが生じ、浸水によって内部の腐食に発展し ます。10~15年を目安にきちんと修繕したいものです。
 外壁は入居者が直接目にしやすい部分であり、美観維持の面からも重要です。色やデ ザインのセンス次第で物件の印象も大きく変わり、賃料に良い影響を与えられる場合 も。

○屋根塗装・修繕
 アパートで最も雨漏りの原因になりやすいのが屋根の劣化です。屋根塗装は、屋根材 を塗膜で覆い、紫外線などから屋根材自体の劣化を防ぐことで物件を長持ちさせてく れます。修繕時期は屋根材によりますが、主流のスレート屋根であれば10年程度での メンテナンスが基本です。
 また、定期点検も忘れてはいけません。屋根材に割れが生じたり、屋根材を固定する 棟板金(ルビ・むねばんきん)が緩んだりしてしまうと、台風時に部材が吹き飛び周 辺に被害を与えてしまうことも。点検による早期の不具合発見は、劣化防止に大いに 有効です。
 なお、屋根の工事は外壁塗装と同様、高所作業のため足場が必要となります。屋根と 外壁の修繕をまとめて実施することで出費を抑えることも可能です。

○屋上防水
 マンションなどの陸屋根では、屋上防水のメンテナンスも重要です。こう配がほとん どないため水はけが悪く、防水を怠れば雨漏りは必至。耐用年数を確認し、表面のひ び割れや水たまり、排水溝のゴミ詰まりなど、予兆が見られないか定期的に点検して おきましょう。修繕時期は防水の種類によって異なりますが、だいたい10~15年にな ります。

◆計画的なメンテナンスは収益増のチャンスにも

修繕の時期や費用は物件によって異なりますが、おおむね表1のようになります。長期修繕計画を立てる際には、何年に一度のペースで実施するか検討し、総工事費に対して毎月いくらを積み立てればいいかを決めていくことになります。

前述した国交省の調査では、長期修繕計画を立てた物件とそうでない物件とを比較し、収益性にどのくらい差が生まれるのか検証する興味深いシミュレーションがあります。それによると、計画のある物件は計画のないものに比べ、8戸(1LDK)の木造住宅で実質利回りが1.30倍、20戸(2LDK)のRC造では1.33倍という結果に。つまり、計画的なメンテナンスは賃料水準の維持や空室日数の短縮、修繕費用の節減に効果を発揮し、収益性を高めるということです。

リスク回避の維持管理だけでなく、前向きな投資行為にもなり得る大規模修繕。安定した賃貸経営を行なうためにも、この機会に長期修繕計画を作成し、「積み立て」を始めましょう。

※ 国土交通省「賃貸住宅の計画的な維持管理及び性能向上の推進について―計画判断  を含む投資判断の重要性―」(2019年3月)

2020年07月07日