備忘録

歴史に学ぶ相続トラブル。回避のカギは生前準備にあり!


相続には昔からトラブルのイメージがつきもの。実際に、現代の家庭裁判所における遺産分割争いの数は、毎年1.5万件前後と高い水準で推移しており、歴史を振り返っても、相続トラブルが国を揺るがす一大事となった例は数多く見受けられます。

たとえば、「越後の龍」の異名で知られる戦国大名・上杉謙信の後継者問題。実子のいない謙信公が後継者を決めずに急死したため、親族間で家督をめぐる内戦が勃発。上杉家は滅亡の一歩手前まで衰退してしまいます。「歴史は繰り返す」といいますが、今も昔も共通する相続トラブル、その回避のポイントを探ってみましょう。


ポイント①「相続人は誰か」を確認する

相続トラブルを回避する大原則のひとつが、「相続人は誰か」を明らかにすること。もしも謙信公に実子がいたなら、あるいは、4人の養子に明確な序列があったならば、きっと歴史も変わっていたでしょう。しかし実際には、景虎と景勝という「同じくらい有力な2人の養子」がいたうえに、後継者を明確にしていなかったことから、上杉家の家督争いは泥沼化していきます。

現代の相続においても、相続人が曖昧なままでは遺産分割の目途も立たず、相続税等の手続きも進められません。そこで民法は、相続の基本ルールとして「法定相続人」を定め、相続の優先順位を規定しています。

配偶者に次ぐ相続の第1順位は、被相続人の直系卑属に当たる「子」です。子が亡くなっていれば「孫」が相続権を引き継ぎますが、そうした直系卑属がいなければ、相続権は「父母・祖父母」といった直系尊属、「兄弟姉妹・甥姪」の順に移ります。

被相続人の配偶者はどんな時でも法定相続人となります。ただし、事実婚などの内縁関係である場合には相続人となりません。財産を残すなら遺言や生前贈与等であらかじめ備える必要があるでしょう。

ポイント②「養子」「隠し子」も実子と同様の扱いなので隠さずに

ところで、現代では「実子」や「養子」に差はあるのでしょうか。民法では、養子は縁組みをしたその日から実子と同じ第1順位の法定相続人と見なされます(※)。そのため、相続税の基礎控除額を増やしたり、生命保険の非課税枠を拡大したりといった節税策のための養子縁組も検討されますが、養子によって相続人を増やせば一人当たりの相続財産も減少します。養子縁組はメリットとデメリットを比較したうえで慎重に行なうべきでしょう。

ちなみに、実子でも”隠し子”などの「非嫡出子」はどうかというと、こちらも養子同様に第1順位の法定相続人と見なされます。加えて2013年の法改正で、非嫡出子の相続割合は摘出子とまったく同等になりました。円満相続を求めるのなら、家族に打ち明けていない子どもの存在は生前に告白するか、せめて遺言で事実を明らかにしたいものです。

※ 養子は、実子がいれば1人まで、いない場合は2人まで法定相続人に含められる

ポイント③「相続する財産は何か」を明らかに

相続人が明らかになれば、次にやるべきは相続財産の洗い出しと一覧化です。親族でも被相続人の財産状況を全て把握しているわけではなく、本人以外が財産を調査するのは大変です。さらに相続人間で「もっと財産があったはず」「誰かが使い込んだのでは」といった疑念が生まれれば、その後の遺産分割協議にも支障をきたします。スムーズな相続手続きを促すためにも、財産目録は万一に備えて早めに作成し、定期的に更新していきましょう。


ポイント④トラブル回避の基本は「遺言」にあり

そして相続トラブルを回避する最善の方法が、誰に何を継がせるかを明らかにする「遺言」の作成です。もし謙信公が事前に跡継ぎを決め、遺言書を残していたなら、上杉家も滅亡の危機に瀕することはなかったかもしれません。現代の遺言は形式の違いによって次の3つに分けられます。

①自筆証書遺言…遺言者が全文を自筆で書く遺言。費用もかからずいつでも作成できる 反面、要件を満たせない無効な遺言を書いてしまう可能性も。また、保管方法によっ ては、紛失や改ざんのリスクあり。ただし、2021年より法務局による遺言保管制度が スタートし、制度利用によるリスク低減が可能に。

②公正証書遺言…公証役場の公証人が、本人の話を聞いたうえで有効な遺言書を作成。 原本も公証役場で保管されるため紛失・改ざんのリスクなし。デメリットは費用がか かる点と、公証人および証人に遺言の内容を聞かれてしまうこと。

③秘密証書遺言…自作の遺言の存在のみを公証役場に証明してもらう遺言。①と②の中 間的な性質で、遺言内容の秘密を保てる一方、手間と費用がかかるわりに内容の有効 性や保管時の安全性が担保されないという大きなデメリットあり。

何より賃貸経営者として忘れてはならないのが、不動産が公平な分割のしにくい、まるで上杉家の争いを引き起こした”家督”のような唯一無二の財産だという点です。誰にどの不動産を相続させるか、いくら遺言で決めたとしても、相続人それぞれの納得が得られなければ円満相続は叶わないでしょう。家族の幸せな暮らしを願うのであれば、まずは早めに遺言を作成して相続方針を明確にし、遺産分割についての話し合いと合意形成に取りかかってみてはいかがでしょうか。

2022年06月29日

IT時代は対策必須「デジタル遺産」の遺し方

さまざまな情報が手元のスマートフォンに集約されていく昨今、急増しているのがネット銀行やネット証券、暗号資産、電子マネーなどの「デジタル遺産」です。これらが相続発生後も誰にも知られないままとなり、後にトラブル化するケースも増えています。スマートフォンやPCに保存されたデータ、インターネットサービスへの登録情報さえ、今や立派な財産のひとつ。事前対策はお済みですか?

①取引の概要を共有

もっとも多いのは、遺産分割協議が終わった後で新たに「デジタル遺産」が発覚するケース。それが資産でも負債でも、金額によっては遺産分割協議をやり直すことにもなるだけに、まずはデジタル遺産の存在を家族など信頼できる人に知っておいてもらうことが大切です。

取引の内容や資産額まで共有できればベストですが、あれこれ勘繰られたくないという方は、せめて取引先名だけでも共有を。「○○証券、ID○○○○」といった情報があるだけで、相続発生後の事務処理は格段に容易になります。どうしても生前に共有できない・したくないという場合でも、必ず財産目録や遺言にデジタル遺産の内容を残しましょう。

②端末のロック解除方法を共有

いざというときに備えるなら、スマートフォンやPCのロックのはずし方を信頼できる人に共有しておくことも必要でしょう。しかし、パスワードを誰かに伝えるというのは意外と難しいもの。遺言の中に書くのもひとつですが、手作りのパスワードカードを作るという方法もあります。作り方は簡単で、厚紙などに端末名とパスワードを記載し、その記載の上から修正テープを透けなくなるまで重ね貼りするだけ。遺族は修正テープを削り取ることでパスワードを確認でき、誰かが生前に覗き見しようとすれば、修正テープを剥がした跡から不正が判明するという仕組みの手軽な対策です。ぜひお試しください。

2022年06月16日

コロナ禍、物価高、健康志向… 新しいニーズを捉えたキッチンで空室対策


コロナ禍によって入居者のライフスタイルはさまざまに変化しましたが、中でも顕著だったのが「自炊」ニーズの増加です。感染を気にしての外食控え、おうち時間の充実や健康志向からの内食需要の高まりにより、お部屋探しの場でも「魅力的なキッチン」を求める声が急増。空室対策としてキッチン重視派を取り込むなど、差別化するための戦略を考えてみましょう。

▶ キッチンの使い勝手を改善

料理をしたいというニーズに応えるなら、まず着手すべきは使い勝手の改善です。さすがに1口の電気コンロは論外、最低でもガスかIHの2口コンロを備えたいものです。

また、調理スペースの確保も重要です。キッチンを拡張できるとベストですが、間取りの制限など物理的・コスト的に難しい場合には、入居者がスペースを確保しやすくなるよう「収納を増やす」という方法も。食器やフライパンや洗剤など、キッチンはどうしても物が多くなるため、収納が増えるだけで使い勝手は大きく改善します。スペースがあれば吊戸棚や壁面収納を追加で造作する、難しい場合には、調理スペースも兼ねられる天板付きのキッチンワゴンやシェルフの設置を検討しましょう。

▶ キッチンを入れ替える

最近のキッチンは、見た目はもちろん、素材や使い勝手が大きく進化しています。当然、コスト・利回りと相談にはなりますが、毎日使う場所だけに思い切ってキッチンそのものを新品に入れ替えるという選択も考えられるでしょう。その際、留意したいのは次の2点です。

1.男女ともに使い勝手がいいか

今や男性も当たり前に料理をする時代、女性にとって使いやすいキッチンが”良いキッチン”とは限りません。さらに平均身長が高くなっている昨今の若者や外国人の使い勝手を考えると、ひと昔前の調理台やシンクの高さは”使いづらい”という評価にも。調理台の高さを調節できる製品を検討したり、「この部屋は若い男性向けに高いキッチンに」といったターゲットを明確にした製品選びを心がけましょう。

2.希少性やワクワク感はあるか

持ち家では「飽きのこないデザイン」が求められますが、賃貸ではむしろ「遊び心」や「他にはない」といった要素も魅力となります。どの部屋にもある設備だからこそ、内見者がワクワクする要素を含んだキッチンを選べば大きな差別化に。

例えば、ビルトインの食洗器がついたキッチンは賃貸ではまだ希少ですし、アイランドキッチンやキューブ型など個性的なキッチンプランを採用した単身用物件もなかなか見かけません。内見者の心を掴む賃貸ならではのインパクトあるキッチンを目指してみるのも面白いでしょう。

▶ 色使いで攻める

築年数が経って古臭さを感じる場合や、水濡れによるキッチン扉の塗装のふくらみ・剥がれ等が目立つ場合には、思い切ったデザインや色の変更でキッチンの雰囲気を一新するのも手。キッチン扉の丸ごとの入れ替えが難しい場合には、柄やカラーが豊富なダイノックシート等を扉に貼りつける施工をすると、費用を抑えつつ空間の印象を明るくできます。

個性的なアクセントカラーをうまく使えるとより効果的ですが、特に取り入れてみたい最近のトレンドが「黒いキッチン」。キッチンに黒というと意外な感じもしますが、このところトースターや炊飯器、電気圧力鍋などユニセックスな黒いキッチン家電が増えていることもあって、各メーカーも黒やグレーといった重厚なカラーのキッチンを次々と発表しています。色使いの参考にしてみましょう。


一方で、昨今は「まったく料理をしない人」や「火の扱いに不安のある高齢者」などをターゲットに据え、敢えてキッチン機能を削減することで居室のゆとりを得るといった空室対策も登場しています。多様化の進むキッチンへのニーズですが、それに応えるバリエーションも豊富だからこそ、賃貸ならではの需要を捉えたキッチンで空室対策にチャレンジしてみましょう。

2022年06月02日

評価額はどう決まる?不動産の節税効果と早めの相続対策のススメ


残される家族のため、少しでも早いうちから進めておきたいのが相続税対策。しかし、保有する資産がどのように算出され、どれくらい課税されるのかを大まかにでも把握しておかなければ、対策のための適切な方法も選べません。賃貸経営をする者として、まずは所有する不動産の価値を調べる基本を押さえましょう。

【不動産で評価額を下げて節税効果を狙う】

相続税は、財産の価値を金額換算した「評価額」に対して課税される仕組みです。評価額は原則として時価とされますが、財産によって評価のルールがあり、1億円の現金はそのまま1億円で評価される一方、用途が制限されるうえ時価の把握も難しい不動産の場合、家屋は時価の4~6割程度、宅地は時価の8割程度で評価されます。

この評価減のルールこそ、まさに不動産が相続税対策とされる理由のひとつです。現金1億円であればそのままの評価額ですが、1億円で購入して8000万円程度に評価される宅地に資産を組み替えれば、その差額だけ課税対象額を減らせるというわけです。

宅地の詳細な評価額は、「路線価方式」または「倍率方式」という計算方法で求めます。どちらを使うかは土地の所在地次第で、市街地なら前者、郊外なら後者となることが一般的です。

【「路線価方式」による相続税評価額の算出方法】

路線価とは、国税庁が公表する、道路(路線)に面する宅地1㎡あたりの価額のことです。宅地の相続税評価額もこの路線価をもとに計算され、例えば下図のように道路に「200D」と記されている場合、その道路に面する土地は1㎡あたり20万円となり、仮に300㎡の宅地を所有していたとすれば、その土地の相続税評価額は6000万円と計算されます。

※200D:1㎡あたり20.0万円。Dは借地権割合を示す記号


路線価×土地の広さ(㎡)=路線価方式による宅地の評価額

例▶20万円×300㎡=6000万円

【「倍率方式」による相続税評価額の算出方法】

一方、路線価が設定されていない郊外などの宅地は、固定資産税評価額に規定の倍率を乗じる「倍率方式」を用いて相続税評価額を算出します。例えば、固定資産税評価額5000万円、倍率1.1倍の宅地なら、相続税評価額は5500万円と計算できるわけです。
 路線価および倍率は、国税庁WEBサイト「財産評価基準書」で調べることが可能です。

借地権割合40%、宅地倍率1.1倍の土地の例


固定資産税評価額×倍率=倍率方式による宅地の評価額

例▶ 5000万円×1.1倍=5500万円

【さらに評価2割減、「貸家建付地」】

ここまで路線価方式・倍率方式による宅地の評価方法を確認しましたが、アパート等が建つ宅地はさらなる評価減の計算があります。賃貸住宅の建つ宅地は「貸家建付地」と呼ばれ、自用地としての評価額に「借家権割合」と「借地権割合」が考慮された評価がなされるのです。借家権割合は全国一律30%、借地権割合は各土地に設定された割合が適用され、次の計算式によって相続税評価額が算出されます。

宅地の評価額×{1-(借家権割合×借地権割合)}=貸家建付地の評価額

先ほどの『路線価:200D』の例では、土地の借地権割合はD(60%)と設定されていました。つまり、アパートの建つ300㎡・宅地評価6000万円の貸家建付地の場合、その評価額は借家権割合30%、借地権割合60%が加味され、4920万円に圧縮されることになります。

例▶6000万円×{1-(30%×60%)}=4920万円

【過度な節税は「税金逃れ」!? 約3億円追徴課税の判決に学ぶ】

今年4月、相続税対策をめぐる最高裁判決が業界内で話題となりました。この案件は、路線価方式を使って財産評価を行ない、数億円規模の節税を図った相続人に対し、国税局が約3億円の追徴課税を行なったことから訴訟に発展。財産評価の基本とも言える路線価方式と国税局、果たしてどちらが正しいのかと判決に注目が集まりましたが、最終的に最高裁は、国税局の追徴を適法と認定。路線価方式の否定とも捉えられかねない判決は、多くの賃貸経営者や不動産業界人に衝撃を与えました。

しかし実際のところ、判決の焦点は路線価方式の正当性よりも、税金逃れと取られるような相続人らの過度な節税姿勢と言えます。路線価も倍率も、どちらも評価額が時価の8割程度で算出されるよう設定されていますが、路線価の設定があるような市街地では時価の変動が大きく、時としてその8割という目安とかけ離れた価額が路線価に設定されてしまう(時価の変動に路線価の設定が追いつかない)ことがあります。当案件も同様のケースであったため、相続人らは13.8億円で購入した2つの不動産の評価額を、路線価等から3.3億円という「8割」と程遠い価額で算出。さらには、多額の借り入れで相続税は0円であると税務署に申告し、相続後短期で売却していたのです。

いくら路線価方式が国の認める評価減のルールでも、「相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行した(判決文ママ)」と見なされるような背景があれば、租税回避行為であるとして評価の見直しを求められても致し方ありません。相続税対策の際は、評価額圧縮を目的にするのではなく、あくまで収支重視の長期的不動産経営や、親族等の実際の居住を目的として不動産を取得するべきです。

折しも7月1日は、国税庁による最新の路線価発表日。この機会にぜひ相続税評価額を把握し、少しでも早く円満相続への道筋づくりに取り組んでみてください。

2022年05月31日

本格稼働開始 賃貸住宅管理業法知っておくべき4つのポイント

賃貸住宅の適切な管理運用、そして管理にまつわる不動産オーナーの取引の安全を確保するべく制定された「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下、賃貸住宅管理業法)」。施行から1年間設けられた経過措置期間も終了し、2022年6月からはいよいよ同法も本格稼働となります。賃貸経営者として知っておくべきポイントをおさらいしましょう。

①業者登録制度

まず大きな変更点は、宅建業者と同様に、賃貸住宅管理業者の登録制度が敷かれた点です。賃貸住宅管理業法の規定する規模や業態に該当する「賃貸住宅管理業者」は、国土交通大臣への登録が義務化され、無登録で管理業を行なった場合には罰則の対象となりました。

登録が必要となるのは、賃貸人から委託を受けて「賃貸住宅の維持保全」または「賃貸住宅の維持保全+家賃・敷金・共益費その他の金銭管理」を行なっている、管理戸数200戸以上の業者です。登録業者には賃貸住宅管理業の登録番号が割り振られるため、賃貸経営者はその番号を検索システム等で確認することで、相手が登録業者かどうかの判別が可能です。

なお、管理戸数が200戸未満でも制度への登録は可能である一方、200戸以上を管理しながら無登録となっている業者に対しては、2022年夏にも国土交通省による立入検査が開始される予定とのこと。今後、管理業者と接する際は登録番号に注目してみましょう。

登録番号の例
国土交通大臣(00)第0000000号
※更新回数の表示(2022年06月時点では01または02)
▶業者検索システム
https://etsuran.mlit.go.jp/TAKKEN/chintaiKensaku.do

②重要事項説明の義務化

従来は、賃貸管理を行なう会社と管理委託契約を結ぶにあたって特別のルールはありませんでしたが、賃貸住宅管理業者には賃貸経営者に対する重要事項説明の義務が課されました。重要事項説明書には、管理業務の内容や実施方法、管理の報酬、敷金や賃料等の引き渡し方法、契約の更新や解除にまつわる取り決めなど、管理委託契約の内容が詳細に、分かりやすく記載されます。

賃貸経営者が内容を理解しないまま契約を結んでしまうトラブルを防ぐことが狙いで、既に実施している業者も少なくありませんが、今回改めて義務として規定されました。なお、賃貸住宅管理業者から重要事項説明書が交付されない、説明がなされない等の場合には、国土交通大臣への申し出が可能です。

③財産の分別管理

賃貸住宅管理業者が家賃や共益費などを集金する場合や、契約時の敷金を保管する場合には、賃貸住宅管理業者はそれらを自社の財産と区分して管理する「分別管理」が義務づけられました。

具体的には、賃貸住宅管理業者は自社固有財産を管理する口座とは別に家賃等を管理する専用口座を用意し、帳簿上でも明確に分別管理をしていることが分かる状態にすることが求められます。万が一、業者の経営が破綻した場合にも賃貸経営者の財産を保全できるほか、賃貸住宅管理業者の運転資金に家賃等が流用されてしまうトラブルを防ぎます。

④管理状況報告

賃貸住宅管理業者には、対象物件の管理状況を賃貸経営者に報告する義務も課されました。賃貸経営者には少なくとも年一回以上の頻度で、入居者からの金銭の収受状況や建物の状況、管理委託契約の中で取り決められた管理業務の状況、入居者からの苦情の発生状況やその対応の進捗などが報告されることになります。

そのほか賃貸住宅管理業者には、管理の責任者たる業務管理者の配置などさまざまな義務が課されますが、その一方で、これまで各社の判断で進められてきた「賃貸管理」の内容が明確になり、賃貸管理業に対する信頼性の向上、業界の透明化が期待されます。賃貸経営者としても、安心して管理を任せられるようになる賃貸住宅管理業法は歓迎すべきもの。今後の賃貸管理がいっそう発展することを期待したいですね。

2022年05月23日

注目の空室対策アイテム 進化する自動販売機で入居満足度&売上アップ

コロナ禍において、「非接触」というテーマから急速な進化と多様化を遂げたのが「自動販売機」です。AI搭載など多機能化のほか、扱う商品もドリンクやアイスのみならず個性的な商品が次々と登場。特に食品類は、冷凍技術・機器の進歩もあって、思いもよらないメニューが買えるようになったと話題です。

スペースを有効活用して売上を立てつつ、食事の用意が面倒、買い出しに行きたいけどスーパーが遠い、そんな入居者の悩みを自動販売機で解決してみてはいかがでしょうか。

【近年話題の個性派自販機】

ラーメン     有名店のラーメンを冷凍食品に。全国各地の味を堪能。
鍋        水炊きやもつ鍋などの冷凍食品。好みの野菜を用意するだけ。
おかず・軽食系  餃子、お好み焼き、唐揚げなど多種多様。
スイーツ     プリンや焼き菓子のほか、パフェやショートケーキも。

自動販売機の利点は、大抵は業者と契約するだけで商品の管理・補充等を任せることができ、スペースと電気代を用意する程度で運用できる点です。ただし、特殊な商品の機種ほど設置エリアが限られるうえ、物珍しさで商品を選ぶと入居者・近隣住民のニーズとズレが生じ、定期的な購入が期待できなくなる点には注意が必要。購入者の暮らしを想像し、あくまで「必要とされる商品」の提供を第一に考えましょう。
 そういった意味では、食品や日用品など生活必需品を網羅的に提供する自動販売機を、近くにコンビニのないエリアなどで運用できると購買ニーズにも合致。商品が豊富なぶん割高なコスト等の問題をクリアできそうなら検討の余地ありです。

■ニーズに合わせ野菜や加工品などの販売も

もちろん、自分で商品を用意する方法もあります。ジャムや味噌などの加工品、温度管理が必要な商品は食品衛生法上の営業届出が必要ですが、畑でとれた野菜や果物、趣味で作っている小物などの販売は、自動販売機を購入・リースで用意すことですぐに可能。こちらの場合もニーズに合わせた商品選択を意識しましょう。

2022年05月05日

隣地から「竹木の枝の越境」、どうする?

新緑のまぶしい季節ですが、これから夏にかけて本格化するのが「草木の成長」と、それに関わるトラブル。厄介な事態に陥る前に、法律関係の正しい知識をアップデートしましょう!

Q 土地の所有者は、隣地から竹木の枝が境界線を越えて伸びてきたときは、自らこれ  を切除できる。◯か×か。(宅地建物取引士試験 平成16年 問7)

A 解答と解説

2022年5月現在、正解は×です。竹木の「根」は許可なく切除が可能ですが、隣地から伸びてきた「枝」については勝手に切ることができず、隣地の所有者に枝を切るようお願いをするしかできません(民法233条)。宅建士試験の王道問題でもあるため、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。

しかしこのルール、2021年の民法改正によって、来年4月からは「一定の条件を満たせば枝も切れる」に変わるので要注意。その条件は次の3つのうちのいずれかです。

ア)竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の  期間内に切除しないとき

イ)竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき

ウ)急迫の事情があるとき

主には「隣地の所有者に切らせる」ことの過大な労力を鑑みての改正ですが、背景には、社会の高齢化等に伴って増加する空き家・所有者不明土地の存在もありそうです。今後も「所有者不在」の土地が増えるとすれば、越境された側が自分の力で財産を守れる規定も必要でしょう。

手入れ不足の庭木が入り込めば、物件の外観が損なわれるばかりか、虫の発生や火災、さらには枝経由での空き巣の侵入など各種リスクも高まります。普段から近隣と良好な関係を築いて枝の切除をお願いしやすくする取り組みは必要ですが、「お隣さんが認知症になってしまった」「誰がお隣の家を相続したのか分からない」という時に、自分で枝を切除できる今回の改正は、賃貸経営者の皆さんにも心強く感じられるのではないでしょうか。

2022年04月27日

入居者をワクワクさせて差別化 遊び心ある空室対策アイデア9選

図らずもコロナ禍によって家で過ごす時間が増えて以降、おうち時間の充実は多くの人の求めるところとなっています。おうち時間を楽しむなら、そもそも物件自体が楽しいつくりになっていれば最高ですね。5月のこどもの日にちなんで、今回は遊び心あふれる空室対策アイデアをご紹介します。

☑部屋に遊ぶための仕掛けを設ける

例えば、部屋の中に「①ハンモック」がある賃貸住宅。他ではなかなか出会えない希少性に加えて、贅沢なリラックスタイムやリゾート気分に内見者もワクワク! 使用時に大きな負荷のかかるハンモックを吊るすには、RC造や頑丈な梁などの構造面の条件が必須ですが、構造的にOKなら一考の価値ある空室対策です。

また、もう少しアクティブに「②ボルダリング壁」を設置するというアイデアも。設置には構造的強度に加え、ある程度の高さが必要となるものの、ロフト付き物件やメゾネットタイプとは相性が良いでしょう。ただし、壁から人が「飛び降りる」ことも考え、設置は1階に限定で。 どちらもアウトドア派やオーガニックカルチャー好きな入居者のほか、子どもが楽しく過ごせる家として子育て世帯の人気も集めそうです。


☑部屋の壁を使って自由に遊ぶ

部屋そのものが「遊べる」のも魅力的です。例えば、部屋の「③壁が黒板」だったら、入居者がおしゃれなカフェやバー風に自由にアレンジしたり、子どもがいればチョークで落書きし放題。黒板塗料や黒板壁紙で低コストで実現できる点も魅力です。


黒板に限らず、壁紙を自由に張り替えられる「④壁紙DIY自由」のお部屋も楽しそうです。気分に合わせて壁紙を変えられれば、入居者もより自分らしい生活を満喫できます。また、壁紙を自由に変更できるということは、補修も自由にできるということ。子どものいたずら・落書き・破損を不安に思う層にも支持されるでしょう。

そしてもし、壁紙DIYを許可するのであれば、オススメはその楽しさを知ってもらうための「⑤DIY体験会」の開催です。壁紙の張り替えや、漆喰・珪藻土などの塗り壁の体験を通じて、DIYの面白さだけでなく壁のメンテナンス方法まで知ってもらえれば、お部屋の状態を長く良好に保つことにつながるかもしれません。

☑趣味に特化した遊び応援の部屋に

入居者の趣味を、お部屋が積極的に応援してみてはどうでしょうか。例えば、ロードバイクユーザーを対象に「⑥自転車ラックやローラー台(トレーニング機器)」、筋トレ愛好家に向けて「⑦トレーニングベンチやマルチトレーニングマシン」、サーファー向けに「⑧ボード立てや屋外温水シャワー」などを個室や共用スペースに設置。コンセプトが尖った空室対策は、熱烈な入居希望を集められる可能性があります。


もう少しライトな案としては、「⑨土間」を玄関に広めにとるリノベーションがオススメ。土間には道具や設備を気軽に置けるため、入居者の遊び心を刺激するだけでなく、前述のような愛好家のニーズも満たします。自転車を運び込むにも、トレーニング機材を置くにも、濡れたウェットスーツから着替えるにも、室内を汚さずに済む土間の存在は便利です。

☑遊び心で集客力や賃料にプラスの効果

楽しい・ワクワクするという気持ちは「住んでみたい」「住み続けたい」に直結します。新築でもリノベーションでも、遊び心のある企画は差別化に繋がり、集客面や賃料設定でプラスに働くでしょう。

また、コンセプトが明確であれば、ライフスタイルの似た者同士が集まり、互いの生活を理解し合いながら親交を深めていくため、入居者間トラブルが少なくなるという副産物も。ポジティブな空室対策として遊び心あふれる物件を作ってみませんか?

2022年04月13日

災害から建物・経営・入居者を守る!シーズン到来前にするべき豪雨対策


昨夏は広い範囲で記録的豪雨が相次ぎ、日本各地で「観測史上最高」が更新されました。報道でも豪雨への警戒が盛んに叫ばれる中、よく耳にするようになったのが「線状降水帯」という言葉です。

線状降水帯とは、発達した雨雲が線状に連なった積乱雲群のことで、大雨が局地的に降るゲリラ豪雨と異なり、広い地域に何時間にもわたって大量の雨を降らせます。当然、土砂災害や河川氾濫などのリスクも急激に高まるため、山沿いや川沿いのエリアは特に注意が必要です。

例年、線状降水帯の多発時期は梅雨の終盤。本格的な雨のシーズンに入る前に、現状把握の方法と対策を確認しましょう。

【事前の点検で大雨被害の原因となる箇所をチェック】

雨対策でまず気をつけたいのは、建物と敷地の防水・排水機能です。被害が想定される箇所ごとに、チェックすべき被害の原因およびその対策をまとめました。

▶屋根・屋上・外壁

真っ先に確認しておきたいのが、風雨に直接さらされる屋根・屋上・外壁です。ひび割れなどの破損がないか、防水塗装は劣化していないかなど目視点検を行ない、必要に応じて修繕をしましょう。ただし、高所の確認は危険を伴うため無理は禁物。出入りの容易な構造でない限り、屋根などは専門業者の調査を検討しましょう。

▶雨樋・排水溝

いざ大雨となったとき、雨樋や排水溝が枯れ葉などのゴミで詰まっていると適切に排水されず、浸水被害の原因になりかねません。雨の日に雨樋から水があふれていたり、敷地の排水溝まわりに水が溜まっていたりしたら要注意。シーズン前にしっかり清掃しておきましょう。

▶駐車場

車を地下に収納するピット式や、駐車場の立地が雨水の流れ込みやすい位置にある場合も注意が必要です。排水ポンプの点検・交換や土嚢の備蓄のほか、万一の際には入居者に車の避難を案内するなどの対策が必要です。

▶エレベーター等の機械設備・電気設備

物件の機械・照明設備も重点チェックポイント。横殴りの雨がエレベーターやオートロック、照明機器の非防水部分に吹きつけると、隙間からの浸水で電気回路がショートし、故障や共用部の停電を招く恐れもあります。もし共用ブレーカーが落ちてしまうと、室内のテレビや無料インターネットも使えなくなり、入居者からクレームが殺到する事態に。設備の劣化状況を見直したうえで、雨が入り込みそうな場所には何らかの対策を講じましょう。

【被災時の復旧は安全に配慮しつつ迅速に】

 あまり想像したくはありませんが、万一、床下・床上浸水が起きてしまうと、復旧には相当の手間と時間がかかります。大まかな復旧の手順は次の通りです。

《床上浸水後の復旧手順》

①水抜き(排水ポンプ、バケツ)
②泥土・浸水ゴミ・浸水家具の撤去
③建物の洗浄、殺菌消毒
④カビ・腐れ・シロアリ予防処理
⑤消臭処理・建物乾燥

被害を最小限に抑えるには、兎にも角にも速やかな排水・乾燥・消毒が欠かせません。専門業者を手配できると確実ですが、周辺一帯が被災した場合には業者の確保も難しく、ご自身や入居者の手で初期対応を始めるケースもあるはずです。その際、気を付けたいのは「清掃用の服装に身を固める」「清掃中に負ったケガはすぐに消毒する」ことの徹底。浸水時の水は、下水・汚泥・生活排水などが混じっているため非常に不衛生であり、破傷風等の感染症対策が欠かせないのです。

また、復旧対応と併せて入居者の安全確保も大切です。入居者加入の保険を案内しつつ、行政の避難所を案内したり、他の空室やホテルなどの宿泊施設を紹介したりと、管理会社と協力して入居者の生活を一時的にでもサポートできるといいでしょう。


【今年10月に火災保険料再値上げ。事前に見直しも検討を】

とはいえ、自然災害の前では個々の対策にも限界があります。被災した際に納得のいく補償を受けるには、火災保険の定期的な見直しが大切です。

近年は自然災害の甚大化・頻発化で保険料の改定が続いており、今年10月にも値上げが予定されています。最長契約期間も10年から5年へと短縮されるため、改定後すぐに更新を迎える方は、更新前に10年の長期で契約し直したほうがお得かもしれません。また、そもそも水害が起こりやすいエリアであるのに水災特約がないケースは危険信号。ハザードマップでリスクの大小を確認しましょう。

今年の豪雨シーズンはまさにこれから。この機会に早めの雨対策を整えておきましょう。

2022年04月01日

解禁間近!賃貸経営者が知っておきたい電子契約の仕組みと影響


紙から電子へ、世の中の契約行為が急速に移り変わりつつありますが、不動産も例外ではありません。不動産賃貸の電子契約は、2022年5月までに全面解禁される見通しです。果たして電子契約の普及は、業界にどのような変化をもたらすのでしょうか。

☑そもそも電子契約とは?

紙で交わす契約書の代わりに、電子データで契約を交わすのが電子契約です。紙の契約書では当事者の署名と捺印が必須でしたが、電子契約では「電子署名」という仕組みによって「誰がいつ、どの文書の内容に同意したのか」を証明し、契約を成立させます。この電子署名がされた契約書データは、書面の契約書と同等の法的効力を持ちます。

ちなみに賃貸借契約は、「民法」のうえでは当事者間の合意さえあれば口頭でも成立する諾成契約であるため、本来は電子化の容易な契約です。しかし、契約に宅地建物取引業者(宅建業者)が介在すれば「宅地建物取引業法(宅建業法)」が、定期借地・定期建物賃貸借といった契約形態を選べば「借地借家法」が関わることになり、こうした法令には「書面での作成・交付」が義務付けられた書類が少なくありません。例えば、取引時に宅建業者に義務付けられている「35条書面=重要事項説明書」「37条書面=契約書」などはその代表ですが、これまでは不動産取引における各種の「書面の義務」が電子化の妨げとなっていたのです。

しかし、2021年5月に「デジタル改革関連法」が成立したことで、宅建業法や借地借家法も改正に。各種書面の電子化が容認されたことで、不動産取引はついにデジタル化へと舵を切ることになったのです。

☑電子契約で何が変わる?

一方で、気になるのは賃貸経営者への影響です。電子契約普及のメリットは主に次の3つでしょう。

①契約締結/賃料発生までが早くなる
②署名・捺印・郵送等の処理からの解放
③WEB手続きを好む入居者から選ばれる

電子契約の最大のメリットは「早さ」です。書類の郵送がなくなれば、その分だけ契約締結までの期間や賃料発生までの期間の短縮が期待できます。また、契約締結前のキャンセルの発生率も低下するかもしれません。

加えて近年は、「契約や支払いはオンラインで素早く済ませたい」「契約の類はPCやスマートフォンで管理したい」という借主側のニーズも増加中です。手間や時間のかかる手続きを避けたい借主にとって、電子契約対応の物件はひとつの魅力として映るはずです。

☑電子契約締結の流れ

もうひとつの電子契約のメリットが「利便性の向上」です。「PCは苦手で、電子契約なんて大変では」と不安な方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの電子契約は紙の契約よりも手間のかからない操作を目指して開発されています。慣れれば手元のスマートフォンで、ものの数分で手続きを完了できるでしょう。

サービスによって異なりますが、大まかな電子契約の流れは以下の通りです。

事業者署名型(立会人型)の場合


事業者署名型であれば、貸主・借主の双方がシステムにログインし、契約内容を確認したうえで「承認する」だけ。賃貸経営者に必要なのは、メールアドレスとPCやスマートフォンなどの操作端末くらいです。

もちろん、電子契約が普及した後でも、従来の書面での契約が無効になるわけではありません。どちらかを選べるようになるだけと考えれば、電子化普及を不安に思う必要もないはずです。しかし、電子契約が業界を変える大きな変革であることは間違いないでしょう。変化を実体験できるせっかくの機会です、利用依頼があった際はぜひ電子契約にチャレンジしてみてください。

2022年03月29日

これからは「住み心地」で差別化。賃貸住宅の省エネ・断熱対策を考える


春本番を迎え過ごしやすい季節となりました。今回は賃貸住宅の「住み心地」をテーマに、夏涼しく冬暖かい高断熱による差別化を考えます。

【高断熱の希少性を集客の武器に】

長引くコロナ禍と在宅事情の変化に伴い、住まいの住み心地に関するニーズは大きく変わりました。特に実需の分野では「断熱性・気密性」への関心の高まりが顕著であり、SUUMOリサーチセンター実施の「『住宅購入・建築検討者』調査(2021年)」でも、「コロナ禍拡大を機に省エネ性(冷暖房効率)に優れた住宅に住みたくなった」が上位にランクイン。今後、賃貸でも同様の声が大きくなることが予想されます。

これまで賃貸での差別化は、水回り設備やセキュリティなど目に付きやすい部分のスペック充実が優先され、目に見えない「住み心地」は後回しにされてきました。市場に高断熱の賃貸物件がほとんど供給されていない今、ニーズの変化はひとつの差別化チャンスとなりそうです。

【エネルギーロス7割超も。重点改修は開口部】

日本建材・住宅設備産業協会の調査によれば、熱の出入りの大部分は開口部が原因とのこと。冬場の暖気の流出の58%、夏場の熱気の侵入の73%が窓やドアで起こるそうです。ということは、物件の断熱性能を効果的に高めたい場合に手を付けるべきも開口部。窓やドアにポイントを絞った対策が住み心地の良い賃貸住宅への第一ステップです。

冬の暖房時の熱が開口部から流出する割合 58%

夏の冷房時(昼)に開口部から熱が入る割合 73%

〈対策① 複層ガラス・真空ガラス〉

2枚以上のガラスを組み合わせた「複層ガラス」は、ガラスとガラスの間の空気層によって熱の侵入・流出を防ぎます。すでに新築住宅の大半が採用する王道の断熱アイテム。最近は、複層ガラスの間を真空にすることで魔法瓶のような高い断熱性を得る「真空ガラス」も登場しています。

〈対策② 二重サッシ〉

通常の窓枠の内側にもう一つ窓枠を設置したのが「二重サッシ」です。内窓、二重窓とも呼ばれ、窓と窓の間の空気層が断熱効果を発揮する構造は複層ガラスと同様です。窓自体が二重となるため気密性が高まり、いっそうの温度変化抑制や遮音性も期待できます。金属よりも断熱性の高い樹脂サッシなら、さらに効果が高まります。


【壁・床・天井の断熱対策はコストと相談】

半数以上のエネルギーロスは開口部で発生するとはいえ、残りは壁・床・天井などで起こります。第二ステップはこれらの断熱です。

〈対策③ 充填断熱・外張り断熱〉

壁・床の断熱対策によく使われるのが「充填断熱」(内断熱)です。外壁と内壁の間、あるいは床下などに断熱材を充填し、室内の温度変化を抑止します。一方、建物の外壁を断熱材で覆うのが「外張り断熱」(外断熱)。断熱材で建物を包み込むことで高い気密性と外壁保護を実現しますが、コストが嵩みます。

〈対策④ 天井断熱・屋根断熱〉

天井の仕上げ材の上に断熱材を施工するのが「天井断熱」、屋根の内側に断熱材を施工して仕上げるのが「屋根断熱」です。現状での施工の有無は、天井点検口から小屋裏を覗くことで確認できます。もし断熱材がほとんど入っていない場合には、天井裏に断熱材を敷き詰める天井断熱の検討を。

【政府の宣言で高断熱が「常識」に変わる?】

とはいえ、断熱にはそれなりのコストがかかります。既存物件への施工で採算が取れない場合には「次の建て替え時」での対策を考えた方が賢明です。ただ、賃貸経営者としては「建て替え時に本当に断熱にコストをかけるべきか」を懸念される方も多いでしょう。環境省が2018年時点で実施したアンケートでも、賃貸における省エネ性能への注目度は全31項目中の28位で、借主にとっては断熱性より家賃や間取りのほうがずっと重要であると示されています。

しかし、2019年末からのコロナ騒動や2020年に政府が宣言した「カーボンニュートラル」で状況は変わってきました。政府は、2050年までに実質的な温室効果ガス排出ゼロ(カーボンニュートラル)を叶えるべく、エネルギー産業や輸送、製造、農林水産業など幅広い分野でさまざまな政策を進めています。そして、われわれ住宅関連業界では「ZEH」をキーワードとした各種取り組みが広がっています。

【20年後の住環境を見据えたZEH戦略】

ZEH(ゼッチ/Net Zero Energy House)とは、高断熱・高気密な住宅設備と太陽光発電により、「使うエネルギーと創るエネルギーの収支が概ねゼロ」という状態を実現する高性能住宅のことです。政府は「2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」と目標を掲げ、補助金や住宅ローン控除制度での優遇措置などを整備。ZEHの普及を力強く推し進めています。

現在こそZEHの普及は注文戸建が中心で、建売戸建や集合住宅ではごく少数ですが、政府の計画通りに普及が進めば、今後10年で多くの住宅がZEH、またはそれに近い性能で建つことになります。そうした”新築高性能住宅”と将来、入居者獲得競争をすると考えれば、建て替え時に断熱性能を重視することはむしろ必要な戦略と言えるでしょう。

なお、環境省は「既存住宅における断熱リフォーム支援事業」という補助金事業を令和4年度も実施予定。戸当たり最大15万円の補助を受けながら「断熱空室対策」を検討できます。また、ZEHの集合住宅版であるZEH-M(ゼッチ・マンション)にも補助金制度は用意されており、3階までなら戸あたり40万円、4階以上なら必要経費の1/3の補助があります(※)。直近の差別化戦略として、また先を見越した訴求力維持の戦略として、入居者の「住み心地」にフォーカスした建築企画を検討してみてはいかがでしょうか。


※ 環境省の令和4年度予算要求額であり、変更される可能性があります。

2022年03月23日

脱・不人気!「 一階物件のメリット」に学ぶ

何かと敬遠されがちな1階物件、今年の春も苦戦を強いられたケースは多かったのではないでしょうか。「不動産のプロが選ぶ!『1階物件のメリット』ランキング」から改善のヒントを探ってみましょう。


出典:「不動産のプロが選ぶ!『1階物件のメリット』ランキング」
    アットホーム株式会社

このランキングの特徴は、回答が「不動産のプロの声」である点。つまり、不動産会社が内見のお客様に伝えている「営業トーク」そのものとも言えます。ということは、その営業トークをしやすくする改善が1階物件成約の近道に。ランキングの中では次の2点が手をつけやすそうです。

●移動や荷物の搬入を楽に(ランキング2位)

階段等を使わない1階は、移動が困難な人や荷物の出し入れが負担となる人にはとても便利です。よって、まずは重要なターゲットとなる高齢者や障がい者向けに、段差をスロープで解消したり、手すりをつけたりといった「バリアフリー化」の検討を。駐車場やエントランスからの動線もフラットにできるとアピールになります。

また、室内に自転車を持ち込みたいロードバイクユーザーや、大ぶりなアイテムの搬入出が多いアウトドア好きなど、年齢ではなくコンセプト重視での改装も検討できそうです。

●物件によっては専用庭あり(ランキング4位)

専用庭は重要な訴求ポイントですが、雑草だらけで暗くジメジメしていたり、外から丸見えだったりでは、「お庭があって便利」と言われても活用方法が思いつかないでしょう。

お庭をプラスに見せたいなら、重視すべきは清潔感と視線カット。まずは雑草をしっかり抜き、防草処理をして砂利等を敷き詰め、清潔感のある庭に。さらに、消防法に配慮しながらラティス等で周囲からの目隠しができれば「庭を使ってみたい」と思ってもらいやすくなります。ガーデニングへと誘導したい場合は、雑草だらけの庭に戻らないよう花壇ゾーンを設けて区分けするのがオススメです。

2022年03月06日

経営者として要点チェック、税制改正ダイジェスト

令和4年(2022年)度の税制改正が発表され、不動産関連では「住宅ローン控除」の改正が話題です。超低金利下での逆ザヤが考慮された控除率の1.0%から0.7%への引き下げ、控除期間の原則13年間への延長、所得上限の2000万円への引き下げ、省エネ住宅への優遇制度などの変更が加わりました。ここではその他、賃貸経営者に影響しそうな改正内容をダイジェストでお知らせします。

▶固定資産税の据え置き特例終了

2021年の固定資産税は、地価高騰時(2020年1月)の課税評価と、直後のコロナ禍による地価下落とのギャップが考慮され、前年より税額が上がってしまう場合には前年の税額に据え置かれるというコロナ特例が設けられていました。

しかし、今回の税制改正大網では、住宅地におけるこの特例は延長されず終了することに。コロナ騒動の直前まで地価が上昇トレンドにあった地域では、ご自宅やアパートの固定資産税が上がる可能性があります。


▶不動産取得税等の軽減措置は延長

住宅の売買につきものの登録免許税、不動産取得税、印紙税の軽減措置は、現状のまま2024年3月末まで延長されます。省エネ住宅への優遇措置も2025年3月末まで延長です。

▶住宅取得等資金の贈与、非課税限度額縮小

2021年末で終了予定だった同非課税特例も2年間延長となりました。しかし、非課税限度額は500万円引き下げられ、省エネ住宅等で1000万円、それ以外の住宅で500万円までとなります。成人年齢の引き下げに伴い、贈与を受けられる年齢も18歳からに変更です。

▶相続・贈与の一体的課税は見送り

最も注目されていた「暦年贈与廃止」の是非については、今回見送りとなりました。しかし、国としては相続と贈与を一体的に課税する方向で議論を進めており、近年中に何らかの改正はあるものと見られます。引き続き動向を注視するとともに、早めの相続対策や生前贈与の検討を進めるべきでしょう。

2022年02月28日

成人年齢引き下げ、賃貸経営への影響は?今こそ考えたい 若者の賃貸トラブル


民法改正により、4月1日から成人年齢が18歳へと引き下げられます。今後、18歳を迎えた若者は、親の同意を得ることなく携帯電話やクレジットカードなどさまざまな契約を単独で有効に結べるようになりますが、その中にはお部屋を借りる際の賃貸借契約も含まれます。賃貸経営者として知っておくべき点をまとめました。

【成人年齢引き下げはどうして?】

日本で成人年齢が20歳と定められたのは1876(明治9)年、今から146年も前のこと。それが今になって変更される理由のひとつは「国際社会と歩調を合わせるため」と言われています。

法務省の調査によれば、海外では1960年代から成人年齢引き下げについての議論が活発化。先駆けとなったのはイギリスで、1969年に21歳から18歳への引き下げが実施されて以降、ヨーロッパ諸国やアメリカ各州で次々と成人年齢が18歳へと変更されました。OECD(経済協力開発機構)の加盟38か国においても、現在では成人年齢を18歳と定めている国が圧倒的多数であり、日本はようやく「国際標準」に合わせたことになります。

また、少子高齢化による現役世代減少への対策としての効果も期待されます。各国の成人年齢変更運動も、大元に「若者の国政参加」を掲げたものが大半でしたが、若年層の減少の著しい現代日本においても、若者を早期に社会参加させることは重要課題。18・19歳の若者が自らの意思で人生を選択できる環境を整え、政治や経済への積極的な参加を促すことは、活力ある日本社会を形成するために不可欠な施策なのです。


【子ども名義で契約時「親権者同意書」不要に】

一方で、この変更が賃貸業界に与える影響はというと、実は非常に限定的です。既に「未成年者が契約者となって部屋を借りる」ことが当たり前に行われている以上、目に見える変化は「親権者同意書」が18歳以上で不要となることくらいでしょう。

親権者同意書とは、未成年者との契約行為に親権者の同意があったことを証明する書類です。民法は、未成年者が親権者の同意を得ずにした契約は原則として取り消せると定めているため、後になって契約取り消し・賃料等の全額返金…といったことが起こらないよう、契約時に同意書を作成するのです(親権者を契約者とすることで同様の事態を避ける方法もとられます)。今後は学生入居でも大半が18歳以上となるため、同意書を作成する機会は少なくなりそうです。

【知っておきたい若者特有の賃貸トラブル】

さて、以上のような経緯から、4月以降は「オトナ」の入居が増えるわけですが、やはり18歳は18歳。若者特有の軽はずみな行動で問題を起こしたり、犯罪等に巻き込まれたりといったケースが減るわけではありません。また、お酒やたばこは引き続き20歳からの制限のため、これらに起因するトラブルには厳しい注意も必要。特に4~5月は入居直後でトラブルも頻発傾向にあり、管理会社と二人三脚での対策が欠かせません。

《若者の賃貸トラブルケース》

〈ケース1.無自覚の「騒音トラブル」〉

今も昔も若者は騒がしいものですが、近年増えているのが「大音量で流す音楽・動画」の騒音クレームです。YouTubeやNetflix等で視聴する動画のほか、コロナ禍でのオンライン講義の音もたびたび苦情の原因となっています。

特徴的なのは、本人に大きな音を出している自覚がないことが多い点です。無自覚である理由のひとつが、彼らの育ってきた住環境。2000年4月の「住宅性能表示制度」の開始以降、戸建や分譲マンションの性能は急激に向上しています。遮音性の高い住宅で育った彼らとしては、古アパートでも「まさか隣に音が漏れるなんて」という感覚なのです。

最近では、室内で配信動画を見ながら運動するオンラインフィットネスや、オンラインゲームをしながら通話するボイスチャットなど、新たな騒音源も登場。あらかじめ音が響きやすいことを知らせたり、ヘッドホンを使用するよう指導することも必要です。


〈ケース2.無知による「契約トラブル」〉

電気・水道などライフラインの知識に乏しく、入居後に「電気が使えない」などの苦情が入るケースも増えた印象です。インターネット無料物件のように光熱費も家賃に含まれていると思っていた、なんて入居者もいるため、苦情時は設備故障だけでなく「未契約」「料金滞納」も疑う必要があります。

また、契約関連で心配なのが押し売り・悪徳商法などの被害です。これまでも無知に付け込まれる若者は多くいましたが、4月以降、18歳の「成人」は「未成年を理由とした契約取り消し」ができません。最近はトイレ詰まり等の対応だけで数十万円を請求する悪質水道業者の被害も問題化しており、設備故障時の連絡先を明示するなどの対策が重要。押し売り対策には、モニター付きインターホン等の自衛手段を提供するのも有効でしょう。

〈ケース3.無警戒からの「SNS犯罪」〉

近年はITの発達により、過去にはなかった犯罪被害が増加。中でも注意したいのが、TwitterやFacebook等のSNSを介した犯罪です。SNSでの交流がきっかけとなった誘拐被害や、投稿した写真から場所を特定されるストーカー被害など事例はさまざま。予防策として防犯カメラや簡易ホームセキュリティを導入すれば、被害抑止だけでなく入居満足度の向上にも役立ちそうです。


若者トラブルの多くは一般常識や経験の不足が原因となる以上、入居前や入居直後など、何かが起こる前に「知らせる」ことが何よりも大切。管理会社と一緒に、賃貸住宅に住むうえでのマナーやリスクをまとめた「入居のしおり」を作成するのもいいでしょう。

見方を変えれば、18歳の若者たちは国の都合で急きょ新成人となるわけです。賃貸経営者ならではのフォローをしつつ、大人の先輩として彼らを上手に守り、導けるといいですね。

2022年02月16日

早めの値下げの損・得は?空室対策としての「賃料減額」判断基準


春の引越しシーズンも、いよいよ大詰め。特にコロナによって学生需要の戻りが鈍いエリアでは、この3月が勝負どころです。時間的猶予がない場合には、「賃料減額」も視野に入れるべきかもしれません。

☑最大のメリットは即効性

賃料を減額する最大のメリットは、やはり「早期に入居者を見つけられること」です。理想はもちろん、人気設備の導入等で物件の価値を高め、賃料を維持しながら新規入居者を獲得することですが、十分な予算や時間が確保できない中で効果的な対策を施すのは簡単ではありません。

その点、賃料減額は万人に対して効果が期待できるうえ、工事期間等もなく即時に告知しアピールを開始できます。現賃料で空室の長期化が予想されるような物件では、減額によって空室期間を圧縮することで、トータルの収支を安定させる効果も見込めます。

☑リスクを見越した事前対策が不可欠

強力な空室解消力を誇る賃料減額ですが、その一方で気になるのは効果の高さゆえのリスクです。賃料収入の減少はもちろん、それ以外にも次のようなリスクがあることを把握しておきましょう。

▶トラブル発生リスクの増大

賃料を下げるということは、申し込みがあった際の審査基準、特に収入面の審査を緩めざるを得ないということでもあります。必ずそうなるとは限りませんが、それによって家賃滞納やマナー問題などトラブルが増える傾向にあることも事実です。

▶他の部屋からの減額交渉

新規入居者が安い賃料で契約したと知れば、他の部屋が「うちも家賃を下げてくれ」と主張してくるのは自然な流れです。昨今はインターネットで簡単に募集情報を調べられるため、賃料減額交渉が発生するリスクは以前よりも増しています。

▶売却価格の下落リスク

収益不動産の価格は、年間の賃料収入を市場の利回りで割り戻す「収益還元法」で算出するのが主流です。つまり、賃料を下げると分子となる年間賃料収入も減り、物件価格自体も下がってしまうことになります。

 例)利回り8%のエリアで3,000円の減額をした場合…
   3,000円×12ヶ月÷8%=45万円の価格下落

数年以内に売却の予定がある場合などは賃料減額の影響が大きいため、敷金・礼金の免除やフリーレントの採用、募集広告費の増額等、「賃料を維持しつつ費用面で訴求する集客戦略」も検討したいものです。

☑減額目安は空室期間予測から算出

リスクを孕む賃料減額ですが、それでもメリット大、と判断できる場合には、「周辺の競合物件が減額を始める前」に、早急に手を打つべきです。減額の目安は次の計算式で速算できます。

賃料減額幅=
{(①予想空室期間-②理想空室期間)×現賃料}÷(解約発生周期-②理想空室期間)

※解約発生周期=1年÷(年間解約発生戸数÷総戸数)

①予想空室期間とは「このままだと現実となるだろう空室期間」、そして②理想空室期間とは「賃料を下げたからには実現したい空室期間」を指します。

仮に、解約発生周期が4年(48ヶ月)で賃料6万円の物件があり、「減額すれば2ヶ月で決まる、減額しなければ6ヶ月かかる」と予想できる場合、①予想空室期間は6ヶ月、②理想空室期間は2ヶ月と設定され、賃料減額幅は(6ヶ月-2ヶ月)×6万円÷(48ヶ月-2ヶ月)=5,217円と算出されます。つまり、賃料減額によって2ヶ月以内に決まると予測できるなら5,217円まで下げられる、5,217円未満の減額なら空室を6ヶ月つくるより収支はプラスになる、ということです。

賃貸経営者にとって、「できるだけ賃料は下げたくない」という気持ちは当然です。しかし、コロナ禍の出口はいまだ見えず、今年のシーズンも例年通りとは言い難い状況です。難しい判断ではありますが、場合によっては「損して得取れ」の戦略を採用し、経営基盤の早期安定化を図ることも検討していきましょう。

2022年02月08日

敷金返還要求が増加中 正しい原状回復精算のための原則と注意点


退去の増えるこの時期は原状回復トラブルがつきもの。加えて昨今は、敷金返還要求や負担分の支払い拒否を当然のように行なう賃借人が増えており、Twitter等のSNSでも「敷金を取り戻した」「原状回復費用を請求されたが払わずに済んだ」などの投稿が目立ちます。インターネット上を中心に、原状回復費用は取り戻せる・取り戻すべきという風潮が強まる傾向にあるようです。

確かに今は、ひと昔前のような「どんな修繕費も賃借人負担」といった精算は認められませんが、だからといって「賃貸人が全額負担」という主張も強引です。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下、原状回復ガイドライン)」をもとに、改めて基本を確認していきましょう。

■通常損耗は賃貸人 通常外の使用による損耗は賃借人負担

原状回復費用の負担割合を考える際、基本となるのが「通常の使用による損耗(以下、通常損耗)」と「賃借人の故意過失や善管注意義務違反、通常の使用を超えるような使用による損耗(以下、故意過失等による損耗)」という2つの損耗区分です。結論から言えば、通常損耗は賃貸人が、故意過失等による損耗は賃借人が、それぞれ費用負担するのが原状回復の大原則となります。

通常損耗とは、時間の経過によって発生する傷みで、例えば、畳や壁紙の日焼け、浴槽や便器の劣化、冷蔵庫の電気焼けや家具の設置跡など、通常の生活をしていれば発生しても致し方ない傷や汚れが該当します。一方、故意過失等による損耗とは、賃借人がわざと・うっかりつけた傷や、結露を放置する等の怠慢で生じた損傷、著しいタバコのヤニ、ペットによる汚れや臭いなど、通常の生活では発生し得ない傷や汚損が該当します。そして賃借人には、こうした通常使用外の損耗の復旧について「原状回復の義務」が課されます。契約時の同意もなく賃借人に通常損耗分まで負担させるのはご法度ですが、故意過失分については当然に請求ができるのです。

■故意過失でも耐用年数は考慮 全額請求は不可

ただし、賃借人の故意過失等による損耗でも、その復旧費用には法律で定められた「耐用年数」が考慮される点には注意が必要です。例えば、壁紙の耐用年数は6年間と定められていますが、これは「壁紙の価値は6年かけて徐々に失われ、6年後には価値を失う」ことを意味しており、3年後の壁紙の価値は本来の価値の50%、6年後の価値は0%(会計上は1円)になると考えなければなりません。そしてこの考え方は、賃借人の故意過失等による損耗の復旧費用にも反映させる必要があります。


たとえ過失で破られた壁紙の修繕費用が6万円でも、賃借人が3年間入居していた場合には、賃借人に請求できる費用は50%の3万円に留まります。同様に、6年以上住んでいた場合には0%となり、請求そのものができないのが原則です(※)。故意過失等による損耗だからと全額の請求を行なえば、それは「敷金返還請求」や「支払い拒否」のリスクとなってしまうのです。

※ 賃借人に重大な善管注意義務違反がある場合には、工事の人件費等の一部請求が認
  められるケースがあります。


■貸主も原状回復ガイドラインで「理論武装」を

近年では「敷金返還代行業者」といったものまで登場し、賃貸経営者には厄介な状況です。しかし、原状回復費用はルールに則って負担割合を定めるものであり、賃借人の不当な要求まで飲む必要はどこにもありません。賃貸経営者も原状回復ガイドラインを理解し理論武装をすることはもちろん、事前に管理会社と賃貸借契約書を見直したうえで、必要に応じて特約を設ける等、トラブルを未然に防ぐ方法を考えておきましょう。

2022年01月30日

短期決戦を勝ち抜く オンシーズンに間に合わせる空室対策5ステップ


今年も春の引っ越しシーズンを迎え、満室経営のチャンスが到来しました。年に一度の機会を逃さず確実に空室を埋めたいところですが、早いもので暦はもう2月。今からできる対策とその手順を確認しましょう。

【1】 ターゲットの見直しと拡大

この時期から4月の満室に間に合わせるなら、まず検討したいのが【募集ターゲットの拡大】です。特にコロナ禍のあおりを受けた学生・外国人向け物件は、ターゲットの見直しが必要なケースも多いはず。新たに高齢者、楽器演奏者、DIY希望者…などに募集の間口を広げれば、空室対策の選択肢にも幅が生まれます。小さなパイの奪い合いから値下げ合戦に巻き込まれ、結局は期間内に決まらない。そんな最悪のシナリオに陥らないよう、まずは多くの人に興味を持って見てもらえる可能性を高めましょう。

【2】新たな賃貸トレンドの採用で反響アップを狙う

個々の空室対策で留意したいのが【最近のトレンド】です。競合物件に見劣りしない最低限の設備を整えるのは当然として、反響獲得で一歩抜きん出るためには、入居者の注目を集めるトレンドの採用が不可欠。小さな工夫でもピンポイントで刺さる施策ならば効果大、短期で対応可能な施策例を紹介しましょう。

▶壁付けの折り畳みテーブル

コロナ関連のトレンドの中でも、自宅にテレワーク用スペースを求める声は、コロナ禍が明けた後も根強く残ると予想されます。

とはいえ、既存の間取りに新たにワークスペースを追加するのは難題です。そこでお勧めなのが【壁付け】できる折り畳み式のテーブル。設置にほとんどスペースを取らないうえに、入居者は「畳まれたテーブルを広げるだけ」で自由にプライベート空間と仕事場とを切り替えられます。キッチンまわりに取り付ければ、作業台や食事用テーブルとしても利用可。巣ごもり生活で増えた自炊派のニーズにも応えてくれそうです。

▶簡易防音室

大きくスペースを用意する対策としては、テレワークの快適性向上設備として、また自宅時間の充実アイテムとして注目を集めている【防音室】。近頃は工具不要の組み立て式簡易防音室も登場し、価格も10万円程度からとお手頃です。

在宅時間の増加とともに騒音トラブルが急増し、遮音性を求める声が高まっていますが、部屋全体の改良工事は大がかり。その点、組み立てるだけで完成する防音室なら短期決戦向きなうえ希少性も高く、反響獲得が期待できそうです。

▶高速インターネット

音と同様、コロナ禍で入居者が注目したのが【インターネットの速さ】です。ビデオ通話機能を用いたオンライン会議や商談、インターネットを使った映画鑑賞やゲームが一般化したことで、低速インターネットでは「仕事にならない」「楽しめない」という声が目立ち始めました。

インターネット無料物件が人気となって久しいですが、ワンランク上のストレスのないネット環境は周囲との差別化につながります。既に無料インターネットを導入済みなら、上位プランへの変更を検討しましょう。


【3】タイミングを逃さず賃料を適正化

設備投資の目途が立てば、次は【家賃の適正化】です。いくら設備を整えても、市場に比べて家賃が高すぎれば決まるものも決まりません。管理会社と相談し、エリアにおける適正賃料を探りましょう。

もちろん、SUUMOなどの不動産ポータルサイトから自力で市場調査をすることも可能ですが、注意したいのは、掲載されている家賃が必ずしも「成約賃料」ではないということ。契約の現場で数千円の家賃交渉が行なわれることは珍しくありません。競合物件の募集賃料を鵜呑みにせず、「実際に決まる適正賃料」を冷静に見極めたいものです。


【4】“賃料発生日対策”を特典として用意する

「決まる賃料」を設定したなら、成約を後押しするこの時期ならではの特典も用意したいところ。特に喜ばれるのは、実際の入居日までに発生してしまう【入居前家賃】の免除です。遠方から移住する学生などは、実際には住んでいない期間についても数万円の家賃を支払わなければなりません。そんな入居前家賃を免除する特典は、学生はもちろん、実際に支払いを担う親御さんからも高く評価されます。

それほど多くの反響が期待できない物件は、まずは「フリーレント〇ヶ月」で募集をして反響獲得を狙いましょう。反響が期待できる物件は、賃料発生日についての交渉条件を準備しておき、部屋を決める切り札として提示するといいでしょう。

【5】基本が重要。内見前の建物チェックを忘れずに

万全の準備を整えたなら、見逃したくないのが基本である【建物の美観】です。せっかく内見の機会が発生しても、肝心の物件が汚れていては契約を逃すことになりかねません。清掃の実施はもちろん、エントランスやごみ置き場、駐輪場など、内見者の目につきやすい共用部はきちんと整理しておきましょう。

また、内見者用にウェルカムセットを用意するのも一案です。寸法まで分かる詳細な間取り図やメジャーなどに加え、周辺の街情報を載せた「タウンマップ」を挟んであげれば、その部屋で暮らすイメージも湧きやすく、入居の後押しとなるでしょう。残された時間内でできる空室対策をしっかりと行ない、「満室の春」へとつなげていきましょう。

2022年01月20日

ワンポイント集客術 反響アップを狙う「ホームステージング」お手軽導入方法

空室を魅力的に見せる方法として認知度を高めている「ホームステージング」。からっぽのお部屋ではなく、家具や小物のディスプレイされたお部屋を見せることで、生活イメージと部屋の魅力とを感じてもらう取り組みです。ただ、この施策の最大のネックは、テーブルやソファといった大型家具を“見本”として用意しなければならないこと。費用も時間もないこの時期、お手軽に実現する方法はあるでしょうか。

【レンタル家具で募集用写真を撮影】

費用や時間を節減する代表的な方法といえばレンタルです。定番家具をセットでレンタルすれば、購入するより割安に、かつ選定の手間も少なく、成約後の家具の処分も気にせずにホームステージングが叶います。最近では、数時間の家具レンタルで写真撮影だけを行ない、その写真を募集広告に活用する“反響獲得策”としての利用も広まっています。

【家具不要のバーチャルステージング】

同様に、反響獲得策として新たに登場したのがバーチャルステージング。これは空室の写真に家具のCGをはめ込み、あたかも家具が置かれているかのような画像を作り出すことで、疑似的なホームステージングを実現させるというもの。生活イメージを伝えるアイテムとして活用します。

さらには、現地に行かずに内見ができるバーチャル内見(VR内見)の写真素材として、360度画像にCG家具を配置するという方法も。よりリアルに暮らしを想像できると内見者の反応は上々です。

■予算がなくても、入居中・内装工事中でも

かけられる費用がない、家具を調達・搬入する時間がない、部屋が家具を入れられる状態ではない。このような“ないないづくし”のお部屋でも、空室の写真さえあれば集客に活用できる点がバーチャルステージングのメリット。日本ホームステージング協会発表の『ホームステージング白書2020』によれば、ホームステージングで成約までの期間が短くなった、と回答した賃貸不動産会社は73.8%。コスト・技術の双方で進化するホームステージング、挑戦してみるのも面白そうです。

2022年01月05日

激動の2022年をどう戦う!? 賃貸経営を成功へと導く7つのキーワード


新年あけましておめでとうございます。コロナ禍の中でオリンピックが実施された昨年は、賃貸業界でも話題の尽きない一年でした。その中から2022年を成功へと導くキーワードをピックアップしましょう。

【賃貸住宅管理業法が施行 業界適正化に期待】

業界のビッグニュースは、やはり「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の施行です。業界適正化に向け大きな一歩が踏み出されたことは喜ばしい限り。同法は、管理戸数200戸以上の賃貸管理会社に国土交通大臣の登録を義務づけたほか、登録業者に「管理委託契約締結前の重要事項説明」や「財産の分割管理」などの業務上の義務を課し、賃貸住宅管理業という業態の基準と目指すべき業界の姿を示しました。

これを機に賃貸管理レベルの全国的な引き上げが期待されますが、一方で、貸し手側に対する入居者の要求が複雑化していく可能性も。これからは信頼に足る管理会社との二人三脚の経営が成功をつかむカギとなりそうです。

【アパート階段崩落 “則武問題”で問われる安心・安全】

2021年4月、東京都八王子市で築浅アパートの階段が崩落し、入居女性が死亡する痛ましい事故が起きました。原因は施工会社「則武地所」の施工不良でしたが、一方で、十分な点検やメンテナンスによって防げたかもしれない事故でもありました。

利回りの追求のため支出は少しでも抑えたいというのが多くの経営者の本音だと思いますが、入居者の安全を守ることもまた所有者の務め。もしメンテナンス不足で事故が起きれば、所有者責任を問われ賠償責任を負う恐れもあります。則武問題を「他山の石」として建物の安全にも気を配り、所有者も入居者も安心して暮らせる住まいづくりを心掛けたいものです。


【心理的瑕疵の告知一部不要に。高齢入居者獲得に光】

悩みの種だった事故物件の問題にも、大きな前進が見られました。国土交通省が10月、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し、心理的瑕疵に関する告知の要不要に具体的な線引きをしたのです。これにより、室内で起きた自然死や不慮の死、事故からおおむね3年が経過したものについては告知不要と定められ(ただし、社会的影響が大きい場合や質問・確認があった場合は隠さず告知する)、事故物件化のリスクが縮小しました。高齢化社会の賃貸ニーズを先取りして、高齢者ターゲットにチャレンジするチャンス到来です。

【ウッドショック・半導体不足 原油高で影響大】

昨年は原料費・物流費の世界的な高騰も話題となりました。その代表例が「ウッドショック」と「半導体ショック」。どちらもコロナの影響で需要と供給のバランスが崩れ、多くの産業で工期や納品の遅れが発生しています。

さらには、原油価格の上昇とともに壁紙や床材といった内装材も値上げに。壁紙国内最大手サンゲツやインテリア卸大手リリカラなどの値上げ発表は大きな衝撃でした。木材、電化製品に内装材まで値上がりすれば、当然ながら新築・リフォームにも影響が出ます。今年は特に「支出」と「納期」にフォーカスする必要がありそうです。


【業界のDX化進展 電子契約も本格化の見込み】

一方、コロナ禍は過去にない業界のIT化促進、さらにはDX(デジタル・トランスフォーメーション)をももたらしました。とりわけ賃貸仲介のWEB接客やバーチャル内見などの非対面接客は急速に浸透しました。

昨年のデジタル改革関連法の成立を受けて、今年の5月からは賃貸借契約における重要事項説明書や契約書の電子化も可能となります。ひょっとすると皆さまも、今年から自身のスマートフォンで電子契約をする機会が増えるかもしれませんね!

【不動産小口化商品 不動産STOに注目集まる】

不動産DX化とともに広がりを見せるのが、不動産の電子取引です。中でも人気は「不動産小口化商品」。そもそもは一口100万円程度に小口化された不動産を取引する商品で、アナログなものも多数存在するのですが、ITの活用によって一口1万円程度から・スマートフォンアプリで簡単に購入できる商品が登場。市場を賑わわせています。

また最近は、ブロックチェーンなどのデータ改ざん防止技術によって電子取引の安全性が高まったことから、不動産をデジタル証券化して株式のように売買する「不動産STO」という仕組みも登場。ITで不動産投資の可能性はどんどん広がっています。今年は手元の資金で少額から電子取引に挑戦してみるのも面白そうです。

【コロナ禍でペット可・DIY アウトドアに熱視線】

コロナ禍に伴う「巣ごもり需要」から、入居者ニーズにも大きな変化が見られました。中でもペット可物件・DIY賃貸が改めて脚光を浴びています。どちらも原状回復などの運用面で注意が必要ですが、引き続き需要の拡大が期待されるため取り組むにはいいタイミングでしょう。

また、ソロキャンプ人気に自粛の反動もプラスされてか、入居者の自然志向・郊外志向も見られます。投資家の動きも、キャンプ用の山林購入という思い切ったものから、所有物件に「ベランピング(ベランダ+キャンピング)」の要素を取り入れるなどの展開を見せています。入居者のライフスタイルの変化は、いち早く取り入れたいところです。


実に変化に富んだ2021年の「余波」は、2022年の賃貸市場も大きく揺るがしそうです。特に入居者ニーズの変化にはアンテナを立てて情報収集を欠かさず、管理会社と協力しながら時代の波を乗り越えていきましょう。

2022年01月01日

普及間近!「顔認証」で住宅セキュリティはどう変わる?

AIやコンピューターに「顔」で個人を識別させ、本人認証を行なう「顔認証」システム。近年はスマートフォンやPCのロック解除手段として普及してきたほか、商業施設の入退店管理などにも採用されるようになり、日常の中で顔認証に触れる機会も増えてきました。

そして、いよいよその技術は「住まい」領域へ。顔認証による解錠機能を備えた”スマートドア”や、共用玄関に顔認証セキュリティを採用した集合住宅の企画は、すでに現実に登場し始めています。賃貸住宅に顔認証が採用される世界を少しだけ想像してみましょう。

【鍵から解放される魅力】

賃貸住宅への顔認証採用によってまず叶うのは、「鍵」というものを意識せずに済む、近未来的で便利な生活の提供です。入居者は鍵を持つ必要も、何かに触れる必要もなく、ただセンサーに顔を認識させるだけで共用エントランスや玄関ドアを解錠できるようになります。もちろん似たような機能は、スマートフォンで鍵を操作する現行のスマートロックでも叶えられますが、スマートフォンの携帯すら必要ない顔認証が普及すれば、さらに便利で安心になります。

【内見の効率化】

顔が鍵の代わりになるなら、内見時における仲介業者との鍵のやりとりも不要になります。馴染みの不動産会社担当者の顔を登録したら、あとは内見の日に合わせてPCなどから解錠許可を設定するだけ。自主管理の方はもちろん、管理会社にも嬉しい機能です。

【セキュリティ向上】

本人の顔でないと解錠できないとなれば、鍵の紛失・盗難に伴う”なりすまし侵入“のリスクも大幅に減らせます。運用によっては、ストーカー等の特定人物を検知したら自動で緊急連絡を行なう、といったセキュリティの仕組みも構築できるでしょう。いずれは、警察や行政とデータベースを共有するサービスが登場し、指名手配犯の入居を顔認証が防いでくれる…、そんな未来も来るかもしれません!

2021年12月21日

減価償却はいつまで?リスク指針「デッドクロス」の仕組みと対策


今年も確定申告の時期がやってきました。1年間の経営を振り返りつつ経費データをまとめていると、ふと頭を過ぎるのが「デッドクロス」という言葉。聞いたことはあるけど意味は知らない、詳しくないけどなんとなく怖い…という方も多いのではないでしょうか。

デッドクロスとは、「減価償却費をローンの元金返済額が上回ってしまう状態」のこと。噛み砕いて言うなら、「支出を伴わない経費が減ったせいで課税所得が増え、高くなった税金と経費にならない返済とのダブルパンチで経営が苦しくなってしまう状態」です。

【デッドクロスの要因1 減価償却費とは】

デッドクロスを理解するには、まず「減価償却」を知る必要があります。減価償却とは、建物や設備など相当の長期にわたって価値が持続する資産に定められた、経費の分割計上のルールのこと。アパートやマンションの建物取得費用も一括で経費計上することはできず、用途・構造によって細かく定められた耐用年数・償却率に従って、毎年分割で計上することになります。(※)

仮に、建物価値3000万円の木造アパートを新築で取得すると、その償却率は0.046。つまり、3000万円×0.046=138万円を、22年にわたって毎年経費計上することになります。逆に言えば、これは「23年目からは138万円もの経費がゼロになってしまう」ことを指しており、多くのローンを用いた投資がこのタイミングで「デッドクロス」を迎え、納税額が大きく上昇することになります。


※定率法による減価償却費算定は2016年3月31日で廃止。
4月1日以降に取得した建物および附属設備は定額法にて算出

【デッドクロスの要因2 ローンの元金と元利均等返済】

もうひとつの要素がローン返済の元金です。特に、返済方法に「元利均等返済」を選択している場合には、「減価償却費を元金返済額が上回る」という状態が起こりやすくなります。なぜなら元利均等返済は、期間の経過とともに徐々に元金の返済額が増え、徐々に支払金利(経費)が減る仕組み。デッドクロスを図らずも後押している返済方法といえます。


【予測可能なデッドクロスの対応策】

「経費が減って税金が増えて、手元にお金が残らない」という状況こそ、デッドクロスの正体ですが、しかしこの状況が決定的な事業の失敗や破綻を意味するのかというと、そうではありません。耐用年数22年の木造アパートを30年ローンで購入すれば、減価償却の終わる23年目にデッドクロスが起こるのは必然。ローン利用の物件で起こる予測可能な現象なので、納税額アップに備えて十分なキャッシュフローを確保できていれば、ショックを吸収することは可能です。

そして予測できる故に、大事なのはいずれ訪れるその時に向けた準備と計画です。王道は、手残りが潤沢なうちにお金を貯めておくこと。蓄えがあれば、税金増加分への充当はもちろん、繰上返済をして元金そのものを減らし、デッドクロスを「遠ざける」という選択肢も取れます。遠ざける戦略としては、経費化できる支出を徹底的に計上し、経費側に余力をつくっておくことも重要です。

そのほか物件の買い増しや、そもそも当該物件を売却してしまうなど、さまざまなデッドクロス対応策が考えられます。まずは減価償却の期間、ローンの元金返済からデッドクロスを予測し、専門家の意見も交えながら、賃貸経営の将来像を描いてみましょう。

2021年12月02日

コロナ禍明けとオンシーズン同時到来か 入居者が気になる「防犯」設備で効率的な空室対策を


何かと留守にしがちな年末年始は、空き巣被害も増加しがち。とりわけ今年はコロナ禍が落ち着き始めたことで、昨年末よりも多くの帰省・旅行が見込まれることから、留守中の防犯対策に一層の注意が呼びかけられています。

一方で、賃貸住宅のセキュリティ強化は、近年では王道の空室対策。年末年始の防犯、そして年明けからのオンシーズンを見据えて、防犯設備の強化はいかがでしょうか。

Q.新型コロナウイルスが収束したら旅行に行きたいですか。
 ■これまで以上に行きたい(23.3%)
 ■これまでと同程度、行きたい(48.1%)
 ■これまでのようには行きたくない
  (旅行頻度、回数を減らしたい)(4.6%)
 ■全く行きたくない(2.6%)
 ■新型コロナウイルスが流行する
  以前にもあまりしていない(10.5%)
 ■わからない(11%)


JTBF旅行実態調査「新型コロナウイルス感染症
流行下の日本人旅行者の動向」(2021)

★基本1:共用部の出入り口を固める!

警察庁の発表によれば、空き巣の侵入経路の大半は「無施錠のドア」と「ガラス破り」とのこと。つまり、各戸のドアや窓に近づかせないことの徹底が、物件の防犯力を手っ取り早く高めるためのコツということです。

まずは物件の顔とも言える共用部の出入り口を固めましょう。しっかりと対策の施された玄関や共用廊下は、内見者の第一印象に良い影響を与えられる一方、良からぬことを企む不審者には強力な牽制となります。

【オートロック】

防犯対策としてはもちろん、空室対策の面からもぜひ検討したいのが「オートロック」です。SUUMOやHOME'Sなど、不動産ポータルサイトで部屋探しをする際の検索条件として圧倒的な人気を誇るため、導入すれば反響アップが見込めます。ネックは施工の規模と費用ですが、そのぶん物件の安心感やグレード感も高くなり、長期入居にも好影響。賃料アップ効果も期待できます。

【防犯カメラ】

エントランスのない物件では、オートロックの導入は難しいものです。そこで検討したいのが「防犯カメラ」。容易に侵入できてしまう開放廊下でも、カメラで監視されているとあれば不審者も簡単には近づけませんし、カメラの存在そのものが内見者・入居者に安心感をもたらします。最近ではインターネット回線を利用する「ネットワークカメラ」で安価に導入することも可能に。また、ダミーのカメラを設置するだけでも、威嚇効果が期待できます。

【センサーライト】

夜間の防犯に活躍してくれるのが「センサーライト」です。近づくものに反応して明るくなるので存在や効果が分かりやすく、便利で入居者満足度の向上に効果的。ポータルサイトの検索項目には含まれないものの、アプローチや建物外周部などに設置すれば安心感も増すでしょう。設置コストもお手頃です。

共用部の対策のポイントは、とにかく不審者を近づけさせず、建物内に入りにくい印象を与えること。その点では、警備会社と連携する「ホームセキュリティ」の導入も効果大。コストの問題を解決できれば、防犯・集客どちらの面でも力強い味方となってくれそうです。

★基本2:各戸の出入り口を固める!

空き巣の侵入によって実際に被害を受けるのはそれぞれのお部屋である以上、各戸単位での玄関や窓に対する防犯対策は欠かせません。十分な対策の施されたお部屋であれば、内見時の印象も変わってくるものです。

【テレビモニター付きインターホン】

「テレビモニター付きインターホン」は、入居者が室内から外の様子や訪問者の顔を確認できるため、不審人物から自衛するための基本設備と言えます。入居者ニーズも高く、全国賃貸住宅新聞が実施した2021年「この設備がなければ決まらない」ランキングでは、単身者向け2位・ファミリー向け1位。セキュリティ重視で空室対策をするなら、まずは備えておきたい設備です。

【電子錠】

ICカードや暗証番号などで玄関ドアを解錠できる「電子錠」なら、防犯対策にも空室対策にも効果的です。ピッキングに強いことはもちろん、電子錠でドアを開けるという体験が内見客にとって新鮮であるほど、物件への好感度アップが期待できます。 また近年は、スマートフォンで鍵を操作できる「スマートロック」も多くの商品が登場しています。いつでも鍵の開閉を確認でき、遠隔での施錠もできるほか、家族や友人に簡単に合鍵を渡せたり、誰が鍵を開けたかの履歴も残せたりと、豊富な機能で快適な鍵管理をサポートします。


【窓用スマートセンサー】

近年、お部屋のセキュリティを向上させる設備として注目を集めているのが「窓用スマートセンサー」です。センサーが窓の振動や開閉を感知すると、入居者のスマートフォンにすぐさま通知を飛ばしてくれます。中には、侵入を感知すると大音量のアラームを鳴らす機能を持った、空き巣撃退に一役買ってくれそうなモデルも。配線工事のいらない電池式なら簡単に設置できる点も魅力です。


そのほか定番の防犯設備としては、ピッキングなどのドア錠破りに備える「ディンプルキー」や「ダブルロック」、窓からの侵入を防ぐ「防犯フィルム」や「補助錠」など。これらは防犯効果がある一方で目立ちにくいため、設置と同時に内見者へのアピールにも気を配りたいものです。

★空き巣だけじゃない! 物件を犯罪から守るために

ひと口に防犯対策と言っても、残念ながら集合住宅で発生する犯罪は空き巣だけとは限りません。共用スペースにも状況によっては、個人情報を守るための「盗難防止機能の付いた郵便受け」や駐輪場の「自転車盗難防止用フック」などの対策が必要となります。

とはいえ、この年の瀬に優先したいのは、集客力と安全確保、双方のバランスのとれた防犯対策。管理会社と相談しながら、ぜひ早めの対策をご検討ください。

2021年11月24日

e-Tax、電子取引領収書のデータ保存、脱ハンコ… 行政デジタル化の波で確定申告が変わる!


2021年の大きな出来事のひとつといえば、5月に成立した「デジタル改革関連法」。成立に伴い内閣府内にはデジタル庁が新設されたほか、各種行政手続きや法令におけるアナログな制限についてもさまざまなデジタル改革が行なわれています。 そしてその改変は、間もなくやってくる「確定申告」にも例外なく及んでいます。デジタル化の影響を確認しましょう。

【国策としてe-Tax奨励。会計上のメリットも】

確定申告に関わるデジタル化の代表は、なんといってもインターネット経由で手続きができる国税電子申告・納税システム「e-Tax」でしょう。すでに2020年分からは、「e-Taxで申告しないと損!」とも言えるような改正も行なわれ、また、手元のスマートフォンから電子申告ができる仕組みも整備されるなど、大々的なデジタル化推進が行なわれています。

e-Taxによる申告に必要となるのは、基本的に[パソコン] [インターネット環境] [マイナンバーカード][ICカードリーダー]の4点だけ。マイナンバーカードの発行には多少の時間がかかりますが、準備さえ整えられれば誰でもe-Taxのメリットを享受できます。

e-Taxを利用するメリット

1.自宅で確定申告

 税務署まで行く時間、長蛇の列に並ぶ時間を節約できます。

2.添付書類を省略可

 給与の源泉徴収票や保険料控除の証明書、医療費控除の領収書など、書面申告では添 付が必要な書類の提出がe-Taxでは省略できます。

3.還付がスピーディー

 書面申告では1ヶ月以上かかる税金還付が、e-Taxなら3週間程度で受けられます。

4.青色申告者は控除額が10万円増

 不動産経営が事業的規模(5棟10室以上)の方は青色申告をされているケースが多い と思いますが、e-Taxで青色申告を行なうと控除額の最高額を10万円増やすことがで きます。2019年までは最高38万円の基礎控除と最高65万円の青色申告特別控除によ る計103万円の控除が最大値でしたが、2020年分から制度が改正され、最高48万円の 基礎控除と最高65万円の“e-Tax限定”青色申告特別控除による計113万円の控除が最大 値に。書面の申告でも改正前と変わらず103万円までは控除できますが、e-Taxでの申 告より控除10万円分の損、とも言えます。

ちなみに今回の確定申告では、従来通りの書面申告でもデジタル化の波を実感できる場所があります。それは、書面からなくなった押印欄。「脱ハンコ」は行政のデジタル化加速の象徴ですね。

【電子取引の領収書データ等の保存も義務化に】

さらに、2022年1月1日から施行される「電子帳簿保存法」の改正では、インターネットショッピングなど「電子取引」でデータ受領した領収書等のデータ保存が義務化されます。これまでは紙に印刷して保存でよかったものが、データで受領した領収書等はPDFファイルなどのデータ形式で、かつデータ改ざん等が行なわれない環境で保存することが必須となりますので要注意です。

Amazonや楽天市場などでの買い物も「電子取引」ですし、クレジットカードの明細がオンラインの場合は「データ受領」です。身近な取引であっても、2023年2月の確定申告に向けてさっそく1月から対応する必要があります。紙で受領した領収書等は紙のままの保存が許されますが、更なるデジタル対応が求められていることは押さえておきましょう。

時代の変遷に伴う必然とはいえ、今後はデジタルの波が怒涛のように押し寄せます。最初は「特別なこと」「難しいこと」と感じるかもしれませんが、世間に取り残されないためにも、e-Taxへの挑戦などから少しずつ変化を受け入れていきましょう。

ところで、今年の申告の「特別なこと」といえば、コロナ禍に伴う給付金や助成金の申告。持続化給付金や休業要請協力金等の給付金は、一部を除いて原則「課税対象」です。収入として計上する必要がありますので、申告漏れにはご注意ください。

2021年11月17日

クイズ こんなときどうなる?「ワケあり相続」豆知識

離婚経験者同士の結婚も珍しいものでなくなった昨今の世情を映してか、2021年10月に行なわれた宅地建物取引士試験では、少し事情の込み入った「ワケあり相続」の問題が出題されたので、一緒に考えてみましょう。

Q.問題

Aには死亡した夫Bとの間に子Cがおり、Dには離婚した前妻Eとの間に子F及び子Gがいる。Fの親権はEが有し、Gの親権はDが有している。AとDが婚姻した後にDが令和3年7月1日に死亡した場合における法定相続分は、民法の規定によればどうなるか。
(実際に出題された問題(一部改変))


A.解説と回答

問題文になるとややこしく感じますが、離婚が関係する相続のポイントは3つです。
・配偶者は離婚した時点で相続人でなくなる
・配偶者の連れ子は相続人にならない
・離婚時に親権を手放しても実子は相続人
 (親権は関係ない)

まず、前妻Eは離婚した時点で相続人から外れます。また、妻Aの連れ子であるCも相続には無関係。残った妻Aは当然に相続人として、悩むのはEと親権を分けた実子FとG。ですが、「相続に親権は関係ない」ので、FとGは2人とも相続人となります。よって、相続人はA・F・Gの3人、法定相続分は妻が半分、残りの半分を子らで等分ということで、Aが2分の1、Fが4分の1、Gが4分の1、となるわけです。

【受験者からは「昼ドラ」の声。避けたい相続の泥沼化】

さて、ここで想像しておきたいのは、この相関図の生み出す昼ドラのような実際の相続の現場です。たとえば、F・Gへの相続。本人Dは「実の子に財産を渡す」ことに抵抗感も薄いかもしれませんが、実際の遺産分割協議は本人の死後、自分のいない場で行なわれることになります。ましてや、Fが未成年の場合には、相続には親権者たる前妻Eの同意が必要。元妻と現妻が、自分や子の受け取る財産をめぐって冷静に話し合えるかどうか…。遺言をはじめとした生前対策の重要性を改めて認識させられる問題、くれぐれも相続の準備はお早めに。

2021年11月06日

人気設備ランキングをどう活かす?ニーズに応え「プラスα」で差をつける空室対策


毎年恒例、全国賃貸住宅新聞社による「人気設備ランキング」の2021年版が発表されました。大方の予想通り、「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても決まる」ランキングで独走を続けるのは、インターネット無料。宅配ボックス、エントランスのオートロックがこれに追随。もはやインターネットと宅配対応は、必須設備となりました。

こうした人気設備は空室対策の強い武器。しかし、多くの競合物件が導入する設備でもあるため、「せっかく導入したのに横並び」となることも少なくありません。そこで今回はランキングの確認とともに、「人気設備プラスα(アルファ)」で、設備の組み合わせによる競合物件との差別化を考えてみましょう。

■コロナ禍ニーズを捉えた設備の追加

まず注目したいのは、人々の生活スタイルを大きく変えたコロナ禍。自粛生活の中で変化したニーズに応える設備を、ランキング内の人気設備に「プラス」してみてはいかがでしょうか。例えば、非接触でのやりとりを叶える「宅配ボックス❷❸❼」「テレビモニター付きインターホン❷❶」に加えて、空気清浄機能つきエアコンや空気清浄機を設置できれば、安心感から入居者の心を掴めるかもしれません。

また、巣ごもりで高まったDIYブームに応え、入居者が手を加えてもいいDIY可能な壁を設けたり、そこまで本格的でない入居者向けにピクチャーレール、有孔ボード、マグネット対応の壁シートなどを施工して、壁に自分好みのアイテムを取り付けられるようにするのも手。それほどコストも掛からないので手軽に導入できる設備です。

■家事負担を減らす「家事ラク設備」

夫婦共働きも多数派となった現代。ランキング常連「システムキッチン❼❹❼」などの生活設備に、「入居者の家事負担を減らせるひと工夫」を加えるのも面白そうです。

例えば、キッチン周りなら食器洗い乾燥機。最近は後付けの卓上設置型もスリムタイプが多く登場しており、ファミリー・単身ともに十分訴求できそうです。また、「浴室換気乾燥機❺❻❿」が人気である一方、ファミリーでは浴室だけだと洗濯物を干し切れない、という悩みも。室内物干しをプラスして、増加している部屋干しニーズに応えるお部屋にするのも一案です。

そのほか、流行りの家事ラクアイテムといえば、ロボット掃除機やコードレス掃除機。これらを部屋の設備として用意するかは別にしても、「掃除機の充電スペース」を求める入居者は増えています。コンセントの増設や設置位置再考も、家事ラクのアピールになるかもしれません。

■プラスα! 次世代の暮らし「スマートホーム」

今年は初集計「高速インターネット❹❽❾」の存在感も衝撃でした。「インターネット無料❶❶❸❻」を一歩進め、スマートホーム化で差別化を図るのも手かもしれません。

スマートホームとは、インターネット回線に接続されたさまざまな機器やセンサーによって、近未来的かつ快適な生活を送れるお部屋のこと。スマートフォンやスマートスピーカーからあらゆる機器を操作できるため、例えば「帰宅前にスマホからエアコンをつけて適温にしておく」「玄関でただいま、と言うだけで必要な家電がすべて起動する」といった、多くの人が憧れるハイテク生活を叶えることができます。

インターネット無料をWi-Fiで提供していれば、以下のように目的に合う専用機器を用意するだけなので、比較的導入もしやすいでしょう。


「周辺相場より家賃が高くても決まる」ランキング… 単身❶~❿ファミリー❶~❿
「この設備がなければ決まらない」ランキング… 単身❶~❿ファミリー❶~❿

【スマートリモコン】…スマートホーム化を手軽に叶えられる、言うなれば、「赤外線リモコンで操作する家電ならなんでも動かせる総合リモコン」です。これ1台をインターネットに接続すれば、一般的なテレビやエアコンも室内外を問わずどこからでもスマートフォン等で操作できるようになります。

【スマートロック】…スマートフォンで操作できる玄関錠です。外出先からも施錠できるうえ、製品によってはオートロック機能や指紋認証・顔認証の機能もあり、防犯面でも優れもの。低コストで始めるなら鍵交換のいらない後付けタイプがいいでしょう。

【スマートドアホン】…インターネットに接続可能なテレビモニター付きインターホンです。インターホンが撮影する映像・音声をスマートフォンで確認できるので、外出先でも来客対応が可能に。モーションセンサーを搭載し、ちょっとした防犯カメラのように使えるモデルも登場しています。

空室対策のポイントは、お部屋の「総合力」を如何にして上げるか。管理会社と相談しながら、お部屋に価値をプラスするのに有効な設備の組み合わせを探してみてください。

2021年10月26日

お悩みQ&A Q.ルール違反のごみ、中身のチェックは可能?

アパート・マンションでトラブルになりやすいのが、ごみ出しのルール違反。分別や曜日のルールを守らない入居者がいると、ごみが回収されないばかりか、放置されたごみが害虫や害獣、新たなごみを呼ぶことになり、あっという間にごみ集積所の環境が悪化します。

賃貸経営者や管理会社としては、ルール違反者を早急に見つけ出して是正したいところです。しかし、【ごみ】とはいえプライバシーに関わるその中身を勝手に調査してもいいのでしょうか?

A:他者の利益を守るためならOK。ただし、得た情報の扱いは慎重に

結論からいうと、住みやすい環境を守るためであれば、貸主側が入居者のごみを調査することは可能です。そもそもごみは、ごみとして出された時点で所有権が放棄されたものと見なされます。また、ごみの調査には住環境を整備して、ほかの入居者の利益を守るという正当な理由があります。悪臭や汚れの原因をつくっている捨て主を特定し、ごみ出しのルールを守るよう注意や指導を行なうことは、入居者の暮らしを守る賃貸経営者や管理会社の義務と言ってもいいでしょう。

ただし、「ルール違反を正すため」という目的を大きく逸脱した調査および調査結果の使用は控えてください。例えば、捨て主が特定できたからといって、氏名や号室、監視カメラの映像等を不特定多数の人に公開するなどの行為はNG。私的制裁の意味合いの強い行動には、正当な理由があると見なされません。あくまで調査は、捨て主への指導と住環境改善を目的に慎重に行ないます。

あらかじめ共用部や入居のしおり等に「ルールの守られていないごみは、捨て主を確認するために中身の調査を行なうことがあります」と明記し、注意喚起をすることで抑止効果も生まれ、調査もスムーズに進みます。

とはいえ、あまりに熱心な調査は「監視されているようで気分が悪い」といった入居者クレームにもつながりますので要注意。ごみ問題は、適切なタイミング・短期決戦での解決を心がけましょう。

2021年10月13日

税制に変化の兆し!?相続対策の定番、生前贈与はお早めに


いよいよ年末の足音が聞こえてきました。毎年12月は税制改正大綱が発表されますが、令和3年度の大綱(2020年12月10日発表)の内容は、「暦年贈与が廃止されるのでは!?」との情報もあり注目されていたことはご存じでしょうか。

もし廃止となれば、今後の相続対策に影響が出ることは必至。今のうちにできる対策を知ったうえで、少しでも早く行動開始するのが良さそうです。

【非課税贈与の基本、暦年課税制度にメス!?】

日本の贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額に応じて課税される「暦年課税方式」によって課されます。ただし、この制度には年間110万円の基礎控除が用意されているため、年間110万円以下であれば非課税での贈与が可能。控除枠を活かし、毎年少しずつ非課税で贈与していく「暦年贈与」は、相続対策の基本として活用されてきました。

あえて「非課税」を許容してきた背景には、塩漬けになっている父母・祖父母世代の財産を流動させ、日本経済の活性化につなげたいという国の思惑があります。しかし、近年は後述の「結婚・子育て資金の一括贈与」「教育資金の一括贈与」といった特例も含め、非課税枠が本来の目的と異なる「節税策」として利用されるケースが目立つ状態に。「富裕層への優遇策だ」という批判の声も高まり、特例適用のルールも年々厳格化傾向です。

そして、令和3年度税制改正大綱には、今すぐの改正こそなかったものの、「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、(中略)暦年課税制度の在り方を見直すなど、(中略)本格的な検討を進める」と明記されました。ついに暦年贈与廃止の噂の飛び交う事態となったわけです。

【改正は何年後? できる対策は今年のうちに】

いきなりの暦年贈与廃止は、社会のインパクトが大きすぎるため非現実的です。しかし、これまでの流れからも「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税」という検討は進みそうです。例えば、現在の日本の税制下では、相続発生3年以内の贈与は、相続税の扱いとなって110万円控除の対象外(暦年贈与の対象外)となりますが、同様の制度をイギリスは7年、フランスは15年、アメリカは無期限で運用しています。日本が現在3年である期間を5年、10年へと延長することは十分あり得る話です。

加えて、昨今はさまざまな場面で富裕層に対しての課税強化の風潮が見られます。賃貸経営者としては現行制度下で、どれだけ早めの対策を打っておけるかが将来の相続財産額を左右しそうです。生前贈与による節税を考えている方は、少しでも早いスタートを検討するとともに、年内駆け込みでできる対策は今年のうちに始めておきましょう。

●住宅取得等資金の贈与(2021年12月31日まで、次年度延長の見込み)

子や孫が自宅を取得・増改築するための資金として贈与をする場合、要件に応じて最大3000万円まで非課税となる。ただし将来、財産価値の高い自宅を相続させる予定がある場合は、小規模宅地等の特例の適用とどちらが節税効果が高いか比較検討を。

●結婚・子育て資金の一括贈与の特例(2023年3月31日まで)

子や孫に結婚・子育て資金として一括贈与をする場合、1人につき1000万円まで非課税となる特例。「結婚費用への充当は300万円まで」「50歳までに使い切れなければ残額に課税」「使い切る前に贈与者が亡くなれば残額に相続税を課税」など各種条件あり。

●教育資金の一括贈与の特例(2023年3月31日まで)

子供や孫に教育資金として一括贈与をする場合、1人につき1500万円まで非課税となる特例。「受贈者は30歳未満」「30歳までに使い切れなければ残額に課税」「使い切る前に贈与者が亡くなれば残額に相続税を課税」など、結婚・子育て資金贈与と似た各種条件あり。

2021年10月01日

コロナ禍で急増の「置き配」トラブル。国交省がマンション管理規約標準モデル改正


今年6月、国土交通省は全国のマンションの管理規約のひな型となる「マンション管理規約標準モデル」を改正しました。理事会や総会がWEB会議システムによって開催される場合の想定など、昨今の生活スタイルの変化や新型コロナウィルス感染症の影響が反映された改正となりましたが、中でも注目を集めたのは「置き配」の扱いです。

【コロナを背景に置き配が急速に浸透】

パソコンやスマートフォン等からインターネット通販を手軽に利用できるようになったことで、ここ数年の宅配需要は右肩上がり。賃貸住宅業界においても「宅配ボックス」の需要が高まるなど、人々の買い物に対する考え方には大きな変化が見られます。その一方で、運送業界の人手不足や再配達の問題は深刻です。特に昨年からはコロナ禍の外出制限や巣ごもり需要も加わり、宅配利用の急増によって日本各地で配達の遅延も発生しました。

こうした問題の解決策として登場したのが「置き配」です。置き配は、荷物を受取人に直接渡すことをしなくとも、玄関先等の指定の場所に「荷物を置く」だけで配達を完了できる宅配方法です。非接触での受け取りが可能で、不在時にも再配達せずに済むとあって、コロナ禍のニーズにも合致。また、アマゾンジャパンや楽天といった大手企業が積極的に置き配を採用したことから、短期間で急速に浸透しました。

しかし、置き配が普及するにつれて目立ってきたのが、特にマンションやアパートなど集合住宅でのトラブルです。玄関前に荷物を置くだけ、というシステムが、防犯面や共用部の使い方の面で問題を引き起こしているのです。

【安心・便利の確保にはルールが必要】

置き配関連のトラブルで最も深刻なのが盗難・不法侵入といった犯罪行為です。コロナ禍以降、玄関前に置き配された商品を盗む、またはその目的で物件内に部外者が侵入するといった事件が各地で頻発しています。

また、分譲マンションにおいては、居室玄関前の廊下も「共用部」です。共用廊下に私物を置くことは多くの管理規約で禁止されているほか、消防法においても避難の障害となるものを置かないよう定められています。結果として、「置き配を使いたいのに管理規約のせいで使えない」「管理規約で置き配は禁止されているのにルールを守らない人がいる」といった不満が発生。さらには、子どもが荷物につまずいて怪我をしたり、逆に荷物が破損してしまったりといったケースも散見されるようになりました。

こうした事態に対して示されたのが、今回の国土交通省の標準モデルです。その中には次のような見解が示されました。

「専用使用部分でない共用部分に物品を置くことは原則として認められないが、宅配ボックスが無い場合等、例外的に共用部分への置き配を認める場合には、長期間の放置や大量・乱雑な放置等により、避難の支障とならないよう留意する必要がある」

言い換えるなら、「原則的に共用部の置き配は認められないが、管理規約で例外的に置き配を認めることは可能。ただしその際は建物ごとにしっかりとルールをつくるべき」といったところでしょうか。原則禁止としつつも、状況に応じて置き配を認めてもいいとするこの見解は、各マンションの管理組合に規約変更の流れを生みそうです。

そして、置き配トラブル回避のためのルール作りは賃貸物件においても必要になるでしょう。分譲マンションのように管理規約に縛られないとはいえ、賃貸物件においても同様に防犯・防災の問題は発生するのです。今後も通販利用は拡大する見通しです。入居者の安全・安心な置き配利用に配慮されたルール作りは、募集時の訴求力向上や入居満足度改善にも良い影響を与えるはずです。

2021年09月27日

相続税のペナルティは?知っておきたい「加算税」の仕組み

将来の相続を考えるにあたって、悩みの種は相続税。「なんとか納税せずに済ませられないだろうか。気が付かなかったことにして時効を迎えてしまえば…」そんな考えも頭を過ぎるかもしれませんが、決してオススメできるものではありません。なぜなら、税金のごまかしには「加算税」のペナルティがあるうえに、悪質であれば「脱税犯」として刑事罰に問われる可能性さえあるからです。

◆加算税で経済的ペナルティ。最大4割増しも

相続税は原則として、相続を知った日から10ヶ月以内に申告及び納税を済ませなければなりません。そして、この10ヶ月という期限を守れなかった場合や、納税額に不足があった場合には、うっかりにせよ故意にせよ、本来支払うべき税額に加えて、各種の「加算税」が課されます。

・無申告加算税…申告をしなかった場合のペナルティ。税額50万円まで15%、それ以上の部分には20%の税率が乗じられます。ただし、税務署の指摘の前に自主申告した場合は5%で済みます。

・過少申告加算税…本来納税すべき金額よりも少なく申告した場合のペナルティ。本来の税額に至るまで追加納付する金額に10%の税率を乗じます。一定額以上は15%が設定されます。

・延滞税…無申告・過少申告のどちらにせよ、納税が遅れたことに対しては延滞税が発生します。税率は、納付期限から2ヶ月間は原則年率7.3%、それ以降は14.6%です。

恐ろしいのは、納税が必要と知っていて納税しなかった場合。こうした悪質な税金逃れに対しては、本来の税額に最大40%もの税率を乗じる「重加算税」が課されます。さらには、冒頭に述べたとおり「脱税」の罪に問われ、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、またはその両方」を科される可能性も。妙な考えを起こさないことはもちろんですが、相続する家族が期限内に正しい申告と納税を果たせるよう、あらかじめ準備しておくことも大切な相続対策ですね。
2021年09月14日

目指すは満室経営と共生社会の実現!誰もが暮らしやすい“バリアフリー賃貸”とは


一年間の開催延期をはじめ、異例づくしだった東京2020オリンピック・パラリンピックも無事に閉会を迎えました。パラリンピックの掲げる目標のひとつ、「共生社会」という言葉が印象に残った方も多いのではないでしょうか。

共生社会とは、障がいの有無や性別、年齢にかかわらず、すべての人が互いを尊重し合い認め合って生きられる社会のこと。近年は、障がい者や高齢者が自立して生活できる社会環境の実現が一層求められています。

一方、賃貸住宅市場におけるバリアフリー住宅の供給数は、残念ながら少ないのが現状です。今回は、差別化による物件の稼働率アップとともに共生社会の実現にも寄与できる、障がい者・高齢者に対応するリノベーションアイデアを考えてみましょう。

【定番設備で物件をバリアフリーに】

バリアフリー住宅を本格的に造るのであれば、企画・設計の段階から計画したうえで新築するのが理想です。車いすの利用を考えるなら廊下幅は最低でも90㎝程度は確保する必要がありますし、トイレやお風呂等の水回りには介助スペースも求められます。これらすべてをリノベーションで叶えようとすれば、どうしても工事は大規模になる傾向があります。

しかしながら、求める生活スタイルや“手助け”の度合いもまた、人によってさまざま。すべてを叶えるのは困難でも、バリアフリー化の定番設備を用意することで十分に訴求力アップに繋がるはずです。

〈手すり〉

最も基本的な設備です。用途別に、ベランダ・バルコニーに設置する「墜落防止用」、廊下・階段の移動を助ける「歩行補助用」、トイレ・浴室などでの「動作補助用」の3種類に分けられます。強力な吸盤で簡単に設置できたり、暗闇で光って位置を分かりやすくしたりと、商品バリエーションも豊富です。


〈段差解消〉

玄関前や敷居などの段差がある箇所にはスロープ等を設置し、入居者のスムーズな移動を助けましょう。また、アプローチなどに敷いたブロックの目地にも要注意。大きな溝やがたつきがあると、高齢者がつまずきやすく、また、車いすや杖での移動にも差し支えます。

〈車いす対応の水回り設備〉

車いすユーザーを受け入れるなら、足元空間が広く設計され、通常より低い位置に洗面ボウル等が配置された専用の洗面台・キッチンシンクを導入したいところです。車いすでもしっかりと近付けて、水栓にも手が届きます。手をかざすだけで水が出る自動水栓を設置できれば、さらに使いやすく喜ばれるでしょう。


〈共用部の談話室や交流室〉

一見すると無駄なスペースのようですが、入居者が自由に使える談話室・交流室を共用部に設けることは、訴求力アップに役立ちます。自活する能力があったとしても、入居者にとって介助者あるいは入居者同士で交流を持てる空間はとても重要なのです。共用部の空間捻出が課題ですが、コミュニケーションの場になれば住み心地も良くなるうえ、安否確認にも繋がります。

【居室内にあると嬉しい“プラスα”の後付け設備】

細かなバリアフリーの工夫が居室内にもされていると、差別化による魅力付与の効果はより高まります。

〈室内ドア・ドアノブの交換〉

通常の開き戸より少ない動作で開閉でき、扉の飛び出しも小さい「折れ戸」は、足腰の弱い高齢者や車いすの移動に適した建具です。また、握り回すタイプのドアノブを、小さな力で簡単に開閉できる「レバーハンドル」に取り換えるのも一手。


〈非接触型の玄関ドア〉

玄関ドアの開閉を楽にするアイテムとして、スマートフォンで鍵を操作・施錠管理できるスマートロックや、ドアの自動開閉を叶える電動ドア開閉装置を導入してもいいかもしれません。重い玄関ドアの開閉を楽にする工夫は、障がい者・高齢者はもちろん、小さなお子さまのいる家庭にも喜ばれます。

〈緊急通報装置〉

入居者がボタンを押したり、センサーが作動することで、規定の連絡先に異常を知らせます。入居者自身の命や健康を守るだけでなく、賃貸経営者にとってのリスクヘッジにも効果を発揮します。

【賃貸住宅が「自立」を助ける存在に】

障がい者や高齢者を受け入れると聞くと、つい老人ホームや障がい者施設のような専門施設を想像してしまいがちです。しかし、実際に賃貸住宅に求められているものとは、むしろそうした専門施設とは異なった「自立した暮らしの実現の場」としての価値ではないでしょうか。

たとえば近年では、障がい者グループホームと連携した「サテライト型住居」という施設が増えつつあります。これはグループホームの近くに置かれる一人暮らし用のお部屋で、入所者は食事等を本体グループホームに頼りつつ、それ以外の日常生活を一般賃貸住宅を活用したサテライト型住居で過ごします。この制度の原点には、自分でできる範囲のことはできるだけ自分で行なう生活がしたい、という入所者の想いがあったといいます。賃貸住宅はその想いを、少しだけ支えてあげられればいいのです。

高齢化も進む日本において、今後ますます増えることが予想されるバリアフリーニーズ。自立の場をキーワードにした差別化で、満室経営と共生社会の両方の実現を目指してみてはいかがでしょうか。

2021年09月01日

契約・見直しはお早めに!2022年中に火災保険料再値上げへ

住宅向け火災保険の保険料が、2022年内に値上げとなる見込みです。「またか」と思われた方も多いと思いますが、それもそのはず、直近では2019年10月、2020年1月に大幅な料金改定が行われたばかりで、実現すれば4年間で3度目の改定となります。大型台風やゲリラ豪雨等、近年の自然災害の増加によって保険金の支払いが急増していることがその理由です。

■ 参考純率が全国平均10.9%アップ

私たちが支払っている火災保険料は、人件費や広告費といった保険会社の運営費を担う「付加保険料」と、万一の際の保険金の原資となる「純保険料」によって成り立っています。

そして、その純保険料の料率の基準となるのが、損害保険料率算出機構が定める「参考純率」です。今年6月、同機構はこの参考純率を全国平均で10.9%上げると発表しました。純保険料を引き上げ、近年頻発する大規模災害に備えなければ、多額の保険金支払いによって火災保険自体が成り立たなくなる可能性があると判断したのです。保険各社はこの参考純率をもとに自社の保険料を決定するだけに、2022年中の保険料値上げは免れられそうにありません。

■ 契約期間が最長10年から5年に短縮

もう一つ、参考準率の引き上げとともに示されたのが、火災保険の最長契約期間の短縮です。現在は最長10年で契約でき、長期契約割引の恩恵も受けられる状態ですが、この長期契約も2022年中に最長5年へと短縮される見込みです。かつては36年一括の契約も可能でしたが、近年の自然災害事情は10年先を見通すのも難しい状況であり、保険会社としては保険料を短期間で柔軟に変動させ、リスク吸収と収支改善を図る狙いです。

今回の「10%引き上げ」は全国平均の話であり、地域や建物構造によっては値下げとなる場合もあるものの、30%以上の値上げのケースもあったりと状況はさまざま。各保険会社から改定が発表された際は、まずは早めに見積もりを依頼して改定前後の保険料を確認しましょう。そして、変更前の方がお得であれば保険プランの変更や、10年契約ができるうちの長期契約への切り替えを検討しましょう。
2021年08月30日

戦国時代のお城の石垣に学ぶ 擁壁の安全性は「構造」と「排水性能」をチェック


今年6月、大阪市西成区で擁壁が崩れ、住宅が土地ごと崩落した事故の映像は衝撃的でした。事故現場となったのは、戦前からあったという古い「空積み」というタイプの擁壁。老朽化など複数の要因が重なり崩落に至ったとされています。

高低差の多い土地柄、日本人は昔から擁壁というものと身近に接してきました。事故のリスクを遠ざけるためにも、その基本構造と歴史を調べてみましょう。

◆「練積み擁壁」と「空積み擁壁」とは?

現在の擁壁は、裏側や目地にコンクリートなどを流し込んでしっかりと固定する「練積み擁壁」が一般的です。一方、そうした補強剤を使わず、ブロックや石材を積んだままの昔ながらの擁壁が「空積み擁壁」です。当然、石の大きさや角度を絶妙に組み合わせる必要があるため、頑丈な擁壁を造るには熟練の技が求められます。

そしてもうひとつ、空積み擁壁を造るうえで重要な技が「排水」です。擁壁の強度を保つには、擁壁内部に流れ込んだ雨水をうまく排水する技術が欠かせません。ただでさえ重い崖の土砂に大量の水が加われば、どんな強固な擁壁も重みによって破壊されてしまいます。土砂からうまく水だけを排出する技術が安全な擁壁のカギなのです。

現代の擁壁には排水管が埋め込まれており、ここから雨水が流れ出ているのを見たことがある方も多いと思います。では、昔の擁壁はどのように排水していたのでしょう?その技術は、実は身近な歴史的建造物「お城」の石垣に見ることができます。

◆お城の石垣でも重視されてきた排水機能

一見すると巨大な石ばかりに見えるお城の石垣ですが、構造を調べると大小さまざまな石がそれぞれ重要な役割をこなしていることが分かります。

昔はコンクリートなどありませんから、構造はもちろん空積み擁壁、その主役となるのが石垣の表面を覆う大きな「積石」です。その積石の隙間を「間詰石」が埋め、石垣の頑丈さを増しています。一方、石垣の裏側には積石の角度を調整する「飼石」が詰められます。この飼石がないと積石同士がうまくかみ合わず、石垣全体の強度が弱まってしまうのです。

そして、飼石の裏側にぎっしりと詰まっているのが「裏込石」です。裏込石は適度に小粒な栗石で、下へ下へとスムーズに水を排出していきます。ずばり、この裏込石こそ排水の技術のポイント。水はけの良い裏込石があることで、擁壁内の雨水が適切に外へ排出され、水圧による石垣の崩壊を防いでいるのです。


◆頑強さを過信せず適切なメンテナンスと調査を

日本には、時代を経てなお見事な排水機能を備えた名城が各地に残っています。戦国時代に建てられた金山城(群馬県)の石畳には、雨水が適切に排水されるよう排水路が敷設されていました。また、江戸時代初期の丸亀城(香川県)の石垣には、現代の擁壁のように13箇所もの排水口が設けられています。時代とともに磨かれてきた石垣・擁壁造りの知恵と技術が、今を生きる私たちの生活と居住区域の拡大とを支えてきたのです。

とはいえ、工夫の凝らされたお城の石垣も、過去には何度も崩落と積み直しを繰り返しています。適切なメンテナンスがなければ、いくら頑強な擁壁でも老朽化による崩落事故を避けられないのです。倒壊した大阪の空積み擁壁は、経年劣化によって元々あった裏込めの石や土が流れ出てしまい、十分な排水機能を失っていたという見方もあります。気になる擁壁があれば、念のため自治体に相談するなどして早めに調査をしてみることをお勧めします。

【擁壁の危険信号】

■擁壁の表面から水が浸み出ている・湿っている
■膨らみや傾きなどの変形・ひび割れがある
■水抜き穴に土や草が詰まっている

2021年08月18日

物件だって「見た目」が大事!空室対策&資産価値向上のための外観・エクステリア


人の見た目が大事であるのと同様に、建物の外観を整えることはとても重要です。設備や間取りがいくら良くても、見た目が悪いと入居希望者の気持ちも盛り上がりません。今回は空室対策や資産価値向上につなげるヒントとして、外構刷新のアイデアをご紹介します。

◆魅力的な「アプローチ」で入居者の動線を彩る

建物の外観を考える際、まず整備したいのが内見者の動線です。敷地の入り口からエントランスに至るアプローチ部分を雰囲気良く整えれば、内見者のわくわく感を盛り立てつつ、気持ちよく玄関ドアを開けてもらえます。

刷新の方法はさまざまですが、たとえば通路部分。石畳のようにブロックを敷き詰める「インターロッキング」や、不規則な形の石をパズルのように並べる「乱形石貼り」の施工をすると、アプローチにぐっと高級感が出てきます。通路脇に白玉砂利などの「化粧砂利」や「バークチップ」を敷くと、さらに上質な雰囲気を演出できます。

そのほか、敷地入り口からエントランスまでを「ウッドデッキ」で繋いでしまうといった方法も。建物の特徴を活かしながら、ターゲットに刺さるアプローチ造りをしていきましょう。


◆「植栽」で癒しとアクセントを

親しみやすい外観を手軽に叶えてくれるのが「植栽」です。緑のもたらす美観効果は大きく、花や紅葉で建物に季節感を添えたり、木陰で涼しさを演出したりと、建物全体に自然の潤いを与えてくれます。特に緑の少ない都市部では、植栽を効果的に配置することで内見者の印象は向上するはずです。

ただし、植物は生き物であるため日常の管理が欠かせません。枝葉の定期的な剪定や、チャドクガをはじめとした害虫対策など、気を配るべき部分も増えますので、状況によってはメンテナンス不要のフェイクグリーンを取り入れるのも一案でしょう。運営の手間とコストを想定したうえで何を採用するかを決め、効果的に活用したいものです。

夜間の魅力を引き出す「エクステリア照明」

昨今、夜間のライトアップを取り入れる物件が増えています。省エネ・長寿命のLED照明が普及するにつれ、「エクステリア照明」を取り入れるハードルが下がってきているのです。

入居者の動線を照らすアプローチライトや玄関を照らすポーチライト、庭先のガーデンライトなど、エクステリア照明は多種多様。機器もポールタイプやスポットライトタイプなど選択肢が多いので、自分好みの外観に仕上げることができます。

また、美しくライトアップされた夜間の物件写真を載せれば、昼間の写真ばかりが並ぶ賃貸情報サイトのなかで存在感アップ。競合にひとつ差をつけ反響獲得にも役立つでしょう。


◆「門扉・門袖・エントランスゲート」は物件の顔

内見者が最初に物件と向き合う場所、敷地の入り口付近も工夫ポイントです。「門扉・門袖(もんそで)・エントランスゲート」などを設置している物件も多いと思いますが、これは物件の「格」を表すシンボルとしての役割も果たしています。したがって、その第一印象や見栄えには気を付けたいところです。

第一のチェックポイントは老朽化。金属部の錆びが目立つようであれば、塗装の塗り替えや部材の交換を検討しましょう。主流は高耐久・低コストのアルミ製ですが、造形豊かで高級感を出しやすい鋳物もコスト次第で検討を。

また、雑然とした印象になっていないかも要チェック。門袖やエントランスゲートの足元に花壇や植栽がある場合は、手入れ不足になっていないか確認してください。気になる場合は植栽の植え替えやオーナメントの設置、ライトアップなどで雰囲気の刷新を図りましょう。

◆実はアレンジ自由自在の「塀・フェンス」

防犯や目隠しの役割を持つ「塀・フェンス」も外観に影響する重要な要素です。よくある無地のコンクリートブロックを、デザイン性の高い化粧ブロックに変えるだけでも印象は大きく変わります。溝の入ったものや表面が自然石のような仕上がりのもの、タイル調やガラスブロックなど、実に多くの種類があるのでまずは好みのデザインを探してみましょう。


また、塀と組み合わせる目隠しフェンスもさまざまな商品が存在します。木目を生かせるウッドフェンスや、採光にも優れたポリカーボネート製、雨水の溜まりにくい縦格子など、それぞれのメリットと建物・ブロックとの調和を意識して選択しましょう。

◆アイデアを組み合わせて資産価値向上を目指す


エクステリアの刷新は有効な入居促進策であるとともに、物件の「格」の向上も期待できる資産価値向上策です。見栄えの改善によって”格上げ”され、賃料アップも叶うとしたら、将来の売却価格にもダイレクトに影響するでしょう。ネックとなりがちなコストの問題も、中長期的な視野に立てば解決できるケースが多そうです。

ただし、忘れてはならないのは、これらの外観改善アイデアは「組み合わせ」によって初めて効果を発揮するという点です。門扉だけ、照明だけといった改善では、逆にその他の部分が悪目立ちしかねません。重要なのは外観の総合力。全体の雰囲気がアンバランスになってしまわないよう総合的かつ計画的に、内見者に「ここに住みたい」と思われる物件づくりに取り組みましょう。

2021年08月05日

遺言書の前に手軽に始める「エンディングノート」

いつ何が起こってもおかしくない世の中、「自分がいなくなった後のことを整理しておかないと…」と考えつつも、相続対策や遺言など何をどうしたらいいのかと迷われている方も多いのではないでしょうか?そんな方におすすめなのが「エンディングノート」です。

◆手軽に自由に伝えたいことを伝えられる

エンディングノートとは、もしものときに備えて、自分の情報や想いをあらかじめ書き留めておくノートのことです。ゼロから手作りもできますが、最近は書きやすく工夫された既製品が書店などでも販売されていて、インターネットで検索するとさまざまな特色を持った商品がずらり。まずは気負わずに、自分好みのノートを探してみると良いでしょう。

既製品のエンディングノートは、最初から「最低限この情報は必要」という項目が用意されているものが多く、質問に答えたりチェックマークを入れたりするだけで簡単にノートを完成させられます。家族や親族の連絡先、葬儀やお墓について、金融機関の情報、大切な人へのメッセージ…、ノートがあることで心情的にも実務面でも遺族が安心できるでしょう。

なお、たとえ存命中でも、認知症や病気の進行によって、自分で手続きや意思決定ができなくなる可能性はあるものです。かかりつけの医療機関や介護についての情報も記載できると尚良しです。

◆法的効力はなくとも情報の影響力は大

エンディングノートの注意点は、その取り扱い方や保存の方法です。遺言のような法的効力はありませんが、記載内容は重要情報の塊。悪意ある人に不正利用されたくありませんし、かといって厳重に隠しすぎて遺族がノートを見つけられないのでは本末転倒です。本当に信頼できる人だけにその存在を伝え、保管方法を工夫しましょう。

一方、法的効力がないぶん、エンディングノートに何をどう書くか、何を伝えるかは本人の自由です。まずはご自身の想いを自分なりに書き起こし、またノートを作るなかで情報を整理して、今後の相続対策の足掛かりとしてみてはいかがでしょうか。

2021年07月28日

定義、告知義務、告知期間…国交省「事故物件」ガイドライン案の3大ポイント


所有物件内で入居者が亡くなって「事故物件」となると、入居者が集まりづらくなるために家賃を大幅に下げて募集せざるを得なくなるケースも多く、経営へのダメージは甚大です。しかし今回、国土交通省から賃貸経営者の皆さまにとって「朗報」ともいえる発表がありました。「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」によって何が変わるのでしょうか。

◆曖昧だった告知ルールに指針

特定の状況で人が亡くなった物件は、瑕疵担保責任における「心理的瑕疵」があるとされ、部屋を借りようとする人に対してその旨を告知することが求められます。しかし、「自殺や殺人があった物件」がそれに該当するのは明らかとしても、それ以外のケースについてはこれまで明確な基準が存在しませんでした。

そのため、時には死因が病死や転倒事故であっても「告知事項あり」で募集されるケースが散見されました。これは管理会社や賃貸経営者が、後から損害賠償請求されるのを避けるべく個々に判断したものです。しかし、病気や老衰で亡くなるのは人間として自然なことであり、こうした死亡まで事故物件として扱ってしまえば、賃貸経営者にとって大きな不利益となりかねません。そこで今回、国交省はガイドライン案を打ち出し、告知すべき死亡の状況と告知を継続する期間について指針を示したのです。

◆ガイドライン案の3つの主要ポイント

1:老衰、病死など「自然死」は告知義務なし

老衰、持病による病死などのいわゆる自然死については、心理的瑕疵に該当せず告知義務がないと明記されました。また、自然死には自宅の階段からの転落や、入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故も含まれるとされています。

2:特殊清掃を要する死亡は自殺等と同様に告知義務あり

ただし、1のような自然死であっても、発見の遅れによる遺体損傷等の理由で「特殊清掃」が行なわれた場合は告知義務があるとされました。臭いや虫の発生した死亡事故は、たとえ特殊清掃やリフォームを行なっても、契約するか否かの判断に重大な影響を与えると考えられるためです。

なお、殺人や自殺、事故死、死因が明らかでない場合等は、従来の判断と同様に心理的瑕疵に該当するとして要告知とされています。

3:事故物件の告知義務は「概ね3年間」と明記

今回のガイドライン案で画期的だったのは、事故の告知義務の期間が概ね3年間と明記された点です。過去のネガティブな情報がいつまでもインターネット上に残ってしまう現代において、3年で告知義務から解放されるという価値は非常に大きいと言えるでしょう。ただし、こちらは賃貸での取引のみが対象であり、売買では何年前の事故であっても告知が必要です。

◆高齢者入居のリスク低減、空室対策に

告知期間の件だけでなく、特に「自然死」の扱いについては、うれしい方が多いのではないでしょうか。自宅内での死亡の9割は老衰や病死などの自然死という統計もあります。このガイドラインに従えば、ほとんどの室内死亡事故が「心理的瑕疵」に該当しないことになります。

また、事故物件化のリスクが減ることは、特に高齢者の受け入れをしやすくなることに繋がります。早期発見さえできれば事故物件とならないわけですから、従来の「高齢者入居=事故物件化リスク」という考え方は改めていく必要がありそうです。超高齢化社会において、これからさらに増加が見込まれる高齢者の住まいニーズに応えることは、社会貢献となると同時に強力な空室対策ともなるでしょう。

2021年07月23日

自宅や事業用土地の評価額を大きく低減!「小規模宅地の特例」基本解説


夏休みやお盆など家族で集まる機会が多いこの季節は、将来の相続について話し合う良いタイミングです。円満相続を叶えるための話し合いにあたって、不動産相続の節税の基本「小規模宅地等の特例」を押さえておきましょう。

◆「小規模宅地の特例」は、自宅土地だけでなくアパート・マンション用地も対象

「小規模宅地の特例」は、相続した土地が一定の条件を満たす場合に、その土地の相続税評価額を大きく引き下げることのできる制度です。この特例といえば、多くの方は「自宅の土地」を思い浮かべるのではないでしょうか。

相続税は現金で一括納付が原則ですが、相続財産が自宅の土地くらいしかない、といった場合には、納税資金作りのために自宅の土地を売却する事態にもなりかねず、そうなれば相続人は住む場所を失ってしまいます。そこで、居住地の評価額を大幅に下げられる「特例」が用意されているのです。

そして、この特例は自宅等の「特定居住用宅地等」だけでなく、事業に使用する店舗・工場などの「特定事業用宅地等」、アパート・マンションなどの「貸付事業用宅地等」なども対象としていることがポイントです。納税のために相続した不動産を手放し、事業を廃業する事態とならないよう、特例によって事業継続をサポートしているのです。

◆貸付事業用なら評価が50%減額に

特例による減額幅は土地の種類によって異なります。特定居住用宅地等なら土地の評価額を330㎡まで80%減額、特定事業用宅地等は400㎡まで80%減額となります。

一方、アパート・マンション・駐車場といった貸付事業用の土地は、200㎡までが対象となり減額割合は50%。たとえば、賃貸住宅の建つ200㎡・評価額5000万円の土地は、特例によって半分の2500万円に圧縮されるのです。


◆貸付事業用の小規模宅地の特例Q&A

Q1.土地面積が200㎡を超える場合特例はどうなる?

相続した土地が200㎡を超え、かつ他に特例を併用できる自宅などがない場合には、限度である200㎡分について特例を適用することができます。400㎡・評価額1億円の土地なら、その半分にあたる200㎡・5000万円までが特例の適用範囲となるため、全体の評価額は特例を適用した2500万円(5000万円×50%)と、特例適用外の5000万円を足した7500万円となります。

Q2.相続人が複数いる場合、特例の適用方法は?

相続人が複数いる場合は、相続する者同士の協議のうえ、合計200㎡を上限に何㎡ずつ適用するかを決定します。たとえば兄弟2人が相続人であり、400㎡・評価額1億円の土地を兄300㎡(7500万円)、弟100㎡(2500万円)で相続した場合、特例200㎡を100㎡ずつ分けて兄6250万円・弟1250万円とすることも、兄が単独で200㎡を適用し、兄5000万円・弟2500万円とすることも可能です。

ただし、そもそも不動産の共有相続は後々のトラブルの元となる鬼門とも言える選択肢。できる限り単独相続を目指しましょう。

Q3.無償貸付や低額貸付をしている不動産は対象になる?

親族などに不動産を貸す際、賃料を「無償または低額」に設定しているケースは多いと思います。

しかし、こうした場合は残念ながら特例の対象となりません。なぜなら、貸付事業用宅地等の特例は「貸付事業」が行なわれていることが前提であるため、事業性を度外視した賃料で貸し出されている不動産は対象外となってしまうのです。

事業性の有無は、賃料が近隣相場とかけ離れていないかなどを目安に判断されます。特例を適用したい場合は前もって賃料の見直しをしておきましょう。

Q4.特例が適用される駐車場の条件は?

駐車場や駐輪場が特例の適用を受けるには、「建物または構築物の敷地である」という要件を満たす必要があります。したがって、屋根などの設備がある駐車場(駐輪場)は対象となる一方、土がむき出しの青空駐車場はただの土地として判定されるおそれがあります。

もし、そうした駐車場をお持ちの場合には、今のうちに、せめてアスファルト舗装をして区画線を引き、整備された駐車場の体裁を整えておきましょう。構築物を設けることで特例が適用されるのはもちろん、現金を宅地の一部に替えることで、その分の相続税評価を下げることができます。

◆法改正で「3年以内」の取得物件は対象外に

特例の適用を考える際に気を付けたいのが、2018年4月の法改正で設けられた、相続開始前「3年以内」に貸付を始めた物件は特例対象外になるという新ルールです。賃貸物件を取得しても、3年以上にわたって事業を営んでいないと特例を適用できません。

新ルールができる前は、相続税を減らすためだけに賃貸物件を購入するという行き過ぎた節税策や特例の乱用がみられました。そこで3年という期間を設け、過度な相続税対策を抑制し、本来の事業継続を目的とした特例利用を促したというのが法改正の背景です。

◆事業的規模であれば、3年ルールは適用されない

とはいえ、「3年ルール」には例外もあります。その一つが、被相続人がいわゆる「5棟10室」といわれる事業的規模で貸付をしていた場合。もともと貸付事業を営んでいたのであれば、相続発生の3年以内に取得した物件も、節税対策というより事業目的と考えるのが妥当であるため、ルールの適用外となるわけです。

事業継続をサポートしつつ、相続税対策として大きな効果を発揮する小規模宅地の特例。これを使わない手はありませんが、自宅・事業用・貸付事業用で特例を併用できる反面、併用時には適用面積の制限がある点に注意が必要です。「どの土地にどの特例を何㎡適用するか」で節税額も変わってくるため、まずは基本方針を家族と話し合い、どうしたら最も節税効果が高くなるのか税理士などの専門家の意見も聞きながら、早めに準備を進めておきましょう。

2021年07月01日

「3点ユニット」を「バス・トイレ別」にする検討ポイント

ネットで部屋探しをする際、今や大半の人が検索条件にまず「バス・トイレ別」を入れると言われています。厳しい戦いを強いられている「3点ユニットバス」物件ですが、検索されやすくするためにと、バス・トイレ分離工事を検討されている方も多いのではないでしょうか。

◆バス・トイレ分離工事にかかるコストは?

本格的なバス・トイレ切り離し工事をする場合、新設するバスまたはトイレのために収納や居住スペースの一部を潰すことが少なくありません。いわば配管を伴う間取り変更ですから、どうしても工事は大掛かりになりがち。100万円以上の工事もありえるため、家賃をいくら上げられるかが実施の是非を決める鍵となります。

一方、現状の三点ユニットバスを「バス・トイレ分離型のユニットバスに入れ替える」という工事もあります。3点ユニットバスを解体した場所にバス・トイレ分離済みのユニットバスを設置するだけなので、こちらは60~80万円程度で実施可能です。トータルの広さを変えない分、トイレも浴槽も洗い場もだいぶ狭くなりますが、それでも「バス・トイレ別」というステータスは手に入ります。

◆コストパフォーマンスと物件の差別化で判断

仮に「バス・トイレ別」で家賃が5,000円アップするなら、比較的高額な分離工事も検討できるでしょう。部屋探しの検索結果に表示されるようになる=空室期間短縮の効果も見込める場合は、検討のハードルはさらに下がります。

しかし、バス・トイレ別にすることで必ず家賃が上がるわけではありませんし、空室が埋まるとも限りません。3点ユニットバスでもスムーズに決まる部屋もあることを考えると、大切なのはその部屋に「住みたい!」と思わせる魅力の付与の方法、競合物件とどう差別化するか、でしょう。賃料を抑えたい層向けの3点ユニットバスもよし、バス・トイレ別にして魅力アップもよし、物件の特徴を見つめ直したうえで価値のある空室対策を選択しましょう。

2021年06月29日

不動産登記法の改正案成立!「相続登記」の義務化、あなたの土地は大丈夫?


2021年4月、不動産登記法の改正案が可決・成立し、土地や建物を相続した際の「相続登記」が義務化されることとなりました。改正法は2023年4月までに施行される予定ですが、施行後は登記義務を怠った者に10万円以下の過料(いわゆる罰金)が課されることとなります。所有不動産の登記がきちんとされているか、早めに確認したほうが良さそうです。

【放置のデメリット大。情報を正して子や孫の負担を軽減】

今回の改正によって、不動産登記法には第76条の2として次の記載が加わりました。
「(一部抜粋)相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」

これまで相続時の所有権移転登記が義務でなかったが故に、登記の名義が古いままとなっている不動産、もはや誰の所有物か分からなくなっている不動産が今の日本には数多く存在します。よくあるのが、相続時にきちんとした分割協議や手続きが行なわれなかった結果、実家等の不動産の権利がなし崩し的に子や孫の代まで複数の相続人によって共有されているケースです。

「実家の父が亡くなり、一人息子の自分が家を相続することになった。しかし実家の登記を確認すると、父だと思っていた名義が祖父の名前。父は5人兄弟の末っ子、どうやら5人の共有で相続したようだが、数年前に父の兄(伯父)も亡くなっていて、権利を相続しただろういとこの連絡先も分からない…」 この例の場合、一人息子の「私」は相続人ら全員とどうにか連絡を取って、少なくとも「法定相続人全員の名義の共有登記」をしなければ、改正法下では登記義務違反となってしまいます。今後のトラブル防止や実家のスムーズな建て替え・売却を目指すなら「単独登記」が理想ですが、義務を果たす手間と費用はさらに膨らむでしょう。登記情報は時間が経つほど是正が大変になります。子や孫に負担を遺さないためにも、また、デメリットを最小に留めるためにも、できるだけ早い段階で情報を正すことが大切です。

【登記の状況で動きも変化。まずは法務局で現状確認】

不動産の現況を調べる際は、法務局で登記事項証明書を発行してもらいましょう。不動産に関する情報が全て載っており、所有者の名義が誰かも分かります。証明書を発行してもらうためには地番・家屋番号を伝える必要がありますが、分からない場合でも一般の地図を元に問い合わせれば教えてもらえます。 なお、証明書に記された権利者が既に亡くなっているなど登記情報が古い場合、採るべき行動は主に2つです。

1.権利者が自分だけであることが明らかな場合

相続登記を行ないます。登記には遺産分割協議書や戸籍謄本等の書類のほか、登録免許税や司法書士報酬等の支払いが必要です。

2.権利者が複数いる場合

先述の通り他の相続人(権利者)と連絡をとって、共有登記または権利関係を整理したうえでの単独登記を目指します。改正法施行後は、新設の「相続人申告登記」という法定相続人である旨の申告制度を利用して、ひとまずの登記義務を果たすことも可能になります。

複数回分の相続が未登記の場合には、共有者を探し出せずに仕方なく共有登記となるケースも多くなりそうです。そのため今回の改正では、民法の「共有」にまつわる条文が大きく変更され、「共有者不明の場合には、裁判所の決定を得るなど一定の条件下に限り、判明している共有者のみでの用途変更や売却を可能とする」という救済措置も用意されました。高齢化に伴う相続増加・所有者不明土地増加対策として、今回の法改正ではさまざまな相続・登記のルールが変更されています。新法施行までにしっかりと情報収集を行ない、できる対策から早めに行なっていきましょう。

2021年06月13日

隠れた不具合による事故から入居者と資産を守る 賃貸経営者が知っておきたい事故予防策


今年4月、東京都八王子市のアパートで起きた「階段崩落事故」は、多くの賃貸経営者や管理会社に衝撃を与えました。原因は施工を担当した則武地所によるずさんな工事と見られており、他物件でも同社の施工不良が疑われていることから、現在も多くの関係者が対応に追われています。

今回のような悪質な施工不良は珍しいとしても、経年劣化する建物に不具合は付きもの。重大事故を防ぐには、点検とメンテナンスを抜かりなく実施していくしかありません。備えあれば憂いなし、今回の事故を教訓に、建物点検時の見るべきポイントと備えを確認しておきましょう。

【点検ポイント① お部屋までの「動線」上の共用廊下や階段の劣化】

問題のアパートで事故現場となったのは、1階から2階に続く外階段でした。入居者が日常的に行き来するお部屋までの「動線」は、使用頻度の高さゆえに劣化も早く、また事故の発生率も高い場所であることから、点検の際にまず押さえておきたいポイントです。

歩いた際に床材がきしんで建材の一部がパラパラと落ちてきたり、水分を含んだような弾力がある廊下・階段は危険信号。速やかに管理会社・専門業者に点検を依頼しましょう。また、長尺シートの剥離・摩耗などによって躓き・滑りやすくなっている部分にも要注意です。


【点検ポイント② 階段・手すり柵などの鉄部の腐食】

建物を構成する「鉄部」も大事な点検ポイントです。頑丈な鉄製の建築材であっても、表面の塗装が経年劣化によって剥がれ落ちれば、空気中の酸素や雨水と反応して錆びや腐食が進行します。点検時は塗装の状況はもちろん、手すりがぐらつかないか、格子状の柵の一部が折れていないか、階段の踏み板を支えるアングル材に錆びや穴ができていないかといった点をよく確認しましょう。

また、共用廊下やバルコニーを支える鉄骨の腐食は、大規模な崩落のリスクに直結します。目視で判断しにくい部分のため、心配な点があれば専門家に相談してみましょう。

【点検ポイント③ 天井部分からの水漏れ】

実は雨の日も建物点検のチャンスです。雨天時は雨水の流れがひと目で分かるため、建物の排水状態も観察しやすく、晴天時には気づきにくい雨漏り箇所の把握も比較的容易です。

重点的に確認しておきたいのが、開放廊下や階段の天井部分です。もし雨漏りが見られたら、屋根や天井、上階外廊下のどこかに穴やすき間ができていることが考えられます。この手の浸水は前項で述べた通り、内部鉄骨の腐食につながり、廊下・天井の崩落を引き起こしかねません。事故が起きる前に対策を講じてください。


【点検ポイント④ コンクリート壁の爆裂】

所有物件がRC造なら、コンクリート壁のクラック・不自然なふくらみ・しみ(エフロレッセンス※)にも目を光らせておきましょう。丈夫な鉄筋コンクリートでも、すき間から水分が入ることで、やがては「爆裂」という危険な状態に発展してしまうからです。

爆裂とは、コンクリート内部に染み込んだ水分で鉄筋が腐食・膨張し、周囲のコンクリートを内側から破壊して押し出してしまう現象です。飛び出したコンクリート片が地上に落下すれば、入居者のみならず、周囲の通行人を傷付ける事故にも発展します。大きなクラックがある、コンクリートが不自然にふくらんでいるといった場合は、早々に浸水経路を発見・遮断しましょう。

なお、外壁がタイル張りの場合には、爆裂までいかなくともコンクリートの変形だけでタイルの浮き・剥落のリスクが高まるため、より慎重な点検が求められるでしょう。

※ エフロレッセンス:RC造のコンクリート壁に白い模様が浮き出る現象。クラックな  どから染み込んだ水分により内部の成分が流れ出すことで発生する。初期であれば  緊急性は高くないが、コンクリート内部への浸水の証拠でもある以上、放置せず早  めの対策を施すことが望ましい。


【万一のお守り。施設賠償責任保険の加入を忘れずに】

とはいえ、物件のメンテナンスにどれだけ気を付けていても、事故を100%防げるわけではありません。いざという時に入居者や物件を守るためにも、「施設賠償責任保険」への加入を強くお勧めします。

施設賠償責任保険とは、建物や設備の不備が原因で他人や他人の財物に損害を与えてしまった場合に、その損害賠償費用を補償してもらえる保険です。たとえば、外壁の一部が落下して入居者にケガを負わせてしまったり、車など入居者の財産を傷つけたりした場合にはこの保険が力を発揮します。

建物所有者には、「所有者責任(工作物責任)」という重い責任が課されており、ひとたび所有建物が事故を起こせば、その責任を免れることは容易ではありません。特に対人事故では多額の損害賠償が発生する以上、保険でのリスクヘッジは安定経営のカギといえるでしょう。

幸い、施設賠償責任保険は火災保険の特約として用意されていることが多く、1億円程度の補償を年間数千~1万円程度の保険料で賄うことができます。低コストで万が一の大事故に備えられると考えれば加入しない手はないでしょう。未加入の方は、この機会にぜひご検討ください。

2021年06月07日

目に見えない「嗅覚」の差別化でお手軽空室対策

ふと懐かしい香りを嗅いだ途端、当時の記憶や感情がまざまざと蘇ってくる…、そんな「においが記憶を呼び覚ます現象」を『プルースト効果』と呼ぶそうです。

嗅覚は視覚や聴覚と違い、脳の中でも快不快や喜怒哀楽といった「感情」を司る大脳辺縁系とつながっていて、また「記憶」を司る海馬にも信号を送ることから、五感の中でも人の印象に強く影響を与えるといいます。この嗅覚を利用して、競合物件より少しでも良い印象を残すお手軽な方法を考えてみましょう。

*ポイントは清潔感と清涼感

玄関を開けると同時に良い香りがしたなら、それだけで内見時の印象は変わります。香りの第一印象次第では、部屋の他の部分まで良いイメージで記憶に残る可能性も。逆に、ドアを開けてすぐにじめじめしたカビ臭さや不快な臭いがしたならどうでしょう。お部屋の印象も暗く湿ったものになってしまいかねません。

目に見えない嗅覚による第一印象の差別化策として、手軽な手段が室内に「芳香剤」「アロマ」を設置することです。電動式のディフューザーはブレーカーを落とすと止まってしまい、内見者が来るまで香りを発生させないので、据え置き型のリードディフューザーやストーンディフューザーがおすすめ。シューズボックスの上などに置くだけでインテリアとしても見栄えがして、価格も1000円以下からとお手軽、まさに一石二鳥です。


肝心の香りは、重厚感や甘さの強いものは避け、清潔感や清涼感を重視します。おすすめは石鹸の香りやシトラス、すっきりとした印象を与えるウッディ系ですが、どれだけ良い香りでも「トイレっぽさ」を感じる香りは逆効果ですので気をつけましょう。

湿度と温度が高まるこれからの季節、人はにおいに敏感になります。下水や排水口からの「一発NGのにおい」をシャットアウトするとともに、すてきな香りで記憶に残るお部屋づくりに挑戦してみてはいかがでしょうか。

2021年05月29日

高機能の「床材」で物件をグレードアップ!メリットある共用部投資のための注意点


ジメジメした季節はどうしても、外壁や床、廊下の黒ずみが気になるようになるものです。まずは高圧洗浄やポリッシャー清掃等できちんと汚れを落とすことが基本ですが、一歩踏み込んだ対策を講じて第一印象を良くするなら、機能性やデザイン性に優れた「床材」の導入を検討されてみるのはいかがでしょうか。

●共用エントランスの床で「格」を高める

物件の顔である共用エントランスは、床材のセレクト次第で印象がガラリと変わります。エントランスへのアプローチやエントランスホールに上質感を演出する磁器タイル・プリントタイルを用いれば、物件のグレード感をこれまで以上に高めることも可能でしょう。王道は大理石柄などのストーン系や、シックなウッド系ですが、敢えて目を引くデザインのタイル材を使用して、個性ある第一印象づくりを狙うのも一手です。


●共用廊下や階段で「期待」を高める

どれだけ外構や共用玄関が素敵でも、廊下がモルタルの劣化したカビだらけのものでは片手落ち。内見時には、実際にお部屋を見るまでの段階で内見者を「がっかり」させてしまわないよう配慮したいものです。

共用廊下や階段部分をリフォームする場合、使いやすいのが長尺シートです。施工のしやすさもさることながら、デザインの豊富さ・上質な歩き心地というメリットも。加えて、長尺シートには雨の日でも滑りにくい防滑性、足音が響きにくい衝撃音吸収性などを備えた高機能商品も多く、転倒事故防止にも効果を発揮することから既存入居者の満足度向上も期待できます。デザインと機能の両面から資産価値向上を叶えてくれる、導入効果の高いアイテムです。

●室内玄関床も合わせて「質」を高める

なんといっても玄関床は、お部屋のドアを開けて最初に目に飛び込んでくる部分。毎日の暮らしの基点でもある玄関は、内見の印象を大きく左右する見逃せない改善ポイントでしょう。

玄関の床材にはクッションフロアやPタイル・フロアタイルが使われるのが一般的です。クッションフロアはバラエティ豊かなデザインとコストとのバランスが魅力、Pタイルやフロアタイルは耐久性の高さや高級感の演出の面から使いやすい床材です。お部屋を清潔かつ広く見せるなら、白系の膨張色の床材がおすすめ。一方で汚れも目立ちやすいため、防汚性や定期的な張り替えに耐えるコストパフォーマンスなどを考慮してセレクトしましょう。


●共用部への投資は全室の価値向上策

床材は種類によって価格が異なり、それぞれの商品内でのグレードもさまざま。また場所によって施工難易度も変わることから、費用はケースバイケースとしか言えません。原則として、どの床材も高級感や付加機能が加わるほど価格も高くなる傾向にあるので、建物の雰囲気や予算、求められる性能を勘案したうえで実際に見積もりを取ってみて、物件に最適な床材を選定していきましょう。

ただ、エントランスのタイル張り替えや共用廊下の長尺シートリフォームなど、施工の面積が広くなると数十万円規模の工事となることも珍しくなく、見積もりを見てあきらめてしまう賃貸経営者の方も多いようです。

しかし、共用部への投資は、言うなれば建物全室の価値向上を叶える空室対策。場合によっては各室個別のテコ入れよりコストを抑えた訴求力改善策となるうえ、耐久性や防汚性の高い床材を選択することで中長期的なメンテナンス費の節減も狙えます。施工費単体だけでなく、一部屋あたりのコストパフォーマンスの影響からも投資の価値を計るのがポイントです。

2021年05月19日

安心・安全な賃貸経営のために。ついに施行「賃貸住宅管理業法」の主要ポイント


良好な居住環境の確保を図るべく2020年6月に可決成立した「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(以下、賃貸住宅管理業法)が、今年の6月15日からいよいよ施行に。これまで賃貸管理業界には規制がなかっただけに、今回の法制化はまさに歴史の転換点。賃貸管理の品質向上が期待される今、賃貸経営者として同法のポイントを押さえておきましょう。

ポイント1 管理戸数200戸以上に登録義務

まず知っておきたいポイントは、賃貸管理業者の「登録制度」。同法の施行により、賃貸住宅管理業を営む者で200戸以上の賃貸住宅を管理する場合には、国土交通大臣の登録を受けることが義務となりました。

ここで言う賃貸住宅管理業とは「賃貸住宅の維持保全」または、これと併せて「金銭の管理」を行なうことを指します。つまり、賃貸経営者から委託された賃貸住宅について「点検・清掃」「必要な修繕」等を継続して行なう(または発注する)会社、あるいは、維持保全と併せて「家賃や敷金の管理」を行なう会社が賃貸住宅管理業者となり、その管理規模が200戸以上となると登録対象となるわけです。

登録の猶予期間は2022年6月15日までの一年間。上述の登録条件を満たしながら未登録のまま業務を行なうと違法となり、罰則の対象となります。

ポイント2 最低1人「業務管理者」の配置義務付け

もう一つ押さえたいのが、管理業務の適正な運営と貸主・借主の利益保護を図ることを目的とする「業務管理者」の配置を義務付けた「業務規制」です。業務管理者とは、いわば賃貸管理の責任者のことで、宅建業法が事務所ごとの専任の宅地建物取引士の設置を義務付けているのと同様、賃貸住宅管理業法は営業所・事務所ごとに業務管理者を1人以上置くことを義務付けました。

業務管理者となれるのは現在のところ、講習を受けた「賃貸不動産経営管理士」または「宅地建物取引士」、あるいは十分な知識と能力を有すると登録試験で証明された者のみで、賃貸不動産経営管理士以外には2年以上の管理実務経験も求められます。

なお、賃貸不動産経営管理士は、今年4月に国家資格へと昇格。賃貸管理の専門性を示す重要資格として今後ますます注目が集まりそうです。

ポイント3 賃貸管理会社に多数の義務「業務規制」

そのほかにも賃貸管理業を営む者には、制度への登録の如何にかかわらず、2021年6月15日から「業務規制」として以下のようなルールが課されます。

賃貸管理会社に課される主要義務

1.重要事項説明および説明書と契約書の別途交付
2.名義貸し・再委託の禁止
3.家賃等の口座の分別管理
4.賃貸経営者への定期報告

1.重要事項説明(重説)および説明書と契約書の別途交付

従来は管理委託にあたって特段のルールはありませんでしたが、新法では「重要事項説明書」の交付と説明、「契約締結時書面」の交付が義務化されました。なお、重要事項説明書と契約書とは一体で交付できず、説明を受けた賃貸経営者が契約の可否を判断するための1週間程度の検討期間の確保も推奨されています。電話やメールでの重説は認められませんが、IT重説は可能です。

2.名義貸し・再委託の禁止

賃貸管理の品質を維持し、責任の所在を明らかにするためにも、賃貸管理会社は業務の「すべて」の再委託や名義貸しが禁止されます。管理を任せたはずの会社が実務を一括で別の会社に丸投げしていた、といったトラブルを防止します。

3.家賃等の口座の分別管理

会社のお金と賃貸経営者のお金とを明確に分けて管理することも義務付けられました。新法下では、賃貸管理会社は業務で受領する敷金・家賃・共益費等の金銭と自社財産とを、原則として口座も帳簿も分けて管理することになります。賃貸管理会社の資金に賃貸経営者の財産が流用されてしまうようなトラブルを防ぎます。

4.賃貸経営者への定期報告

新法施行後は、金銭の収受状況や物件・入居者の管理状況などが、賃貸管理会社から年1回以上の頻度で報告されるようになります。口頭での報告は認められておらず、必ず書面またはメール等での報告となります。


新法施行により、賃貸住宅管理業者には上記以外にもさまざまなルールが課されることになります。もちろん業者にとっては負担ですが、それだけ賃貸管理業の信頼性が担保され、より安全な取引が実現することになります。

一方で、これからは賃貸経営者が、数ある登録業者の中から優良事業者を見極める「判断力」が求められる時代になるとも言えます。国土交通省からは「賃貸住宅管理業法 制度概要ハンドブック」という資料も公開されていますので、きちんと目を通し、最良のパートナーと経営をしていけるよう知識を身に付けておきましょう。

賃貸住宅管理業法 制度概要ハンドブック
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001404844.pdf

2021年05月06日

水害から建物と入居者を守れ!賃貸経営者が知っておくべき豪雨・台風対策


ここ数年、集中豪雨や大型台風が毎年のように発生し、日本各地で大きな被害をもたらしています。なかでも2018(平成30)年は、観測史上最大の雨量となった「西日本豪雨」に加え、台風21号・24号の上陸など甚大な災害が相次ぎました。

こんな年は滅多にないと思いたいところですが、実は今年、その2018年夏の悪夢再来の可能性あり、という予測があることはご存じでしょうか。根拠は、赤道近辺の海水温が変化する「ラニーニャ現象」。世界的な異常気象の要因といわれるラニーニャ現象が、今年は2018年とよく似た経過をたどっているというのです。あくまで予測に過ぎませんが、備えあれば憂いなし。今のうちに水害への備えを考えておきましょう。

【建物を守る基本は「点検・清掃・修繕」】

賃貸経営者にできる豪雨・台風対策として、まず挙げられるのは建物の点検と清掃です。一見地味ではありますが、一個人では河川の氾濫や土砂崩れを防げない以上、まずは建物を雨漏り・浸水・破損等から守ることを第一に考えるべきです。もちろん、点検で不安な箇所が見つかった場合は、大雨シーズン前の早期修繕が必須です。


▶ 屋根・外壁・バルコニー

建物内への浸水につながりそうなひび割れや塗装の剥がれ、シーリングの損傷等をチェックします。自分で目視点検もできますが、築年数が経っている場合や高所の点検が必要な際は管理会社や外装修理会社に依頼しましょう。外壁のクラックや屋根の破損はもちろんですが、ベランダ・バルコニーの笠木部分のシーリングなども要確認です。

▶ 雨樋・側溝・排水桝

建物や敷地の排水機能も点検しましょう。内部に土や落ち葉が溜まってしまうと排水が滞り、外壁への浸水や雨漏り、敷地内への浸水といった被害に繋がりかねません。また、雨樋そのものが土と雨の重みで壊れてしまうこともよくあります。こちらも高所作業が必要な場合は管理会社等に相談を。

▶ 「土嚢」等で緊急時の備え

最近は局地的な大雨によって街の排水機能が追い付かなくなり、下水や雨水が溢れてしまう「都市型水害」も頻発しています。低地や坂の下に物件がある場合は、できることなら「土嚢」などで水をせき止める用意をしておきましょう。

土嚢はホームセンターなどで入手できるほか、地域によっては役所が配布しています。ただし、たいてい土嚢の処分は自己負担となるため、使用後を想定して確保しましょう。

【「火災保険」の見直し、水災・風災特約の検討を】

最悪のケースを想定し、契約している「火災保険」も確認しておきたいところです。豪雨・台風対策としては、浸水被害などを補償してくれる「水災」、強風被害を補償してくれる「風災」の特約が必要ですが、何年も前に一括で契約して細かい内容なんて憶えていない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。万一の事態に陥る前に、契約内容・補償内容を把握しておきましょう。

なお、特約の有無にかかわらず、地域の被災想定区域が分かる「ハザードマップ」は一度確認を。そして、洪水・高潮・土砂災害などの影響を受けそうな地域に物件がある場合は、前述の特約付帯を検討しておくべきです。もちろん、物件が高台にある場合など過剰な付帯の不要な場合もありますが、それでも災害リスクとコストとを改めて天秤にかけてみることは必要でしょう。

【入居者の安全確保。状況に応じて協力要請も】

深刻な豪雨・台風災害を乗り切るには、実際に暮らしている入居者の皆さんに「命を守る行動」を取ってもらうことも必要です。また、被害予防の面においても必要に応じて協力を仰ぎましょう。

▶ ベランダの清掃・片付け

居室に続くベランダやバルコニーは、厳密には共用部にあたるものの、貸主・管理会社側でのコントロールがしにくい場所。鉢植えや物干し竿が強風で飛ばされる危険もあり、台風時には入居者に私物の整理をアナウンスしたいものです。

また、意外な浸水被害の原因となるのがベランダの雨水排水口。ここにゴミが詰まって雨水が流れなくなると、ベランダがプール状になり、上層階であっても掃き出し窓から居室内への床上浸水が起こります。危険性を伝え、入居者には事前の清掃を促しましょう。


▶ 窓関連の点検・対策

風雨による被害の突端となりやすいのは、やはり窓。豪雨・台風が予想される際には、窓ガラスやサッシの点検、雨戸や窓用シャッターの動作確認をお願いしましょう。

また、台風時は飛来物対策として、窓ガラスの「飛散防止フィルム」を各戸に配布するのもいいかもしれません。入居者の安全や物件を守ることになるのはもちろん、入居者満足度の向上にも一役買ってくれるでしょう。


【三位一体となって災害を乗り切る】

どれだけ文明が発達しても、人類にとって自然災害はいまだ脅威そのものです。個人でできる対策は少なく、また、守れるものも多くはありません。だからこそ、万一の際は事前の備えと、賃貸経営者・入居者・管理会社が三位一体となって協力し合うことが重要です。平和な夏になることを祈りつつも、できる対策は早めに行ない、大雨シーズンを万全の体制で迎えましょう。

2021年04月28日

宅配ニーズ急増でオートロック物件も「置き配」可能に

コロナによる外出自粛から、ネットショッピングに伴う宅配ニーズが急増。賃貸業界でも「宅配ボックス」の人気が高まっています。

さらに、この一年で急激に普及したのが「置き配」です。置き配とは、受取人の要望に合わせて、宅配業者が玄関ドアの前やパイプスペース、置き配バッグなどに荷物を置いていく配達方式のこと。コロナで推奨された非対面サービスが叶い、かつ物流業界を苦しめる再配達問題も解消できるという、2つの大きなメリットが人気の理由です。

そんな中、物流最大手のAmazonが、置き配にまつわる一歩進んだサービスの提供を開始。配達員が、オートロックを一時的に解除できるようになる「Key for Business」というサービスです。

置き配の課題は、オートロック物件の存在でした。オートロックで入居者が不在の場合、配達員は部屋の玄関前まで辿り着けず、置き配ができません。昨今は宅配ボックスを設置する物件も増えましたが、そのボックスも宅配量の増加から満杯が頻発。置き配もできず宅配ボックスも使えず、再配達になるケースがオートロック物件では増えていたようです。

「Key for Business」の導入物件に配送がある場合、配達員はアプリで限定的にオートロックを解除し、玄関前まで荷物を届けられるようになります。つまり、オートロック物件でも「不在時の荷物受け取り」ができるようになるのです。これは入居者にとって大きなメリットでしょう。

サービスの導入費用および月額費用は、なんと無料。必要な機器等はAmazon側で取り付けます。いいこと尽くめに見えますが、一方で、配達員が「勝手に建物に入ってくる」状態になるため、トラブル対策は必須。まずは管理会社と相談のうえ、検討を進めましょう。

また、こうした置き配のセキュリティ面の懸念から、安心して荷物を受け取れる「宅配ボックス」ニーズも引き続き根強いでしょう。利便性は部屋の訴求力を左右する重要項目、変化する入居者の買い物スタイルにも柔軟に対応していきましょう。

2021年04月20日

今年の雑草対策は攻める!?物件の印象もアップするお手軽グリーン活用術


夏が到来するたび、賃貸経営者を悩ませる雑草。雑草が生い茂った物件は入居者クレームが入りやすいだけでなく、内見のお客様にも「ちゃんと管理されていない物件」と悪印象を与えてしまうものです。その一方で、計画的かつ適度なグリーンは、物件に清涼感をもたらし、ナチュラルな魅力を与えてくれます。植物はコントロール次第、雑草は一掃するべきですが、ただ抜くだけ・むしるだけではないグリーンを取り入れた「攻めの植栽管理」を考えてみましょう!

■ 対策① グランドカバープランツ

グランドカバープランツとは、地面を覆うタイプの「見栄えのいい植物」の総称です。

実は、植物の世界も弱肉強食。植物は常に周囲の株と日光や土中の養分の奪い合いをしています。その争いを利用して雑草の繁茂を抑えるのが、グランドカバープランツによる雑草対策。つまり、雑草に先んじてグランドカバープランツを植えることで、あとから他の雑草が繁殖できないようにしてしまうのです。

扱いやすいグランドカバープランツの代表例は、シソ科で防虫効果のあるアジュガ、多肉植物のセダム、満開の時期は美しい芝桜など。これらは花が咲いて見栄えもよく、耐寒性があるので越冬も容易です。また、繁茂によって土埃や雨の日の泥はねを防止できるため、物件の汚れ対策にも貢献します。

注意点は、繁殖力の強い植物を選ぶと、想定以上に株が広がってしまうこと。雑草対策をしたつもりが、グランドカバープランツの手入れに追われるようになっては本末転倒です。よく見かけるミントやヒメイワダレソウ、シロツメクサなどは、爆発的に増える可能性があるので要注意です。

■ 対策② 付加価値付きの植物

雑草に先んじて植物を植えるなら、何かしらプラスアルファの付加価値がある植物を植えるのも面白いものです。たとえば、ゼラニウムやローズマリーは猫が匂いを嫌がるため猫避け対策になりますし、タイムやカレンソウといったハーブはその防虫効果から、ゴキブリや蚊、ハエ、ダニ、ナメクジ、ムカデなどを遠ざけるといいます。

注意点は、グランドカバープランツと同様、繁殖力の強さ。地面に直に植えずに鉢植えにすれば過度な繁殖は防止できます。統一感のある鉢植えを並べることで、物件の見た目の向上にもつながります。

■ 対策③ グリーンカーテン

植物で縦方向に物件を飾って、手軽にイメージ向上につながるのが、共用部や壁にネットを張って、そこに植物を這わせるグリーンカーテンです。見た目には外観の汚れや傷も隠れ、自然にできた木陰はエコで涼しげ。直射日光を遮るため省エネ効果も期待できます。

弱点は、グリーンカーテンとして緑が茂るまで手間と時間がかかること、初夏から秋口までの3~4ヶ月しか効果がないこと。つる性植物のアサガオやヘチマだけでなく、キュウリやゴーヤ、パッションフルーツなどは成果物を入居者におすそ分けという楽しみもあります。

■ 対策④ フェイクグリーン装飾

「植物の手入れは面倒だけど、物件にグリーンを取り入れて印象をよくしたい」そんな方にはフェイクグリーンによる装飾がおすすめです。近年は本物そっくりの造花が増え、おしゃれなカフェやヘアサロンでも導入が見られます。賃貸住宅においても共用部の雰囲気をワンランク上げる効果が期待できるでしょう。

メリットは、なんといっても水やりや剪定が不要で、一年中「ベストな見栄え」が持続する点。実物と違って「いつの間にか枯れていた」「においが発生」といったことも起こりません。導入コストは高めですが、数年間の生花管理コストと比較すれば前向きに検討できそうです。

そのほか、趣味がガーデニングなら物件の敷地も管理、生け花のスキルがあれば共用部を飾るなど、さまざまな対策が考えられます。元気よく雑草が伸びてしまう前に、アイデアを駆使して積極的な雑草対策・グリーン活用に取り組んでみてください。

2021年04月07日

節税効果だけじゃない!スムーズな相続につながる生命保険の非課税枠活用方法


不動産や預金、金融商品などの財産が一定規模以上の場合、相続税の対象となります。投資用不動産という大きな財産を持つ賃貸経営者としては、その相続税対策が悩みの種ですね。「家族にできるだけ多くの財産を残したい」「相続の煩わしさがないようにしてあげたい」そんなとき検討したいのが生命保険の活用です。

【「法定相続人×500万円」の相続税非課税枠の計算方法】

【質問】父親であるAが死亡し、妻のBに生命保険金2000万円が支払われました。AとBにはCとDという2人の子がいます。この場合、Bが受け取った保険金にはどのように相続税がかかりますか?

ここで押さえておきたいのは、生命保険金には相続税の「非課税枠」が用意されている点です。保険料の全部または一部を被相続人が負担していた生命保険の保険金は、相続税の課税対象とされる一方で、受取人が法定相続人であれば一定額まで非課税とされるのです。非課税枠は次の計算式で算出されます。

非課税枠=500万円×法定相続人の数(※)

要件1▶被相続人が被保険者であり
   契約者(保険料負担者)である生命保険

要件2▶保険金の受取人が法定相続人

この一家の場合、法定相続人は妻B、子C・Dの計3名。つまり500万円×3名=1500万円が非課税の扱いとなり、Bの受け取った保険金2000万円は500万円のみが課税対象となります。現金であれば2000万円まるごとが課税対象となるところ、生命保険を活用したことで大きな節税になったのです。

【「受取人固有の財産」のメリット・デメリットを知っておこう】

ところで、生命保険金は、厳密には相続財産ではなく「みなし相続財産」であることはご存じでしょうか。本来、生命保険金は契約に基づいて受取人が受け取る「受取人固有の財産」と考えられます。あくまで「税務上は相続財産」であるだけで、原則としては遺産分割協議の対象にもならない「受取人の財産」なのです。

これはつまり、受取人(相続人)は遺産分割協議を待たずとも、すぐに生命保険金を使用できることを意味します。審査で問題がなければ、保険会社への申請から5営業日ほどで保険金が振り込まれ、受取人はこのお金を葬式代などに充てることが可能となります。

相続財産が預金や不動産であれば、たとえ相続人であっても、分割協議前にそれを使用することは容易ではありません。2019年7月の法改正から相続人が一定額まで被相続人の預貯金の仮払いを受けられる預貯金仮払い制度が始まってはいるものの、何かと慌ただしく物入りな相続発生直後にスムーズに対応できる生命保険金は、残された家族にとって心強い味方となるのです。


ただし、活用にあたっては注意点もあります。それは、各相続人に対する保険金の設定額です。先述の質問ではBだけが2000万円を受け取りましたが、これをC・Dに分け与えて相続金額を調整しようとすると、ここには新たに税金が発生します。保険金という「固有の財産」を他者に分け与えることになるため、分与によって贈与税が発生してしまうのです。

ただでさえ、賃貸経営者には分割の難しい「不動産」という財産があります。公平分割のための調整の余地を残しておかないと、このような生命保険金での調整も発生しかねません。節税目的での生命保険で別の税金が発生してしまっては本末転倒です。節税に有効な生命保険だからこそ、その活用の際には相続財産全体について計画を立て、適切な保険金額・受取人の設定を行ない、円満な相続を実現しましょう。

(※)相続放棄者や相続欠格・廃除者は除く。養子は、実子がいる場合は1名まで、実子 がいない場合は2名まで法定相続人に含めることが可能。

2021年03月26日

コンセプト賃貸に挑戦!猫好き入居者の心を捉える「猫部屋」をつくろう


引っ越しシーズンもピークを過ぎて、いよいよ4月。賃貸ニーズが下降する中で空室に入居者を呼び込むなら、装いをがらりと変える思い切った空室対策も必要でしょう。そこで検討したいのが、入居者ターゲットをぎゅっと絞った「コンセプト賃貸」という選択肢。敢えて尖った企画で物件を刷新し、他物件との差別化を図るとともに企画に共感してくれるファン(入居者)の獲得を目指す募集戦略です。

中でも最近のオススメは「猫部屋」というコンセプト。猫と人との快適な暮らしを追求する猫共生住宅の提供です。

【高まる猫人気。コロナ禍でさらに過熱】

近年、高まりを見せる猫人気は、コロナ禍の影響を受けてさらに勢いを増したと言われます。事実、一般社団法人ペットフード協会の調べでは、2020年中に新たに飼われた猫は約48万3000頭。前年より約6万7000頭も増えています。猫は生活音が静かで散歩も不要と、他のペットに比べて飼いやすい点が数字を押し上げているようです。

さらに、昔から人気を二分してきた犬と比べても、かつての飼育頭数の圧倒的劣勢を逆転、今では猫が100万頭も多い状況とのこと。飼い主も単身世帯の割合が増えており、賃貸業界においても猫人気は無視できないものとなっています。

【猫部屋づくりは猫用アイテム選びからスタート】

さて、一口に猫部屋といってもつくり方はアイデア次第。まずはお試し程度に始めたいという場合は、猫好きのハートを射止めそうな猫用アイテムを「買って、置くだけ」でも大丈夫です。ただし、猫部屋としての集客力は、やはり徹底的にコンセプトに特化したほうが高まります。予算や市場と相談のうえで、導入する設備を決めましょう。

アイテム①キャットタワー

猫の遊び場・休息場所となる「キャットタワー」は、愛猫の運動不足やリラックスできる空間を気にする猫好きにとって、あると嬉しい定番の猫用家具です。ただ置くだけのタイプと、天井と床とで固定する突っ張り棒タイプが主流で、どちらも種類豊富。設置も手軽で、猫部屋づくりの入門アイテムといえるでしょう。


アイテム②キャットウォーク   

行動範囲の限られる室内で、猫が自由に歩き回れる「キャットウォーク」も、猫好きに人気のアイテムです。据え置き棚タイプならインテリアとしても見栄えがするうえ、部屋の収納力もサポート。また、施工のコストは掛かりますが、壁付きのステップタイプや天井吊り下げ式なら、狭いお部屋でも頭上等のデッドスペースを有効活用して導入できます。


アイテム③クッションフロア

適度に柔らかい「クッションフロア」の床材にすることも、猫部屋づくりのポイントのひとつ。高所から飛び降りることの多い猫にとって、硬く滑りやすいフローリングの床は、足腰のケガや不調の原因になり得るからです。

また、防水性の高いクッションフロアは、猫の尿や吐しゃ物から建物を守る効果も発揮します。猫の健康面、そして退去後の原状回復の面からも、クッションフロアは猫好きに嬉しい床材なのです。


アイテム④ペット用クロス

原状回復といえば、壁や柱への猫の爪とぎ被害。賃貸経営者だけでなく、猫好きにとっても悩みの種です。その点、頑丈な「ペット用クロス」を導入した部屋なら、爪をといでも傷がつきにくく安心です。オススメは、見切り材で「腰壁」風に上下を分けて、下半分だけペット用クロスを貼る施工法。割高なペット用クロスの費用を抑えつつ、見た目のオシャレさも演出できます。

そのほか、キャットハウスや爪とぎグッズ、猫用扉、脱走防止扉など、市場には実に多くの猫用アイテムが登場しています。猫と人の両方の住み心地を考慮しつつ、理想の猫部屋に最適なアイテムを探してみましょう。

【リスク対策はしっかりと。猫部屋の正しい運用方法】

猫部屋づくりは、お部屋そのものをつくり込むだけでなく、契約条件やルールなどの運用方法を工夫することも欠かせません。トラブルが起きても確実に対処できるよう事前準備を徹底しましょう。

運用のコツ①

敷金・礼金を増やして原状回復費用を担保する

猫部屋のみならずペット可物件を運用するなら、押さえておきたいのが膨らみがちな原状回復費用の備えです。敷金・礼金を1~2ヶ月分「積み増し」したり、敷金の一部を返還せず償却する「敷引き」を取り入れるなど、契約時点で原状回復費用の担保を増やしておきたいものです。

もちろん、初期費用が高額になることで入居付けに悪影響が出る不安もありますが、一方で、愛猫のためのお金を出し渋るような飼い主は、責任感にも疑問符が。不良借家人をふるいにかける意味でも、入居のハードルを上げることは有効といえます。

運用のコツ②

飼育内容を把握してトラブル防止

たとえ入居が決まっても、借主の飼育状況が悪ければ健全な猫部屋運用は叶いません。無用なトラブルを避けるためにも、契約時には必ず「ペット飼育に関する承諾書」とともに、「ワクチン接種証明書」「避妊・去勢手術証明書」等も提出してもらいましょう。

あらかじめ猫の情報を把握しておけば、万一の際の飼い主(借主)の特定も容易に。また、書類の中でも避妊・去勢手術証明書の提出は徹底したいところ。猫は発情期になると問題行動を起こしやすくなり、お部屋がダメージを負う可能性も高まります。未実施の場合は手術予定日を忘れずに確認します。


猫人気が高まる昨今、猫部屋は入居者を呼び込む「招き猫」となるかもしれません。運用面で管理会社の協力を仰ぎつつ、物件の新しい魅力づくりに挑戦してみましょう。

2021年03月21日

理想の対策サイクルは5年!? シロアリから大切な建物を守る

暖かく過ごしやすい日が増えてきましたが、春はシロアリのような「害虫」の動きも活発になる季節。たとえば、日本全国に生息するヤマトシロアリは4~5月が「羽アリ」となって飛び立つシーズンであり、これまで倒木や地面の下で大人しくしていた個体が、狭くなった巣から新天地へと移動を開始し、人の目に触れるところに現れます。

たとえそれが建物の木材の中であろうと、巣作りに適した場所を見つけたシロアリは繁殖して食害を始めます。シロアリは柱や基礎部分、浴室など、木材があるところ全てに侵入する可能性があるので、木造でないから大丈夫とは限りません。金属やタイル等で覆われた場所にも思わぬ隙間から入り込むので、大切な建物を守るには、徹底した防除策が不可欠です。

湿気と暗がりに要注意。4つのシロアリ防除策

① 木材に巣食っているシロアリを薬剤で駆除する
② 木材に薬剤を注入し、シロアリが食べられないようにする
③ 木材表面を薬剤でコーティングし、シロアリの侵入を防ぐ
④ 地中に巣を作られないよう、土壌への薬剤処理を行なう

特に重要なのが地中や床下からの侵入の防除です。光や風を嫌い、暗がりと湿気を好むシロアリは、大抵は付近の営巣地からトンネル(蟻道)を掘って入り込んでくるからです。よって、アパートの敷地内に木材や木の杭、ダンボール、切り株などを雨ざらしで放置しておくのはNG。それらがシロアリの営巣地となり、ゆくゆくの侵入経路となりかねません。

対策実施は薬剤の効果が薄くなる5年サイクルが望ましいとされますが、それなりの費用が高頻度で発生することにもなるため、まずはご自身で床下を覗いてみるのもいいでしょう。ただし、蟻道や食害の痕跡らしきものを見つけてしまったら、直ちに専門業者の手配を。また、シロアリ被害の発生しやすい地域では、最初から点検費を定期メンテナンス費として運営計画に組み込んでおくのも手です。

2021年03月10日

住まいのニーズが変わった!コロナ禍を乗り切るための賃貸“新ターゲット”戦略


日本で新型コロナウイルス感染症が騒がれるようになって、既に一年。新しい生活様式に合わせて、住まいに対するニーズにも大きな変化が起こったことは、皆さんもご承知の通りです。2020年11月発表の「第2回コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査」では、住まいの条件として「駅からの距離」よりも、「住居の広さ」「性能」を求める声がコロナ禍以前より高まっていることが明確な数字として表れました。購入・建築ニーズの変化は当然賃貸にも及ぶため、物件のターゲットを見直してみるべきタイミングかもしれません。


立地より働きやすさ重視で
「ワークスペース」「通信環境」のニーズ増

業種によってはすっかり定着したテレワークという働き方。今や住宅には住みやすさだけでなく「働きやすさ」も求められています。前述の調査でも“住宅に求める条件の変化”として「仕事専用スペースが欲しくなった」は1位に挙がっており、関心の高さがうかがえます。

賃貸市場でも「職住一体」を叶えるさまざまな空室対策が登場していますが、特に注目を集めているのが「ワークスペース」の設置です。室内にワークデスクを設置・造作するだけでも競合との差別化に貢献してくれますし、新築であれば住民専用の共用ワークスペースつき物件を企画してみるのも面白いでしょう。

また、2位の「通信環境」も見過ごせないニーズです。市場にはインターネット無料の物件が増えていますが、最近ではその「速度」を気にされる方も増えてきました。いくらネット環境が整っていても、回線速度が遅いのでは仕事・プライベート双方に支障が出ます。快適なネット回線を確保し、入居者に長く住んでもらえる環境を整えたいものです。

そのほかでは「遮音性」(8位)もテレワークには大事な条件。二重サッシや防音マット、吸音材などを設置して防音対策を充実させれば、「働きやすさ」で物件の訴求力を高められるでしょう。


家賃債務保証も利用可。
今後も増加する「フリーランス」をターゲットに

在宅ワークという点では、「フリーランス」と呼ばれるライターやデザイナーなどの自営業者へのアプローチも検討できるかもしれません。

フリーランスの人々は、サラリーマンよりも収入が不安定に見えるために入居審査を通過できないこともあり、転居したくとも部屋が見つからない、ということが起こりがちです。一方で、働き方の多様化に伴い、フリーランスという形態で働く人の規模は今や全国数百万と急拡大しているとも言われます(※)。

市況の読めない現状、そしてアフターコロナでは、フリーランスは無視できない存在となりそうです。最近では、フリーランスを主な対象とした家賃債務保証事業も登場。滞納リスク等への具体的な備えもできるなら、新ターゲットとして検討の余地は十分にあるでしょう。

※ 内閣府「日本のフリーランスについて -その規模や特徴、競業避止義務の状況や影
  響の分析-」(2019年7月)より

現役世代は広さを求めて郊外へ
アクティブシニアは駅近物件に

フリーランスと同様、新たなターゲットとして存在感を増しているのが「アクティブシニア」と呼ばれる元気な高齢者です。近年は、高齢者が「住居が広く管理が難しい」「駅・バス停から遠い」という理由で戸建てを売却し、賃貸に引っ越すケースの増加傾向が続いています。アクティブシニアは家族構成の変化に対応した小ぢんまりとした住空間や駅近などの交通利便性、住宅設備の機能性を求めているのです。

一方で、現役世代が大半を占める今回のコロナ禍ニーズ調査では、この高齢者の動向とは真逆の結果が示されているのは面白いところです。コロナ禍の前後では、既に述べた「駅近よりも広さ」の変化だけでなく、「通勤時間60分を許容する」という層が増加する結果に。現役世代の職住近接志向が弱まり、郊外志向が高まることで、立地がネックだった物件にチャンス到来の可能性も。駅近狭小物件は人気を落としかねませんが、アクティブシニアに裾野を広げてニーズを補うことで稼働率維持を叶えることができそうです。


DIYやペットをコンセプトとした企画で
特定ターゲットを狙い撃つ!

ターゲット拡大とは逆に、ターゲットを絞り込むことで入居者を得るという手法もあります。それが「コンセプト賃貸」。物件に明確なコンセプトを持たせ、共感した入居者に住んでもらう賃貸住宅です。狭いニーズを狙うことで競合が減り、長期入居や家賃アップが望めるという利点もあります。

コンセプト賃貸のなかでも、人気を集めているのが「DIY可物件」。DIYとは自力での室内改装のことですが、コロナによる「巣ごもり」から需要が伸びています。自分の手で部屋をカスタムすることで愛着が生じ、長期入居につながる期待も。また、コロナ禍ではペット需要も急増しており、「ペット共生物件」というコンセプトも強力な空室対策になりそうです。

珍しいものでは、スポーツジムを併設したジム付き賃貸や、前述の「フリーランス」専用シェアハウスなど、アイデアはさまざま。また、「姫部屋」「北欧風」「カフェ風」など、コンセプトを決めた内装デザインで差別化を図り、競合と勝負する方法も。改めてターゲットを設定し、そこに訴求するコンセプトを考えてみることで、物件に新しい魅力を付与するチャンスが生まれそうです。

2021年02月28日

「防災」で空室対策とテナントリテンションを叶える


東日本を襲った未曾有の大震災からこの3月で丸10年。月日が過ぎるのは本当にあっという間ですが、その間にも2016年の熊本地震(震度7)、2018年の大阪府北部地震(震度6弱)、北海道胆振東部地震(震度7)などが発生しており、改めて日本が地震大国であること、さらには台風、水害などの災害と隣り合わせであることを痛感させられます。

いつ起こるかわからない災害だからこそ、いざという時の備えが重要。また、賃貸経営者としては入居者に安心・安全を提供することも考えなくてはなりません。一方で、災害に対する安心を謳えれば、近隣競合物件との差別化や入居者満足度アップの効果も。これらの両面から、災害対策を考えてみましょう。

①防災バッグプレゼント

入居者の安全確保と訴求力向上を同時に叶えるのが、災害時のお役立ちグッズの詰め込まれた「防災バッグ」のプレゼントです。セット商品は種類が膨大にありますので、予算と中身のバランスを見て選択しましょう。

また、防災グッズ一式でなくとも、次のようなアイテムを備蓄・提供できれば、万一の際に役立ちますし喜ばれます。

●水・非常食… 生きるための基本。非常食には、ガスや電気が使えない状況でもすぐに
 食べられる缶詰や乾パン、賞味期限の長い栄養補助食品がおすすめ。賞味期限に合わ
 せて入れ替えが必要ですが、期限切れ前の非常食を利用して試食会や防災訓練、入居
 者交流会などを開催し、防災アピールや啓蒙するのも有意義です。

●ハザードマップ・指定避難場所の地図… 災害時はもちろん、被災後の安全の確保も重
 要です。地域の避難場所への地図のほか、物件内の避難経路も用意しておきましょう 。

●携帯トイレ… ライフライン停止時はもちろん、避難所でも問題となりやすいのがトイ
 レ。特に女性には大きな不安要素となります。ウェットティッシュもあると尚良し。

●防寒具… 冬場だけでなく豪雨災害などでも体温維持は重要。カイロや毛布、嵩張らな
 い折り畳み式のアルミ製ブランケットが役立ちます。

②防災倉庫の設置

物件単位での施策として、空きスペースがあれば防災用具をまとめた「防災倉庫」を設置するのも一つです。おすすめは、大規模な災害時の救助活動に役立つ三種の神器「ノコギリ・バール・ジャッキ」のセット。また、スコップやハンマーといった工具類、ロープや軍手、安全靴、ヘッドライト、ブルーシートなど、いざという時の備えが物件にあれば、入居者に与える安心感は倍増するでしょう。

③室内の安心提供

大地震の際は、倒れた家具の下敷きとなって命を落とすケースも多くあります。「対策をしなかった入居者の責任」と言ってしまえばそれまでですが、一方で賃貸住宅では、壁や天井を傷つけてしまうのを気にして対策のできていない入居者も。あらかじめ配慮があると安心度・満足度に大きな差が生まれます。

●家具転倒防止策なら原状回復免除… 本格的に対策するとなると、床や壁に家具転倒防
 止ベルトをビス留めする必要も出てきます。事前申請制で穴開け・ビス留めを許可し
 、原状回復を免除すれば、入居者の震災対策も進みます。

●震災対策グッズの提供… 前述の転倒防止ベルトや転倒防止突っ張り棒、地震の際に棚
 類の扉をロックしてくれる「耐震ラッチ」などを提供します。どれも数百円~3千円程
 度で用意できます。

●ガラスの飛散防止フィルム… 地震や台風で怪我をする場合の多くが、割れて飛散した
 ガラスによるもの。防犯効果も兼ね備えた商品なら一石二鳥です。価格は1枚1,000円
 程度から。

自然災害に備えている賃貸物件はまだまだ少ないのが現状。だからこそ、貸し手側からの積極的な対策は入居者・入居希望者の心に響きます。双方にメリットをもたらす防災対策、この機会に是非ご検討ください。

2021年02月17日

高齢化社会の賃貸経営の味方「地域包括支援センター」とは

少子高齢化を突き進む現代の日本において、「高齢者」は賃貸ターゲット拡大策における重要な属性です。しかし、いざ実際に高齢者を受け入れるとなれば、心配ごとも増えるもの。そんな時、頼りになるのが高齢化社会の相談窓口「地域包括支援センター」です。

全国すべての市区町村にある高齢化社会の総合相談窓口

地域包括支援センターとは、介護保険法に基づき、地域に住む高齢者支援の窓口として介護サービスの導入や健康増進のための支援を行っている機関です。全国すべての市区町村に設置されており、その数は5,167にものぼります。(平成31年4月末時点)

センターには主任ケアマネージャー、保健師、社会福祉士が在籍し、相談内容に応じて医療機関や行政との連絡調整等を行なってくれます。高齢者本人だけでなく、
家族や地域の関係者でも相談が可能です。


地域の関係者である賃貸経営者や管理会社もセンター活用を

高齢者受け入れにあたって、まず心配なのは本人の健康面でしょう。重度の認知症を発症して賃料や光熱費の滞納、迷惑行為(ゴミ出し、騒音、隣人トラブル)などが発生しないとも限りませんし、病気による孤独死という不安も脳裏を過ぎります。もちろん、通常であれば独居の高齢者は市区町村が把握しており、地域の民生委員によるサポートが行なわれているはずですが、家主でなければ気づけないような変化もあるでしょう。

そんな高齢入居者の変化や異常に気づいた時、相談に乗ってくれるのが地域包括支援センターです。家族でなくても賃貸経営者や管理会社スタッフが直接相談できますし、電話相談したうえでセンター担当者に様子を確認してもらうこともできます。

状況によっては、高齢入居者本人の住み替えや施設入所などの手続きも進めてくれます。高齢者が入居した場合、いざという時に備えてあらかじめ物件の属する地域のセンターを押さえておくと心強いでしょう。

2021年02月04日

低コスト&短工期 オンシーズンに間に合わせる「お手軽」空室対策8選

春の引っ越しシーズンが幕を開けました。1年で最も部屋探しが活発になるこの時期、新型コロナの影響によって例年通りとはいかないことも予想されますが、そもそも周辺物件と比べて「実力不足」では満室は叶いません。残り短いオンシーズンに間に合わせるべく、低コスト・短工期重視で後付け可能なお手軽対策を考えてみましょう。

■WEB検索で選択肢に残るための設備項目対策

ご承知の通り、昨今のお部屋探しの勝負どころはWEB検索。入居希望者はSUUMO等のポータルサイトで「2階以上」「バストイレ別」「室内洗濯機置き場」など、希望する条件にチェックを入れて物件を絞り込んでいくわけで、つまり「チェックできる項目を増やすほど最終候補に残りやすい」ことを意味します。

よってこの時期の空室対策は、まず「チェックできる人気設備項目を手早く増やす」ことに重点を置きましょう。設置が簡単な設備・後付けアイテムでも解決を図れる項目が狙い目です!

1.モニター付きインターホン

通常は電気配線工事などが必要になりますが、昨今は乾電池式など「工事不要」の商品も増えています。安価な後付けの商品でも性能を満たせば広告で謳えます。なお、通常の工事でも工期は1日程度、費用も5万円程度です。

2.温水洗浄便座

若年層を中心に選択率が高まっている人気設備です。商品の選択肢も多彩で価格も手ごろ、後付け設置も簡単と、三拍子そろった優秀なお手軽対策と言えます。

3.宅配ボックス

近年ニーズが急増。価格は高めで設置にはスペースや工事費もかかりますが、「その場しのぎ」ではない長期的価値を物件に付与することができます。

4.ガスコンロ/IHクッキングヒーター

人気の「IHコンロ」「コンロ2口以上」の項目も決してビルトインである必要はありません。後付けでもスタイリッシュなデザインでお手軽価格の商品が増えています。ただし、IHの2口を置く際はブレーカーが落ちない配慮が必要です。

■内見時の印象を良くするための対策

せっかくWEB検索で最終候補に残ったのなら、暮らしやすさや利便性を内見者にきちんとアピールしたいもの。ポータルサイトの検索条件項目にないものほど、内見時に意外性で「あって嬉しい!」という反応を引き出す余地があります。

5.姿見設置/シューズボックス

生活の中で地味に役立つ姿見。壁に取り付ける薄型タイプなら狭い玄関などにも設置可能です。鏡で空間が広く感じられ、第一印象アップの効果も。WEB検索対策を兼ねるなら、姿見つきのシューズボックス導入という手もアリ。

6.照明・LEDシーリングライト

スマートで便利なシーリングライトがあらかじめ設置されているのも嬉しいものです。昨今はBluetoothでスマートフォンと接続し、明るさを調節したり音楽を流したりできる商品も。

7.ディンプルキー/スマートロック

関心が高いセキュリティ設備でありながら、ポータルサイトの検索条件項目にないのが鍵関連。ディンプルキーに交換してピッキング対策をアピールしたり、サムターン後付け型のスマートロックで利便性と最新性をアピールするのも手。

8.室内物干し

実生活にプラスに貢献する室内物干しも、実は検索条件の対象外。浴室乾燥機と比べて低コスト・短工期で実装できるわりに、高い満足度を与えてくれる商品です。

優先すべきは「WEB検索対策」ですが、簡易的な施策であるぶん、どれかひとつの実施くらいではインパクトは弱め。早期成約を目指すなら「内見時対策」と組み合わせ、可能な限りの複数対策で物件の魅力を総合的に高めましょう。即断即決で、少しでも早くオンシーズンの戦いの舞台に上がりたいものです。

2021年01月29日

節税対策としてメリット多数 経営状況に合わせて検討したい「青色申告」と「法人化」


2月といえば確定申告。一年の総決算の時期となりました。年間の収支をまとめていると、気になってくるのが「青色申告」や不動産経営の「法人化」等の節税策。いずれも事前準備や手続きが必須であることを考えると、それぞれの基本を押さえ、将来的な活用の検討を始めるにはいいタイミングです。

使わないと損?個人事業の節税の味方「青色申告」

個人の確定申告の方法に「青色」「白色」の2種類があるのはご存じですね。「青色申告」は多少の手間はかかりますが、複式簿記により帳簿を作成し、賃借対照表および損益計算書などを提出することで多くのメリットが得られます。特に不動産経営が賃貸物件10部屋以上もしくは5棟以上などの事業的規模であれば、さらに大きな節税効果が期待できるでしょう。

メリット1:最大65万円の特別控除

青色申告の大きなメリットは、課税対象となる所得に対し、要件に応じて最大65万円もの特別控除が受けられる点です。控除額は2020年分の申告から改正され、65・55・10万円の3種類となりました。

65万円控除を受けるには、複式簿記での記帳などの従来要件(55万円控除要件)に加え、「e-Tax(インターネット経由で自宅でも確定申告ができるシステム)による電子申告または電子帳簿保存」が必要。青色申告に挑戦するならe-Taxの準備も忘れず行ないましょう。

メリット2:生計を一とする家族への給与を必要経費に

生計を一とする配偶者や親族への給与は、原則として必要経費にはなりません。しかし、青色申告では「青色事業専従者給与」を利用することで、配偶者等への給与全額を経費化することができます。

制度の利用には税務署への「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出のほか、「(配偶者等の)6ヶ月超の事業への専従」「社会通念上、妥当な給与額」などの要件を満たす必要がありますが、給与全額経費化の効果は魅力的。ただし、制度の利用によって配偶者控除や扶養控除が受けられなくなったり、給与額によっては専従者の所得税や年金、健康保険料の支払いが生じますので注意が必要です。

メリット3:赤字の繰り越し・繰り戻し

青色申告を行なっていれば、その年に出た事業の赤字を、翌年から最長3年にわたり「繰り越す」ことができます。例えば、2020年に100万円の赤字が出たものの、2021年が200万円の黒字だった場合、前年100万円の赤字を繰り越して黒字分から差し引くことが可能に。2021年の課税対象額は100万円となり、税金を安く抑えられます。

同様に、赤字の「繰り戻し」も可能です。その年が赤字でも、前年分の黒字と相殺することで、一度確定した前年の所得額を減らし、払い過ぎとなった税金を取り戻すことができるのです。

注意するべきは、青色申告には、あらかじめ申請書を税務署に提出して承認を得る必要がある点です。申請は申告しようとする年の3月15日まで(※1月16日以後の新規開業の場合は、開業日から2ヶ月以内ならいつでも申請可)。メリットが多い反面、帳簿作成や手続きの手間などから敬遠されがちな青色申告ですが、近年は安価な会計ソフトやクラウドサービスも充実し、申告のハードルも下がりました。申請を考えている方は期限に注意して次回以降の申告に備えましょう。

事業規模に応じて検討したい「法人化」による節税

青色申告と同様、節税対策として検討されることが多いのが不動産経営の法人化です。物件を設立した法人の所有として経営し、税金の圧縮を図ります。特に所得の高い方や相続税が気になる方は、法人化で大きな節税効果が見込める可能性大です。

メリット1:税率差や給与所得控除で税金を安くする

個人の「所得税」は累進課税のため、所得が多くなればなるほど税率も高くなり、最大で45%にも達します。一方で、「法人税」の法定実効税率は最大でも34%程度。法人化はまずこの税率差による節税が期待できます。

加えて、法人から役員報酬を支払えば、法人は課税所得を減らせるとともに、個人は給与所得控除の適用が可能となり、税金総額を少なくすることができます。
一例として、事業所得が1000万円だった場合の

 ①個人にかかる所得・住民税額 と
 ②法人化した際の法人税+法人住民税+個人の所得・住民税の税額(極端ですが、法  人所得1000万円をすべて個人の役員報酬とする)

を概算で比べてみましょう。

計算はあくまで概算で諸条件によって異なります

①個人
【所得・住民税】
 事業所得×税率※-所得税の控除額
 1000万円×43%-53万6000円=276万4000円

②法人
【法人所得】
 事業所得-役員報酬
 1000万円-=0円

法人所得が0円のため発生しません。

【法人住民税(均等割)】=7万円
   +
【所得・住民税】
(役員報酬-給与所得控除)×税率※-所得税の控除額
(1000万円-195万円)×33%-63万6000円=202万500円

税金合計 7万円+202万500円=209万500円
※所得税率と住民税率約10%の合算

このように事業所得は同じでも、法人の給与所得の方が個人事業主の所得より約67万円も節税できることが分かります。また今回は割愛しましたが、社会保険料控除などの他の控除も含めれば、節税額はさらに大きくなります。事業所得が増えるほど、税負担の差はより法人有利となる以上、経営規模が大きい方や今後拡大を検討している方は、早いうちに法人化を検討した方がいいでしょう。

メリット2:法人所有で相続財産を圧縮・移転

法人化におけるもうひとつの節税ポイントが相続です。個人所有の不動産は相続財産となり、被相続人が亡くなった際に少なくない額の相続税を発生させますが、不動産が法人所有であれば相続税の課税対象から外すことができます。

加えて、不動産所得を役員報酬等として家族に支払えば、不動産は法人の所有のまま、家族には給与所得控除を利用しつつ現金を譲り渡すことができます。生前からの財産移転がスムーズに進むのです。

法人化はその他にも、赤字の繰り越しが9年可能だったり、個人より経費計上できる項目が増えたりとメリットが目立ちます。一方で、法人の設立費用や税理士報酬等の維持費が必要な点、赤字でも税金が発生する点、そもそも800~1000万円程度の所得がないと恩恵が小さい点などデメリットも多数あります。法人化を検討する際は、専門家とよく相談したうえで節税効果をシミュレーションし、将来の方向性も含め実施の是非やタイミングを慎重に判断しましょう。

2021年01月18日

冬季のトラブル「給湯器凍結」対処法

節分を過ぎたものの、寒さはまだまだ冬のもの。沖縄をはじめ南の地域ではあまり縁がありませんが、この時期に多く発生するのが給湯器の凍結トラブルです。

凍結と聞くと北国を思い浮かべますが、実は寒さ対策がしっかり整った寒冷地よりも、比較的温暖な地域のほうが、急な寒波の到来などによって凍結トラブルを起こしがち。給湯器が凍結してしまうとお湯が出なくなるばかりか、機器の故障や配管の破裂にもつながるため注意が必要です。

■凍結の原因と対処法

給湯器および配管内の凍結の原因は次の2つです。

 ①外気温が0度を大幅に下回った
 ②配管内の水の流れが止まっていた

気温の問題は当然として、問題は②です。わずかでも水の流れがあれば凍結を抑止できるのですが、空室など長時間にわたって水が動かない給湯器・配管内の水は凍結の可能性が高くなります。これを防ぐには、次の2つの方法が有効です。

 ●給湯器・配管内の水抜き作業をする
 ●配管に断熱材やヒーターを巻きつける

給湯器には凍結防止用の「水抜き栓」が用意されています。真冬に退去が発生した場合は、水抜き作業を行なって給湯器・配管内の水を抜いておくと安心です。

また、頻繁に外気温の下がる地域の物件・過去に凍結による配管破裂を経験されている物件では、断熱材等による凍結予防をするべきでしょう。現在の給湯器には凍結予防ヒーターを搭載しているものも多くありますが、給湯器に接続している配管まではカバーできないためです。

なお、実際に凍結してしまった場合の対処法としては、メーカーの推奨は「自然に融けるのを待つ」こと。焦って熱湯をかけるなどしてしまうと、急激な温度変化から配管の破損を招くことになってしまいます。専門業者の協力を仰ぐのが賢明ですが、早急に直す必要がある場合には、無理はせずぬるま湯やドライヤーの温風などでなるべく時間をかけて対応しましょう。

2021年01月10日

コロナが生んだ7つの変化に対応 2021年を生き残るための賃貸経営戦略

いよいよ迎えた2021年、新しい年の幕開けです!昨年は新型コロナウイルスによって賃貸業界もさまざまな影響を受けましたが、今年はその「変化」をしっかり受け止め、先手先手で立ち回る一年としたいものです。

まもなく本格化する春の引っ越しシーズンも、おそらく例年とは異なるものとなるでしょう。文科省の発表によれば、未だ全体の約8割の大学が登校不要の「オンライン講義」を併用しているとのこと(※1)。今春卒の大学生の就職内定率も5年ぶりの低水準と報道されています。また、法務省は在留外国人について、昨年6月末時点で約4.7万人が減少したと発表(※2)。オンシーズンといえど、賃貸需要減の不安は拭えません。

厳しい戦いが予想されますが、しかし「変化」に応じて適切な対策を打てればまだ勝機はあります。今年の「丑年」は、前年に撒いた種が芽を出し成長する年、今を耐え忍べば発展が待つ辛抱の年とも言われます。コロナ禍を切り抜けるヒントとして、7つの戦略をご紹介しましょう。

 ※1 文部科学省:「大学等における後期等の授業の実施方針等に関する調査結果           (地域別)」

 ※2 法務省:「令和2年6月末現在における在留外国人数について」

戦略その1:入居者ターゲットを確認し再設定

コロナによって従来の入居者層のニーズが見込めそうもない場合には、早急にターゲットの拡大・再設定が必要でしょう。空室損が膨らむ前に、管理会社と相談したうえで新しいターゲット候補を探すべきです。学生需要がメインだった1K・1Rの場合、増加を続ける単身シニアや、元々のターゲットに近い若手社会人・フリーター等の需要の検討、思い切って「ペット可」の需要に応えるなどの戦略も考えられます。

大事なのは、手当たり次第ではなく、周辺地域のニーズを調査したうえでターゲットを広げること。資金に余裕があるなら、宅配ボックスやネット無料等の人気設備を導入し、選ばれる可能性を高めましょう。

戦略その2:非対面で現地に行かずに内覧できる取り組みを

全国的に「非対面営業」が広がりを見せる今、ITを活用した「リモート内覧」「バーチャル内覧」等に対応させる手は有効でしょう。管理会社等から提案があった際は、前向きに導入を検討してみましょう。

現地に行かずに内覧(または疑似的な内覧)ができる状態は、コロナ対応だけでなく、遠隔地の方や、多忙で内覧できない方を捕まえるチャンスも生み出します。最近では疑似内覧でも室内採寸ができるサービスが登場するなど、今後の技術発展にも期待できます。

戦略その3:貴重な現地内覧者に直接アピールで好印象に

リモート内覧が台頭するこのご時世、現地への内覧希望者は貴重、かつ確度も高めといえます。是非とも、現地で良好な第一印象を抱いてもらいたいものです。

まず気遣うべきは清潔感。室内の見た目もちろん、第一印象を左右する外壁、廊下、植栽、エントランス等にも気を配りましょう。また、「におい」にも要注意。かび臭さやタバコ・下水のにおいはNG。定期的な換気、消臭剤、アロマなどで対策しましょう。

一手間かかるものの、内覧者のために寸法の分かる間取り図や周辺のエリアマップ、簡単なプレゼントを用意するのも手です。インパクト重視なら、「大家さんからの内覧のお礼の手紙」という戦略も!

戦略その4:契約電子化は賃貸経営者入居者双方にメリット有り

昨年新たに「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が公布されましたが、2021年もルール面での変更がありそうです。2020年10月には、国土交通省が不動産取引における契約書面のデジタル化を進める意向を表明。IT重説に続き、契約の完全電子化に向けた法改正等が予想されます。

電子化が実現されれば賃貸経営者の手間も軽減されるほか、入居者側にも時間的拘束や手間の軽減などメリット多数。実現・導入となった際は是非前向きの対応を。

戦略その5:DIY可に条件変更して解約抑止の布石を打つ

コロナによる巣ごもり需要の高まりで、増加しているのがDIYに親しむ人たちです。入居条件に「DIY可」を加えることで魅力アップを狙えるかもしれません。

DIY可のメリットは、自主改装によって入居者が部屋に愛着を抱きやすくなり、長期入居が期待できる点。供給が少ないため差別化も期待できます。お部屋を自分好みに改装したい層にとっては、大規模な改修許可でなくとも嬉しいもの。まずは「壁一面だけ」「キッチンのみ」など限定的な許可から始めてみましょう。


戦略その6:家具家電付きで短期需要やシンプルライフ派を取り込む

需要減が予想される一方で、コロナの感染状況に振り回され、住まいの確保に困っている大学生や外国人もいるのではないでしょうか。いつ登校授業に切り替わるか分からない、いつ帰国が必要になるか分からない…、長期契約に不安を感じる層のために、家具家電付き・短期契約可の物件を用意するのも手です。

先の読めない状況だからこそ、入居者が借りやすいお部屋を提供するのも一つの空室対策。家具家電を用意する必要がないので、引っ越し費用や初期費用が気になる人、最小限の持ち物で暮らすミニマリストやシンプルライフ派の関心も集めそうです。


戦略その7:ワークスペースや会議室など仕事場として活用

住まい方と同様に、大きく変化しているのが「働き方」です。緊急事態宣言で全国的にテレワークが普及したことをきっかけに、感染状況に合わせて在宅ワークと出社を切り替える会社が増加。住まいに「仕事をする空間」が突然必要になって困っている層も多いでしょう。

さらに、「会社でも自室でもない場所」で仕事をしたいというニーズも増加しています。思い切って空室をワークスペースや会議室に改装し、時間貸しで運用するというのも手かもしれませんね。


長引くコロナ禍ですが、最近はワクチン開発等の明るいニュースも増えてきました。知恵と工夫で難局を乗り切り、2021年を明るいものにしていきましょう!

2021年01月05日

写真映えで反響を勝ち取る、話題の空室対策 「ホームステージング」とは?


ここ数年、急速に認知が広がっている「ホームステージング」。直訳すると「家を舞台のように演出する」といった意味ですが、要するに、空室に家具や小物を配置して空間演出する施策のことです。


あらかじめ家具類が設置されていると入居後の暮らしをイメージしやすくなるため、ポータルサイトからの反響獲得、そして内覧時の成約率の向上が期待できます。特に最近はインターネット普及による部屋探しの変化に加えて、コロナ禍における「非対面」の需要が発生したことで大きな注目を集めています。

■スマホで部屋を探す時代に適した戦略

『30歳未満の学生・社会人の部屋探し徹底調査』(アットホーム社・2019年11月発表)によれば、不動産情報を探す手段は学生・社会人とも「スマートフォン(インターネット検索)」が第1位でした。今やWEB上でどれだけアピールできるかが、反響率・内覧発生率を大きく左右する時代です。

さらに、2020年度はコロナ禍によって店舗(または内覧)に行きたくても行けない人々が発生し、「最低限の内覧数で時間をかけず決めたい」というニーズが増大。インターネットを介した非対面での接客や内覧・契約が不動産会社の工夫によって実現した一方で、「内覧前にどれだけ情報を提供できるか」が申し込みを獲得するための重要なポイントとなりました。

その点、「ホームステージング」が施されたお部屋は、ポータルサイト等で目立ちやすくなるだけでなく、内覧の前から「入居後のリアルなイメージ」をターゲットに伝えやすくなります。また、実際の現地内覧時にも家具類をセッティングしておくことで、がらんとした冷たい印象ではなく温かな暮らしの印象が伝わり、前向きな検討を促せるようになるのです。

■反響獲得から検討深化まで驚きの効果

一般社団法人日本ホームステージング協会の発表する『ホームステージング白書2019』では、ホームステージングの実施による内覧数、内覧時間、成約期間等へのプラスの効果が示されています。

【ホームステージング導入企業等へのアンケート】


問い合わせ数では全ての企業が増えたと回答し、内覧数も85%以上が増えたと回答するという驚きの効果の高さです。これは家具類の設置によって、WEB掲載の「映える」写真が目に留まり、物件が魅力的に見えたためでしょう。

また、内覧時間の増大は、お客様が入居後の生活をイメージし、有力候補物件としてじっくり検討されている結果と考えられます。契約までの期間についても85%以上が短くなったと回答しており、内覧の段階で「この部屋に住みたい!」という思いが生まれていることが予想されます。

このように大きな効果が期待できるホームステージングですが、大量の家具類を選定・購入して運用するとなると、なかなか一歩を踏み出せない賃貸経営者も多いことでしょう。

しかし、一度に多くの家具や小物を揃える必要はありません。大事なのはお部屋探しをされるお客様の目に留まり、快適で過ごしやすいお部屋であることをきちんと伝えることです。それは決して家具の量や値段に比例するものではありません。

また最近では、安価な「家具レンタル」や「レンタル家具で写真撮影のみ」といったサービスも増えています。センスや在庫の問題は専門家にお任せし、気軽に1部屋だけ導入してみるのもひとつでしょう。家具類を購入する場合は、入居者への販売やプレゼントも視野に計画するのもお勧めです。

2020年12月28日

長期安定経営の基本・修繕積立を始めよう

人間は歳を重ねるごとに身体にガタが出てくるものですが、実は建物も同様です。ただし、建物の場合は傷むサイクルが概ね決まっているため、前もって修繕計画を立てておくことが長期安定経営の基本です。


しかし、問題は多額の修繕費用です。あくまで概算ですが、シングルタイプ10戸・木造2階建のアパートでは、20年間で700万円程度の費用が必要とも言われます。

・5~10年目:約70万円(ベランダ・階段・廊下の塗装、排水管の高圧洗浄など)
・11~15年目:約520万円(屋根・外壁の塗装、ベランダほか床の塗装・防水、エアコ ン、給湯器などの設備修理・交換など)
・16~20年目:約180万円(ベランダほか塗装・防水、外構等の修繕、室内設備の修繕 ・交換など)

特に重いのが外壁・屋根の塗装です。また、15年を超えてくると設備も頻繁に故障するようになり、どうしても維持費が増大します。

将来に備えるには、やはり毎月コツコツ積み立てるのが一番でしょう。積み立ての目安は賃料の5%程度。1部屋5万円としたら、先ほどの10戸のアパートでは毎月2.5万円です。次のような金融・保険商品の満期を調整して積み立てると便利です。

・積立定期預金:配当は僅かですがほぼノーリスク
・満期返戻金のある火災保険:一部保険に限られますが、配当は定期預金よりは多め
・積立型金銭信託:元本割れのリスクはあるものの配当は多め

アパート経営における大規模修繕は、実施後に減価償却資産として経費化できますが、そのための積立金は分譲マンションと異なり経費にできないことから、現実には積み立てをしていない方が多いようです。緊急事態が発生して入用になる前に、少しずつでも積み立てを始めましょう。

2020年12月23日

必要経費は漏れなく計上!賃貸経営の総決算「確定申告」に備える


新型コロナウイルスの影響で世界中が混乱した2020年も、残すところ1ヶ月。年が明ければ、さっそく「確定申告」の季節がやってきます。春先は業界のハイシーズンとも重なるうえ、申告期間中は税務署も大忙し。直前になって慌てないよう今から準備を進めましょう。

■必要経費を総ざらいして損しない確定申告を

2020年分の申告期間は、例年通り2021年2月16日(火)から3月15日(月)まで。賃貸経営者はその期間内に、不動産投資で得た1年間(1~12月)の「不動産所得」を計算し、国に申告しなければなりません。

所得とは収入から経費を差し引いたもので、この金額によって所得税や住民税の税額が決まります。そのため「経費」に計上漏れがあると、それだけ課税所得も増えることとなり、税金を払い過ぎることに。改めて何が必要経費になるのかを総ざらいし、払い損のない、正しく賢い申告を心掛けたいものです。

■必要経費にはどんなものが当てはまる?

不動産投資における必要経費とは、家賃収入を得るために直接的、または間接的に支払ったコストを指します。例えば、賃貸管理会社に支払う「管理委託料」や、入居付けに必要な「仲介手数料」「広告宣伝費」などはわかりやすいでしょう。ほかにも、必要経費には以下のような出費も当てはまります。

●ローンの金利・保証料… 金融機関から借り入れを行なっている場合、金利とローン保 証料は経費扱いとなります。ただし、経費にできるのは原則として建物部分(設備含
 む)の金利に限られ、土地部分の金利は経費となりません。

●保険料… 物件の火災保険や地震保険、孤独死保険などの保険料は経費になります。

●管理費・修繕積立金… 分譲マンションの一室を貸し出している場合は、建物管理会社 に支払う管理費や繕積立金も経費です。

●税金… 不動産投資によって発生する固定資産税や不動産取得税、印紙税などの税金( 租税公課)も経費として計上可能です。

●修繕費… 建物や設備の修繕、退去リフォーム代など、建物の維持管理費や修理費用は 必要経費に当たります。また、工事内容を問わず、一回が20万円未満の工事費用は修 繕費として計上可能です。
 ただし、外壁をモルタル吹付からタイル貼りに変更するなど、物件価値を高める工事 の場合には修繕費ではなく「資本的支出」となり、耐用年数に合わせた減価償却の扱 いとなります。一括計上できませんのでご注意ください。

●減価償却費… 建物や設備の取得費はそれぞれの耐用年数で減価償却し、経費に算入し ます。償却費は国税庁の「減価償却資産の償却率表」にて定められた償却率と取得価 額から算出します。

そのほか、不動産投資に関する費用であれば、新聞代や書籍代などの「情報収集・勉強代」、不動産会社や現地訪問などに要する「旅費・交通費」、電話・メールなどの「通信費」、司法書士や税理士などへの「報酬」といったコストも必要経費として計上できます。


■過少申告にはペナルティ。欲張り経費計上は禁物

このように必要経費として計上できるものが多くある一方、仕事用のスーツやバッグ、靴、腕時計など、身に付けるものは原則として経費になりません。なぜなら、こうした衣類や小物類は、仕事のみならずプライベートでも使用可能だからです。また、「情報収集・勉強代」は経費になると紹介しましたが、「資格取得費用」となると話は別。宅地建物取引士などの不動産関連の資格であっても、個人的なスキルアップが目的と見なされ対象外となります。

そのほか経費になるようでならないものもありますので、迷ったら担当の税理士や税務署に確認しましょう。また、経費外のものまで計上するなどして故意に申告内容を偽ると、その先には次のようなペナルティが待っています。


●過少申告加算税… 本来の税額より少ない額で申告した場合のペナルティ。納税すべき 正しい税額との差額の10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分 は15%)が追加で課されます。

●重加算税… 故意に経費を偽ったり収入を隠したりと、悪質な過少申告と判断される場 合には、10%を大幅に超える「差額の35%」が加算されます。また、青色申告の特別 控除取り消しや、刑事罰を問われる可能性もあります。

少しでもキャッシュフローを残そう・節税しようという気持ちは分かりますが、虚偽の申告で加算税を取られては本末転倒。罰則があることを心に留め、適正な申告ができるよう努めたいものです。

■e-Taxでないと控除額減!可能ならばこの機に切り替えを

個人で行なうとなると複雑で手間のかかる確定申告。加えてトップシーズンの税務署は例年大行列と、ただでさえ重たい腰がより一層重くなります。

そこでお勧めなのが、国税電子申告・納税システム「e-Tax」。e-Taxを使えば、税務署まで行かなくとも自宅のPCからインターネット経由で確定申告が可能になります。国も利用を推進しており、今年からはなんと青色申告の65万円控除もe-Tax(または電子帳簿保存の活用)でなければ適用されなくなりました。窓口・郵送での申告は控除額55万円となり、その差額10万円。今後はe-Taxによる確定申告が主流となりそうです。


今年1月からはマイナンバーカードとスマートフォンアプリでe-Taxの利用が可能となり、確定申告もより簡単に。折しも新型コロナの影響で、窓口に行くのが躊躇われる今回の確定申告。未対応の方はe-Taxへの切り替え準備から始めてみてはいかがでしょう。

2020年11月30日

賃貸経営者も必読 サブリース事業適正化ガイドラインとは

賃貸管理業に対する初めての法規制「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の公布から6ヶ月。いよいよ12月15日からはサブリース関連の規制が始まりますが、国交省は10月16日、これに先立つ形でサブリース事業適正化のためのガイドラインを公表しました。

サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドラインのポイント
 ☑1.規制の対象となる「勧誘者」の明確化
 ☑2.禁止される誇大広告・不当勧誘の明確化
 ☑3.オーナーに説明すべき家賃減額リスク等の内容の明確化

経営の安定化や所有と経営の分離が叶うなど、適正なサブリースには多くのメリットがありますが、過去にはあたかもノーリスクで利益を得られるかのように謳う不当な勧誘も横行し、話に乗ってしまった賃貸経営者が返済不能に陥るなどトラブルが多発していました。

そこで今回のガイドラインでは、まず「勧誘者」と「勧誘・広告の方法」を明確化。新法はサブリース業者のみならず、売買や建築請負でかかわった際にマスターリース(※)を勧めた不動産会社・建築会社等も「勧誘者」として規制しますが、その他どういった立場の個人・企業が勧誘者となるかが具体例と共に示されました。

また、広告等についても誇大広告・不当勧誘の具体例を明示。広告に「家賃保証」「空室保証」等と記載する際には家賃の見直し・減額のリスクについても併記しなければならない、勧誘の際には家賃減額リスクや契約期間中の契約解除の可能性、正当事由なしにはオーナーから解約できない事実などを隠して勧誘してはならない等々、新法施行後の規制対象事例が多数掲載されています。

違反者には業務停止命令や罰金などの措置が用意されており、これによって不誠実なサブリース契約・広告勧誘は一掃されるものと思われますが、ガイドラインは賃貸経営者の皆さまも自衛のためにご一読を。新法によって適正なサブリースが広がり、投資の選択肢が増えることに期待したいものです。

※ マスターリース:サブリース業者が物件を借り上げる際に不動産所有者と結ぶ賃貸  借契約のこと

国土交通省「サブリース事業適正化ガイドライン」

2020年11月19日

すぐできる!ニーズ増加中!!シーズン直前の空室対策「室内物干し」

このところ「室内干し」の需要が注目されています。女性はプライバシーや防犯面の理由から室内干しが当たり前になっており、また花粉やPM2.5といった健康面への影響を気にする人の増加によって、性別に関係なく「敢えて室内に干したい(外に干したくない)」という声が高まっているためです。

メーカー各社が競い合うように室内干し専用の洗濯洗剤を発売する昨今、賃貸住宅においても室内干しのニーズに応えることでバリューアップ効果が期待できそうです。浴室乾燥機やガス乾燥機などの設備もありますが、シーズン直前かつ金額を抑えたい場合には「室内物干し」が有効です。

■間取りや入居人数に合わせてタイプを選択

室内物干しの魅力は、何と言っても低コストかつ短工期で導入できる点。商品にもよりますが、材工込みで3~5万円、工事は半日もあれば完了と、コストパフォーマンスに優れた空室対策のひとつと言えるでしょう。

■タイプ1 | 天井設置型(スポット式・昇降式)

「室内物干し」をイメージした際、このタイプを真っ先に思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。


スポット式は、室内物干しの中でも特に安価なタイプ。既存の物干し竿を使えるもの
が多く、取り付けも容易で、竿を固定する棒部分を取り外して片づけることもできます。昇降式は、スポット型と比べて若干高価ですが、そのぶん竿を天井部分にスッキリと収納でき、室内の美観を損なわない点が魅力です。

両者に共通するデメリットは、天井に直接取り付けるために、他のタイプと比べて耐荷重が少なめである点。洗濯物のかけすぎで天井に穴が開いた、なんてことを避けるためにも、入居者にはあらかじめ利用方法を説明しておきましょう。


■タイプ2 | 窓枠設置型

安定した耐荷重を確保したい場合には、窓枠設置型がオススメです。また、窓枠設置型は窓際で洗濯物を干せるため、室内干しでありながら日差しを当てて服を乾かせます。


デメリットは、他の製品と比べて取り付けが難しい点と、金額も少し高くなる点。そして当然、窓付近にしか設置できないために、間取りによっては家具の配置の障害となって部屋の利便性を損ねかねない点です。間取りにピタリとはまれば収納時も目立ちにくく、内見時の印象アップに大きく貢献します。


■タイプ3 | 壁設置型(ワイヤー式)
 天井設置型や窓枠設置型のデメリットを解消しているのが、ワイヤー式の壁設置型です。


使用時はワイヤーを本体から引っ張り出すだけ。収納性に優れ、室内の美観を損ねません。設置場所も比較的自由が利き、費用面でも低コストなうえ、耐荷重も大きく、一度に多くの洗濯物を干すことができます。ただ、機種によってはワイヤーがたわみやすく、洗濯物を大量にかけた際に不都合を生じるものもあるようです。


注意点は、入居者の人数・洗濯物の量に見合った物干しタイプを選ぶこと。部屋も狭く洗濯物も少ない一人暮らし用なら、頭上の空間を上手に使える天井設置型や壁設置型。ファミリー物件は耐荷重を重視して、壁設置型や窓枠設置型を検討しましょう。

2020年11月05日

来年1月に再値上げ!火災保険の見直しは長期一括加入で

■度重なる災害に保険料は上昇傾向

2021年1月、多くの保険会社の火災保険料が再度引き上げられます。近年の相次ぐ風水害によって保険金支払いが増大していることが主な理由ですが、実はここ10年で、家屋の水濡れ事故を原因とした保険金の支払い件数も約2倍に増加。80~90年代半ばに建てられたマンションブーム期の建物が、老朽化によって多数のトラブルを発生させていることが影響しており、2019年10月に値上げが実施されたばかりではあるものの、各社とも収支バランス改善のために保険料値上げに踏み切ったようです。

もうひとつの背景には、最長36年だった火災保険の一括加入期間が、2015年10月の改定で10年に短縮されたことも挙げられます。契約期間が短くなったことで、保険会社は収支予測が比較的容易に。結果として保険料見直しのサイクルも短くなったのです。

ちなみに、今回の値上げには2018年の西日本豪雨および台風21号の被害は反映されていますが、2019年の豪雨被害・今年7月の豪雨被害は未反映です。近い将来に再び値上げとなる可能性は高く、この傾向はしばらく解消されそうにありません。


■築浅物件では保険料引き下げ。 見直しと長期一括加入の検討を

一方で、築浅物件の保険料を割り引く「築浅割引」の割引率は大きくなる予定です。保険料は都道府県別、構造別で大きく異なりますが、新築物件ではほぼ全面的に値下げとなっており、中には割引率が30%超になるケースも。もちろんご加入の保険会社や保険内容によっても異なりますので、ご自身の物件の保険料がどうなるかは保険会社にご確認ください。

今回の改定、保険料が上がるなら改定前に長期の保険に入り直す、保険料が下がるなら改定後に入り直すということも考えられます。いずれにせよ、今後も値上がりが予想される中、火災保険の長期一括加入がキーワードのひとつとなりそうです。

2020年10月20日

空き巣が増える季節 気になる防犯対策を古今の知恵に学ぶ


秋が深まるこの季節、目立ってくるのが空き巣被害。警視庁の月別認知件数を見てみると、空き巣被害は夏に減少するものの、秋から年末に向けて再び増加に転じることが分かります。9月以降は残暑も和らぎ窓を開ける機会も増えるほか、行楽シーズンで留守宅も多くなり、また日没も早まるため、空き巣には好都合なのでしょう。お持ちの物件でも注意が必要です。


ところで、昔の賃貸住宅の防犯対策はどのようなものだったのか、入居者を守るためのヒントを探してみましょう。たとえば江戸時代、庶民は「長屋」と呼ばれる横長の木造平屋に部屋を借りて住むのが主流でした。人がひしめく江戸の町では物盗りも珍しくなかったとのこと。多くの泥棒たちが暗躍するなか、長屋暮らしの人々も空き巣に目を光らせていたはずです。

■くせ者の侵入を防いだ町木戸、厳重な隣近所の監視網

江戸の防犯対策として特に効果を上げたのが「町木戸」です。当時は町ごとの境に木戸を置き、深夜から明け方まではその木戸を固く閉ざしていました。つまり、町木戸によって外部の人間が町内に入るのを制限し、犯罪を企てようとする者の往来を取り締まったわけです。

また、木戸そばの番屋には「木戸番」と呼ばれる門衛が複数置かれ、時間外に人が通行する際は拍子木を打ち鳴らして他の木戸番に知らせたり、通行人のせいでトラブルが起きないよう付き添ったりしたそうです。木戸番は番屋で暮らし、ひとたび事件が起きると日中でも木戸を閉めたと言いますから、24時間体制の防犯機能が働いていたと言えるでしょう。

一方で、個人宅の防犯対策はお粗末だったようです。商家にこそ錠前が見られたものの、当時の鍵は高級品。長屋では引き戸の内側に棒を突っ張らせる「しんばり棒」がやっとで、蹴破るだけで簡単に侵入できてしまいました。

しかし、空き巣に入られ放題だったわけではありません。先述の町木戸の活躍もありますが、何より当時の長屋は地域住民の濃密な共同生活の場。壁も薄く、隣の音は筒抜けだったと言われています。ですから、たとえ空き巣が留守宅に忍び込んでも隣近所の監視網が異変をキャッチ。江戸の防犯は町ぐるみ、地域ぐるみで成立していたわけです。

■窓からの侵入が6割強。現代の防犯対策を考える

現代でも地域単位で防犯意識が高いエリアもありますが、都市部になるほど地域のつながりや意識は薄れがち。空き巣から身を守るには地域頼みでなく各戸での防犯対策を強化しなければなりません。

警視庁の調べ(2020年9月)によれば、共同住宅等への空き巣の侵入は「窓から」が6割強と最も多く、次いで「玄関」が3割という結果。合わせて9割となっており、まずはこの2点が重点対策箇所と分かります。

<窓の対策>

入居者に戸締りを充分注意してもらうのが大前提ですが、空き巣が窓辺に近付かないよう、敷地内に「人感センサー付きライト」や「監視カメラ」、踏むと音のする「防犯砂利」を設置するのが効果的です。また、「防犯フイルム」を窓ガラスに貼ることで割られにくくして空き巣の侵入を防ぐのも有効。窓を厳重に守ることで、入居者への安全アピールにも繋がります。

<玄関の対策>

玄関で気を付けたいのはピッキングなどによる施錠開けです。ピッキングに強いとされる「ディンプルキー」や補助錠の導入は、空き巣の侵入を防ぐと共に入居者の安心感を高めます。また、窓・玄関ともに侵入原因の半数以上が無施錠、つまり鍵の閉め忘れであることを考えると、オートロック機能を備える「スマートロック」で対策するのも手。最新IoT機器としての訴求力の面からも検討できそうです。

町木戸や隣近所で悪を見張った江戸も今は昔。有用な防犯設備の導入で入居者の防犯意識を高め、犯罪発生の抑止と入居者満足度の向上に繋げていきましょう。

2020年10月13日

部屋探し新時代!2020年度人気設備ランキングで検索競争に生き残るための戦略


毎年恒例、全国賃貸住宅新聞の「賃貸住宅の人気設備ランキング」2020年度版が発表されました。このランキングは全国の賃貸仲介・管理会社が「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても決まる」「この設備がなければ入居が決まらない」の2つの視点から選出した人気設備を集計したもので、シングル・ファミリーそれぞれのカテゴリで順位付けがされています。

賃貸経営者にはチェック必須の同ランキング。しかし単純に「インターネット無料や宅配ボックスなど上位の人気設備を導入すればOK!」というわけではないのが、空室対策の難しいところです。

■部屋探しの変化+コロナ禍で内見数と店舗訪問数の減少が加速


空室対策の際、ニーズとともに考慮したいのが、部屋探しをする人々の動向です。リクルート住まいカンパニー社「2019年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)」によれば、不動産会社の店舗訪問数は平均1.5店舗、内見数は平均2.7件と、どちらも過去最少を記録しました。

これは首都圏の結果ですが、「訪問店舗数減少・内見数減少」の傾向は全国的に拡がるものでしょう。10年ほど前から顕著になってきたこの傾向は、住みたい物件を自ら探し出すインターネット検索型の部屋探しの一般化、そしてスマートフォンの浸透ともリンクします。

不動産情報サイト事業者連絡協議会が2019年10月に発表した「『不動産情報サイト利用者意識アンケート』調査結果」によれば、今や不動産情報(※)をネットで探す際、スマートフォンで探す人は全体の90%超。特に20代以下では95%超を達成しており、若年層の部屋探しが手元のスマートフォンから始まっていることが分かります。

※ 売買情報含む


そしてこの「まずスマホで検索する」「なるべく店舗に行かない」という部屋探しのスタイルは、今後さらに強く定着する可能性があります。なぜなら、今年はコロナ禍によって半強制的に「不動産会社に行かずに部屋を決める」ことが求められ、またそれがユーザー・不動産各社の工夫と努力によって「不可能ではない」と証明されてしまったからです。

自分のスマホで可能な限り物件を絞り込み、VR内見等でピンポイントに物件を確認し、最後に実際に部屋を見て(あるいは部屋を見ることなく)申し込みを決定する――、そんな「新しい部屋探しの様式」が確立されつつあるのです。

■WEB検索競争に生き残る入居者ターゲットに合わせた設備選びを

こうした入居者の動向・部屋探しのスタイルの変化を鑑みた際、空室対策時に重視したいのは「WEB検索条件」とのバランスです。

人々が好みの部屋を探すにあたって、頼りは不動産ポータルサイトの検索条件。「バストイレ別」「2階以上」「エアコンつき」など、自分の求める条件を次々と指定していき、最終的に表示された数件が問い合わせ対象となるわけですが、このプロセスは賃貸経営者から見れば生き残り競争そのものです。条件を備えていない時点で、所有の空室は問い合わせ候補から永遠に外されてしまいます。人気設備ランキングを参考にするとしても、激化するWEB検索競争に勝ち残れるか、という視点から導入設備を検討する必要があるのです。

たとえば、24時間利用可能ゴミ置き場。今年も人気設備ランキング7位で、また前出の賃貸契約者動向調査でも4年連続で満足度1位を獲得する人気ぶりですが、実は大手ポータルサイトSUUMOやHOMEʼSなどには検索項目が用意されていません(※2020年10月1日現在)。つまり、せっかくコストをかけて実装しても、24時間ゴミ置き場は「WEB検索競争」という舞台では武器にならないのです。もちろん、内見時・入居後における効果は抜群なのですが、そもそも検索競争に勝ち残れない・内見されない物件には無用の長物。まずは「インターネット無料」「室内洗濯機置き場」といった人気検索条件の実装を優先すべきでしょう。

入居者ニーズが気になるものの、空室対策として導入する設備を選ぶ際は費用との相談となるのが現実です。予算には限りがあり、どの設備も万能ではない以上、入居者ターゲットを考慮した組み合わせや諸条件との調和によって、時代に合った訴求力ある部屋作りをすることが重要。スマホ中心のライフスタイルにアフターコロナ、非接触型部屋探しの流行…と変化の激しい昨今、新時代は「ターゲットとする入居者」が「WEB上で内見したくなる物件」を目指すことが満室への近道です。

2020年10月05日

安定経営のために知っておくべき「減価償却」の基礎知識

 不動産投資や賃貸経営をするうえで必ず目にする「減価償却費」という言葉。よく聞くけれど詳しくは分からないという方、ここで基本を押さえておきましょう。

【減価償却費とは複数年に分けて計上する経費】
 家賃収入が80万円あったとしても、この80万円全額に対して税金がかかるわけではありません。経営のために事務用品5万円分を買ったとしたら、この支出は「経費」として収入から差し引くことができ、残った75万円の利益に対して所得税が発生します。
 では、建物本体を取得した場合はどうでしょうか。建物本体の支払いも経営のために必要です。家賃収入80万円、建物1000万円の場合、80万円−1000万円で920万円の赤字、利益が発生しないので税金なし、とはなりません。事務用品のように短期間で価値や効果のなくなるものと違い、建物等の固定資産は相当の長期に渡って価値が持続します。そのため全額をその年の経費として扱うのではなく、毎年一定の額や割合で分割して必要経費とするルールとなっているのです。
 そして、この分割した経費が「減価償却費」です。減価償却費を計上すると、その分だけ帳簿上の価値(建物の固定資産の額)も減ることになります。仮に一年分の減価償却費として50万円を計上したとすると、建物の価値1000万円は計上によって950万円に減ります。そしてその「減価」された分が利益80万円から差し引かれることとなり、手元には80万円があるにもかかわらず、税金は30万円分で済むようになるのです。これが手残りを増やすうえで減価償却費が重要視される所以です。
 ちなみに、減価償却費を計上できるのは建物のみです。土地は時間が経過しても価値が減らないと見なされ、減価償却を行えません。

【賃貸経営では定額法にて算出】
 減価償却費の計算方法には、毎年同額を計上する定額法と、計上額が逓減していく定率法の2つがあり、収益不動産は定額法を用いるのがルールです。計算式中の償却率は国税庁「減価償却資産の償却率表」にて定められており、法定耐用年数に応じたものを使用します。

定額法
 取得価格×定額法の償却率=減価償却費

定率法
 未償却残高(帳簿上の固定資産残高)×定率法の償却率=減価償却費


 償却率・耐用年数は、ご覧のように建物構造だけでなく用途によっても異なります。これは賃貸経営などの事業では毎年の経費を多く計上できるように、マイホームなどの非事業用では売却時の税金がなるべくかからないようにする国の配慮です。
 なお、減価償却の対象は建物本体だけではありません。給排水設備やエレベーターといった建物附属設備も対象であり、建物本体とは別に計上します。物件購入当初は設備と建物の両方の減価償却費を計上できるため、税金も安くあがり安定的な経営が叶いますが、建物より短い設備の耐用年数が経過する頃になると、計上できる減価償却費が減って税金がかかる(手残りが減る)ようになってきます。借り入れの状況等によってはこのタイミングで買い替えを検討される方も多いようです。

【中古・耐用年数経過後の減価償却】
 先述の償却率表を用いるのはあくまで新築の場合。中古物件・耐用年数を経過した物件は、減価償却費を導くための耐用年数を特別な計算式で算出します。

中古物件
(耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2

耐用年数経過物件
 耐用年数×0.2

 銀行の融資を受けにくい面もありますが、ごく短期間で多額の減価償却が叶うため、節税を目当てに築古物件を購入する人もいます。
 手残りと返済、税金の支払いに大きく関わる減価償却。一度、金額や残年数を確かめてみてもいいかもしれません。

※記載の利益計算例は概念的なものです。確定申告等実際の計算の際には税理士等の専
 門家または管理会社にご相談ください。

2020年09月28日

「孤独死」は「事故物件」か、全宅連の見解は?

 自殺や病死、孤独死など、賃貸物件内での入居者死亡リスクは賃貸経営者共通の悩みの種です。日本の人口減少・高齢化を考えれば、賃貸住宅における高齢者の受け入れは有効な空室対策、むしろ生き残りのための必須戦略であるものの、万一、孤独死等の発生によって「事故物件」の扱いとなってしまえば、空室が長期間続いてしまう、家賃も相場より下げなければ決まらない、といった状況になりかねません。
 そんな中、全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連)が「孤独死」について非常に興味深い見解を示したとニュースになりました。全宅連は孤独死について「ただちに『事故物件』となると考えることはできない」と言明したのです。

■孤独死≠事故物件が高齢者居住を支援する

 全宅連が今年3月の報告書(※)で発表した考え方は次の通りです。

 ① 孤独死については、原則として説明・告知の必要はないものとする。
 ② ただし臭気等によって近隣から居住者に異変が生じている可能性が指摘された    後に孤独死の事実が発覚した場合には、説明・告知をする必要があるとする。
 ③ ②の場合であっても、次の借主が、通常想定される契約期間の満了まで当該物件   の利用を継続した場合には、貸主は、その次の借主に対し説明告知する必要はな   いものとする。
 ④ 媒介業者は、業者としての通常の注意に基づき②の事実を知った場合に限り、上   記②、③と同等の取扱いをするものとする。

 国も高齢者等の住宅確保策として賃貸住宅の活用を推進していますが、事故物件化リスクが障壁となって思うように進んでいないのが現状です。しかし、「説明・告知が必要な孤独死」が定義され、それ以外の孤独死が事故物件として扱われないルールとなれば、高齢者等の居住支援は大きく進展していくことでしょう。人類史上、類を見ない超高齢化社会を迎える日本。今回の報告書は、世間の孤独死の考え方を変えるひとつの転機となるでしょうか。

※ 令和2年3月発表
  【令和元年度 住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書】
   公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会
   公益社団法人 全国宅地建物取引業保証協会

2020年09月24日

設備から間取りまで お部屋の印象をがらりと変える空室対策アイデア5選


早いもので今年も残り3ヶ月。長引く暑さも山場を越え、ほっと一息つきたいところですが、心配なのは夏を過ぎても決まらなかったお部屋です。今のうちに手を打っておかないと空室はさらに長引くことになるかもしれません。今回は一日も早い成約を目指し、お部屋の印象をがらりと変える空室対策・リノベーションのアイデアを探ってみましょう。


●収納を兼ねた「シェルフ」で壁もインテリアに

 低コストの空室対策として注目を集めているのが「シェルフ」です。これは扉や抽斗(ひきだし)のないオープンな棚のことで、収納力を高めつつ、オシャレなインテリアとしてお部屋の雰囲気を変えてくれます。
 例えば、壁に収納棚を直付けするタイプなら、キッチン脇や作業机の上などのデッドスペースにも設置でき、棚下の空間を邪魔せずに壁面収納を実現できます。また、突っ張り棒で天井と床に固定する壁全面タイプであれば、お部屋の壁に傷をつけることなく、本棚や洋服掛けにも使える大規模な収納スペースを生み出せます。
 一方、壁そのものとして活躍する間仕切りタイプのシェルフも。リビングの一角や寝室との境に間仕切りを兼ねて設置すると、間取りそのものが変わったかのような新鮮な印象を与えられます。また、あくまで棚であるため移動させるのも簡単。工夫次第で一般的な間取りにオリジナリティを持たせられそうです。

●ロフト付き物件は収納つき階段で差別化

 ロフト付き物件のイメージチェンジなら「ロフト用家具階段」を導入するのも人気です。賃貸のロフト付き物件では、昇降用に梯子が使われるのが一般的ですが、梯子の昇り降りを怖がる女性入居者も多く、また梯子の下はデッドスペースとなりがちです。
 階段と複数の収納ボックスが組み合わさったおしゃれなロフト用家具階段なら、梯子下が大きな収納スペースへと変わるだけでなく、目新しさから他のライバル物件との差別化も図りやすくなります。また、昇降時の安心感も高まるため、特に女性を中心にターゲット層の拡大も期待できるでしょう。既製品からお部屋の間取りに合わせたオーダーメイド商品までありますので、資金と時間に応じて検討してみてください。

●照明交換で次世代感あふれるインテリアに

 お部屋全体の印象を手軽に変える方法のひとつに「照明計画」があります。玄関照明を人感センサー付きにしたり、リビングにスポットライトや間接照明を取り入れたりといった工夫はもちろん、明かりの色を温かみのある電球色に変えるだけでもお部屋の表情は一変します。


最新の照明の中には、天井の引掛けシーリングに取り付けるだけでダイナミックな映像体験ができるようになる「popIn Aladdin(ポップインアラジン)」のような商品も。同商品は照明でありながら高音質スピーカーと高性能プロジェクターを搭載し、部屋の壁に60インチ超の大画面映像を映し出すことができます。テレビの置き場所に迷うような狭いお部屋も、Wi-Fi環境と本体の設置だけで、動画コンテンツを大迫力で楽しめる次世代感あふれるお部屋へと大変身です。

●ワークスペースでテレワーク需要をキャッチ

 今年はコロナ禍に伴うテレワーク需要も見過ごせません。在宅勤務の浸透に伴い、一人で仕事に集中できる環境が欲しいと「ワークスペース」を求める声が高まっています。
 そこで最近、にわかに注目を集めているのが、室内に設置する組立式の簡易書斎セット。部屋の一角を板で囲んで個室を作り、内側には仕事のしやすいデスクが置かれます。壁や床に穴を開けずに設置できるものが多く、中には一人で簡単に組み立てられるものも。間取りに合わせて形をアレンジできるため使い勝手も良さそうです。
 また、合わせて脚光を浴びているのが「DEN(デン)」付きの間取りです。かつてのDENはファミリー向け物件において、家族がちょっとした仕事や趣味、家事に使う空間として用意されていましたが、今回の騒動を経て「家でしっかり仕事をするための空間」と再認識されたようです。
 テレワークが当たり前になるにつれてDENの需要も高まりそうですが、新設には大きなコストがかかりますので、間取りを変更するような大規模リノベーションに合わせて検討してみましょう。

●ペット需要に応えるペット共生部屋

 立地や間取りの不利で空室が埋まらない場合、「ペット可」への条件変更を検討される方も多いと思いますが、思い切ってペット好きが喜ぶ「ペット共生部屋」にリノベーションしてしまうのも効果的です。
 最近のブームに乗じて「猫部屋」を作るのであれば、壁に猫の遊びやすいキャットウォークを設置したり、室内ドアに猫専用ドアを作ったりすると、猫好きの目を引くことができるでしょう。キャットウォークをアクリル板にして「肉球の眺められる部屋」にしても猫好きにウケそうです。
 さらに、爪とぎ対応壁クロスや傷防止床材をあらかじめ導入しておけば、ペット可物件につきものの床や壁の損傷の悩みにも備えができます。安心して部屋を貸せるのはもちろんのこと、傷みにくい内装は借主の心理的なハードルを下げることにもつながります。


 次のオンシーズンまであとわずか。今年ならではのトレンドを絡めつつ、急ぎ足で効果的な対策を進めていきたいものです。

2020年09月20日

増える災害で緊急決定!「水害リスク」説明義務化

 近年、集中豪雨や台風に起因する大規模な水害が頻発しています。今年も既に九州各県や西日本を襲った令和2年7月豪雨をはじめ、日本全国で被害が発生。事態を重く受け止めた政府は8月、宅地建物取引業法施行規則の改正を実施しました。不動産の賃貸・売買どちらにおいても、重要事項説明における「水害ハザードマップ」を用いた水害リスクの説明を義務化したのです。

【整備を急がせた重大災害。危険性の再認識を!】
 当改正、昨年12月に答弁を開始し今年7月に成立、8月から改正法実施というスピーディーな展開でした。しかし、西日本を中心に甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨、そして信州~東北に記録的な被害をもたらし、台風として初めて「非常災害」に指定された昨年の台風19号(令和元年東日本台風)を鑑みれば、非常に高い緊急度で法整備が進められた背景も頷けます。

 これまで不動産取引では、当該物件が「土砂災害警戒区域」「津波災害警戒区域」「造成宅地防災区域」にある場合のみ説明義務が課されましたが、今後は「水防法に基づき市町村が作成した水害ハザードマップを利用し対象物件の概ねの位置を示すこと」が義務に追加されます。義務化によって契約者に対象物件の水害リスクを認識させ、有事の際の逃げ遅れを防止することが狙いですが、物件が水害予測範囲にある場合には、成約率にも影響が表れるかもしれません。

 また、これを機に確認したいのは、火災保険における「水災特約」の付加の有無です。昨今の異常な雨量、そして下水などが溢れる都市型水災の頻発を考えると、「ここは河川から遠い」「床上浸水でなければ保険がおりない」といった理由での特約未加入は不安が残ります。私達や入居者の生活に多大な影響を及ぼす水災害の増加。台風シーズン直前の今こそ、改めて被災リスクについて考え、備えが万全であるか確認しましょう。

国土交通省 ハザードマップポータルサイト https://disaportal.gsi.go.jp/

2020年09月16日

建物の第一印象を改善して入居率アップする3つのヒント

物件の「第一印象」は入居率にも影響を与えるもの。物件との出会いが良い印象で始まれば、内見もポジティブな気持ちで進み、入居へと気持ちが傾くことが期待できます。反響を増やし、内見を成功に導くための第一印象づくりを考えてみましょう。

【外壁塗装で外観を大胆イメージチェンジ。範囲を絞ればコスト削減も】
 物件の第一印象を変えようと考えた際、まず思いつくのは外壁塗装です。汚れやひび割れが放置された状態は言語道断、古臭さやくたびれた印象を与えてしまう外観は入居率に悪影響を及ぼします。たとえ築古の物件であっても、きちんとメンテナンスされていれば内見者は悪い印象を持たないものです。外壁塗装は面積が広いため、費用がネックとなりがちですが、防水性の面から10~15年に一度は塗り直しが必要なことを考慮すれば、メンテナンスとイメージ刷新を同時に実施し、コスト削減効果を狙うのも優れた選択でしょう。
 外壁の色を大きく変更する際は、全体を単色でシンプルに仕上げた上で一部にアクセントカラーを加えてみたり、1階と2階で色を分けてツートーンにしたり、とアイデアは様々。色はドアや屋根、周囲の建物との相性を考慮して決めていきましょう。メンテナンスと同時に施工できず予算が厳しい場合、エントランスや玄関扉、階段の鉄部など、範囲を絞って目立つ箇所だけを塗り替えるのも手です。


【伸びっぱなしの植栽はNG。建物まわりは清潔感重視でこざっぱりと】
 特に夏場はあっという間に伸び放題になってしまう植栽。敷地内に雑草が生い茂っていたり、生垣の枝葉が伸びすぎていたりすると、内見者の第一印象を損なうだけでなく、以下のような厄介事まで招き入れかねないため注意が必要です。

植栽の手入れが不十分だと… ・物件全体の景観を損なう
              ・虫や小動物が棲みつく
              ・ごみをポイ捨てされる
              ・死角が増えて泥棒や放火の危険

建物まわりの美観の維持には敷地内の小まめな除草・植栽の剪定が欠かせませんが、手間とコストを省くなら、除草剤を撒いて防草シートを敷き、その上に砂利を敷き詰めるような恒久的対策を講じるのも手。その際、外壁の色に合わせたカラー砂利を使用すれば、統一感が出て、一層のイメージアップも期待できます。

【見た目だけじゃない!建物にマッチした入居者に好まれる物件名に】
 第一印象を決めるのは、なにも外観ばかりではありません。「物件名」もまた、内見者の心理に少なからず影響を与えます。見た目とちぐはぐの名前だったり、あまりに古い印象の名前の物件は、同じような条件の「ちょっとオシャレな名前の物件」にお客を取られていないか要確認です。
 さらに言えば、物件名は住所の一部。書類に書くには長過ぎる名前や恥ずかしくなるような名前では、やはり入居者は嫌がるでしょう。物件名で無意識に敬遠されている可能性があるなら、実にもったいない話です。入居者・ライフライン業者等への通知の手間はかかりますが、名称変更自体に大きなコストはかかりません。建物の「館銘板」の更新は必要になるので、この際、物件の格・清潔感・安心感などが伝わるものを設置しましょ
う。良い名前が思い浮かばない場合は、ターゲット層に近い人の意見を聞いてみたり、管理会社に相談してみるのもいいですね。

 「一度与えた第一印象をやり直すチャンスは二度と訪れない」という諺がアメリカにあります。第一印象が悪くて入居者を逃してしまう前に、物件を客観的に見直してイメージアップのポイントを探ってみてはいかがでしょうか。

2020年09月14日

入居者ニーズ、大家の対応…コロナ禍の賃貸市場の影響をデータで検証

全世界で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)。日本でも特に観光や飲食業界が大きな打撃を受けていますが、賃貸業界も例外ではありません。果たしてどんな影響が出ているのか、肌感覚だけでなく調査データ等から検証してみましょう。

【反響・来店数は減少、入居時条件交渉は増加】
 賃貸市況について調べる際、参考となるのが日本賃貸住宅管理協会の公表している「
日管協短観」です。この日管協短観では、賃貸管理会社へのアンケート結果から業況判断指数(DI値 ※1)を算出し、その推移をもって賃貸市場の景況感を可視化しています。
 その日管協短観、最新版はコロナ騒動が本格化しつつあった春の引越しシーズンを含む2019年10月~2020年3月が対象。そして結果は、予想通り非常に厳しいものとなっていました。

 

 ご覧の通り、反響・来客・成約とも全ての項目が昨年同期より悪化しています。来客では特に法人、外国人のマイナスが顕著であり、またオンシーズンにもかかわらず学生、単身の項目も悪化しました。
 そして当然、成約件数についても賃貸、売買それぞれ大幅に下降しています。表外になりますが、賃貸・売買の仲介手数料、リフォーム関連の売上についても多くの会社が「減った」と回答。コロナによって外出が自粛された結果、部屋探しの活動や店舗への訪問数も減少し、最終的には不動産の取引数自体が大幅に減少してしまった形です。
 一方で、このコロナの時期に「増加」した項目もあります。それは、入居時の賃料や初期費用、設備等の「条件交渉」の項目です。首都圏こそ例年並みだったものの、それ以外の地域では条件交渉が増えたという回答が急増し、3年連続で低下していたDI値が増加へと反転。人の動きが制限される中、賃借人は貸主とのパワーバランスを敏感に察知して
いたようです。

※1 DI値とは、前年よりも増加(≒良い)と感じている企業の割合から減少(≒悪い)と感じ  ている企業の割合を引いて算出する指数。
  日管協短観 https://www.jpm.jp/marketdata/

【住まいに「働きやすさ」「籠もりやすさ」の新たなニーズ発生】
 コロナで増加したものといえば、オフィス以外で仕事をする「テレワーク」の採用企業です。先日も大手通信系企業がテレワーク・在宅勤務の無制限化を打ち出して話題となるなど、今後も自宅で仕事をするケースは増えていきそうです。
 そうなれば当然、住まいのニーズにも変化が表れます。リクルート住まいカンパニー社が発表した調査(※2)では、「コロナ拡大によって変化した住宅に求める条件」の質問に対し、「仕事専用スペースがほしくなった」「宅配/置き配ボックスを設置したくなった」などの声が上位を占める結果となっています。

 

 仕事専用スペース、遮音性といった項目からは「仕事のしやすさ」のニーズを、宅配ボックス、収納量、広いリビングなどからは「籠もりやすさ」のニーズを感じますが、面白いのはその回答者の年代と家族形態の関係です。
 仕事専用スペースを求めるのは圧倒的に20代が多いものの、単身世帯のニーズは低く、2人以上世帯では高くなっています。また、遮音性については単身世帯が強く望んでいる一方で、2人以上世帯ではそれほど求められていません。つまり、若い単身世帯は「仕事スペースはどうとでもなる。他の部屋からの騒音だけなんとかしてほしい」と考え、2人以上世帯は「まずは室内に仕事のできる空間を確保したい。他の部屋のことは二の次」と考えているのでしょう。
 昨今は賃貸でもテレワークニーズを意識したさまざまな空室対策が登場しています。賃貸住宅の先行指標ともいえる購入・建築検討者の調査を参考に、ターゲットによって重点を置くべき部分をきちんと変えていくなど、いち早い打ち手が必要となりそうです。
※2 株式会社リクルート住まいカンパニー
  「コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査(首都圏)」
  https://www.recruit-sumai.co.jp/press/2020/06/-8-4222.html

【家賃の滞納・交渉の経験3割、要請受諾は約5割】
 コロナによる滞納関連の影響については、賃貸経営者に向けた実態調査(※3)も発表されています。その結果から分かったのは、5月後半の時点で30.3%の賃貸経営者が家賃の減免・猶予の要請あるいは退去等の影響を受けていた事実です。
 要請の内容は、家賃の減額要請が約半数の48.5%、退去が35.1%、支払い猶予の要請が25.4%となっており、コロナによる賃借人への経済的打撃が、そのまま賃料支払いや契約継続に影響を及ぼしていることが分かります。
 また、賃借人からの賃料減免や遅延の要請に対して、拒絶した方が約9%に対し、受諾した方は約47%と多く、「大家さんはやさしい」という見方ができます。また、11%の方は「助成金申請等を勧めた」と回答しており、どちらにせよ賃借人の契約継続を促す賃貸経営者が多い結果となりました。

 

 しかしながら、コロナ禍の長期化によって賃借人の滞納リスクが上昇していることは間違いありません。慎重な審査はもちろん、保証会社の活用等によって、少しでもリス
クを遠ざけていきたいものです。


※3 株式会社オーナーズ・スタイル「新型コロナウイルス感染拡大が賃貸住宅の大家さ  ん、入居者へ与えている影響 緊急アンケート」
  https://www.atpress.ne.jp/news/214395

 なかなか終わりの見えてこないコロナ騒動。完全なウイルス駆逐が不可能である以上、事業を維持するには工夫してウイルスと戦いながら経営を続けるしかありません。
賃貸業界においても、今回の騒動を機にVR内見や電子契約といった「非対面対応」をはじめ、新しい手法が発生・定着しつつあります。そして新手法の中からは、アフターコロナの「新常識」も登場することでしょう。行動は制限されますが、自由な発想で新しいものを取り入れ、騒動収束後の賃貸経営に備えたいものです!

2020年09月11日

年間1.5万件発生!「相続トラブル」回避のための5つの生前対策

残される家族を想えば、誰もが願う円満相続の実現。一方で、最新の司法白書によれば、家庭裁判所における遺産分割争いの新受件数は毎年1万5千件前後と高い水準で推移しています。

例年、お盆は遠方から子や孫が会いに来るなど、一年の中でも多くの家族が集まる貴重な機会。家族が顔を合わせるこの場を相続に役立てられないか、今できる対策を探っていきましょう。

〈回避策1〉「相続の方針」を伝え、家族であらかじめ話し合う

相続トラブルでよくある光景が、意見の不一致による相続人同士の争いです。「実家を売るなんてとんでもない」「親の世話をした私がこの額なんて許せない」等々、例を挙げればきりがありません。

被相続人の遺言もなく、相続人同士で事前の合意もされていなければ、争いになるのも当然のこと。元気なうちに遺産分割について話し合い、相続人たちが納得できる分割方法を模索するのが理想的です。被相続人の考える「相続の方針」をあらかじめ伝えておくだけでも、トラブルの発生率はぐっと下がります。

〈回避策2〉「財産目録」を作成し、相続財産を明らかにする

相続財産の内容がはっきりしないこともトラブルの火種になりがちです。遺産として何がどのくらいあるのかを明らかにしていないと、被相続人の死後、相続財産調査をした相続人が「以前、聞いていた資産がなくなっている」「誰かが隠したのでは」などとあらぬ疑いを抱いてしまうことも。ひとたび疑心暗鬼に陥ると、普段は仲の良い家族にも思わぬ軋轢が生まれかねません。

無用な揉めごとを避けたいのであれば、被相続人は、相続財産を一覧表にした「財産目録」を作成しておくべきしょう。目録には不動産や現預金、有価証券、保険などの財産を項目ごとにわかりやすく記載していきます。ただし、相続対象はプラスのものだけでなく、借入金等のマイナス財産も含まれますので、こちらも忘れずに。財産の全体像がわかることで遺産分割の話し合いもスムーズに進みます。

〈回避策3〉相続人は隠さず「隠し子」も告白を

相続の場において「隠し子」の存在は、火種どころか爆弾そのもの。隠し子を名乗る者が相続発生後に唐突に現れれば、残された家族は大混乱に陥ります。存在そのものが衝撃であるうえ、自分の相続分を減らして遺産を分け与えるとなれば、トラブルに発展することは明らかです。

2013年の法改正以来、非嫡出子の法定相続分は嫡出子と同等に変更されています。嫡出子の反発が必至である以上、家族に打ち明けていない子どもがいる場合は、生前に告白できれば理想的、難しいようであればせめて遺言書に明記して混乱を最小限に抑えましょう。

〈回避策4〉納税資金となる「現金」が残るよう考慮する

不動産を多く所有する賃貸経営者が特に気をつけたいのは、現金での一括払いが原則となる「相続税の納税資金」です。相続税は財産が増えるほど税額も高くなりますが、財産が不動産をはじめ流動性の低いものばかりだと、多額の納税費用を現金で用意できない事態に陥ることも考えられます。

そうなると、せっかく残した不動産が、納税費用を埋め合わせるために売り払われてしまうことにもなりかねません。加えて、相続税の申告および納税は、相続人が被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に済ませる必要があり、その短期間に希望価格で不動産を売却するのは至難の業です。

申告もできず納税も間に合わないとなれば、「配偶者の税額軽減の特例」や「小規模宅地の評価減」といった貴重な節税策も適用できなくなります(※)。こうした事態を防ぐためにも、一部財産の現金化や生前の暦年贈与、生命保険の契約、死亡退職金など、納税資金づくりの策を講じておいた方がいいでしょう。

※ 「申告後3年以内の分割見込書」を提出できれば猶予確保可

〈回避策5〉新制度「特別寄与者」の確認と配慮を忘れない

相続時には、被相続人の「特別寄与者」についても考慮する必要があります。特別寄与者とは、被相続人に対して無償で療養や看護などを提供したことで、被相続人の財産の維持または増加について、特別の寄与をした被相続人の親族を指します。2019年7月に成立した改正相続法で、相続人以外の功労者に対する保護を目的に制度化されました。

例えば、夫(相続人)を亡くした妻が義理の父親(被相続人)を長年にわたり介護してきたとします。しかし、いざ相続となると、この妻は法定相続人である夫が既に亡くなっているがために、財産を一銭ももらうことができません。そこで改正相続法は、被相続人に特別の寄与をした親族を特別寄与者と定義。寄与に応じた金額を相続人に対して請求できるようにしたのです。

しかしこの制度、特別寄与者にとっては嬉しい内容ですが、いきなり寄与料を請求される相続人にとっては不満の残るものでしょう。もし、特別寄与者に当たる人物がいる場合には、あらかじめ寄与料を用意しておくとともに、その事実を相続人に伝えておくべきです。なにしろ日々お世話になっているのです。トラブルを避け、相続人との合意の上で気持ちよく感謝の思いを伝えたいものです。

相続トラブル対策は、何よりも「相続発生前」に始めることが大切です。親子間・兄弟間のコミュニケーション不足や不安要素は、できるかぎり早めに解消しておきたいもの。相続についてあらかじめ話し合い、全員の合意を得たうえで遺言書を作成できれば一層安心です。親族が集まるこの機会、資産と家族の絆を守る手立てを講じてみてはいかがでしょうか。

2020年08月28日

路線価発表!知っておくべき注意点と相続税評価額の計算方法

◆今年も路線価は上昇傾向。ただしコロナ騒動で補正の可能性も。

7月1日、今年も国税庁より2020年の「路線価」が発表されました。路線価は、本来は相続税等を算出するための基準ですが、その年の地価や景気動向なども判断できるため、毎年7月1日の発表が話題となります。

今年も拡大を続けてきたインバウンド需要などに後押しされ、主要都市で路線価が上昇。沖縄県那覇市の国際通りでは40%超、北海道ニセコ地区では50%もの上昇となり、全国平均では5年連続での上昇という結果となりました。

ただし、注意したいのが「新型コロナウイルス感染症」の影響です。路線価はその年の1月1日の価格が発表されており、そうなると春先から猛威を振るい、日本経済に打撃を与えたコロナウイルスの影響は、今年の価格に反映されていないことになります。国税庁では、発表された路線価に比べて地価が大幅に下落している場合、現実との乖離を減らすべく路線価の「補正」の措置も検討していると発表。実施する際は10月以降に続報を出すとのことで、相続等の手続きが今年ある方は注意が必要です。

◆路線価方式または倍率方式で財産評価

路線価がもっとも多く活用されるのは、やはり相続税算出のタイミングです。相続税は基本的に、財産を一定のルールで評価した「評価額」に対して課税されますが、宅地の評価はこの路線価を用いた「路線価方式」または「倍率方式」によって算出します。なお、どちらの方式を用いても、宅地の相続税評価は「時価の80%程度」になるよう設定されており、1億円の宅地であれば8000万円程度の評価として算出されます。

<路線価方式による計算>

路線価は、道路(路線)に面する宅地1㎡あたりの価額として発表されます。つまり、宅地の評価額は土地の広さに路線価を乗じることで算出できるということです。市街地では路線価が設定された土地が多く、主に「路線価方式」が採用されます。

路線価方式による宅地の評価額=路線価×土地の広さ(㎡)

※ 200F:1㎡あたり20.0万円、Fは借地権割合を示す記号

<倍率方式による計算>

一方で、全体で見れば路線価の設定がない土地が大多数であり、その場合は固定資産税評価額に規定の倍率を乗ずる「倍率方式」が採用されます。倍率は大抵1.1~1.2が指定されており、この倍率と固定資産税評価額とをかけ合わせて相続税評価額を算出します。

倍率方式による宅地の評価額=固定資産税評価額×倍率

※ 借地権割合50%、宅地倍率1.1倍の土地の例

なお、賃貸アパート等が建っている土地は「貸家建付地」と呼ばれ、評価額算出の際には「借家権割合」、そして各土地に設定された「借地権割合」が考慮されます。借家権割合が30%、借地権割合は地域によって異なりますが、市街地なら40~60%程度となっており、市街地の貸家建付地は「土地の評価×80~90%」で大体の額が算出できることになります。

貸家建付地の評価=土地の評価額×{1-(借地権割合×借家権割合)}

つまり、市街地にある1億円の貸家建付地であれば、まず路線価方式や倍率方式で約8000万円と評価され、そこから貸家建付地として80%で再評価、約6400万円と計算されるということです。この評価減のルールこそ、まさに相続税対策にアパートが勧められる理由ですが、賃貸経営は収支がプラスになってこそ。賃貸経営を検討されている方は、地域のニーズと節税効果とを比較するためにも、この機会に「路線価」「倍率」をチェックし、評価をシミュレーションしておくことをお勧めします。

※ 最新の路線価および倍率は、国税庁のWebサイト「財産評価基準書」で確認できま  す。

2020年08月20日

宅配に必須のエントランス設備で空室対策

空室対策と聞くとつい室内に目が向きがちですが、意外と見落とせないのが共用設備のアップグレード。中でもエントランスは物件の顔、費用対効果の高さも見逃せません。

■「通販」「宅配」が当たり前の時代

昨今の物流の変化は目覚ましく、総務省の発表によれば、インターネット通販の利用世帯割合は、この5年で1.56倍の39.2%に増加。全国の宅配便の取扱い個数も、この5年間で36億個から43億個に増加したと国土交通省が発表しています。加えて、今回のコロナ騒動で通販・宅配需要はさらに拡大。ヤマト運輸の取り扱い荷物数が前年比1.2倍になるなど、「通販」「宅配」という買い物スタイルは、もはやスタンダードといえます。
そんな時代に必要なエントランスの2大設備といえば、「大型郵便対応型メールボックス」と「宅配ボックス」です。


■設備刷新による空室対策効果

このような状況だからこそ、生活の質を向上させる両設備のニーズは高まっています。特に宅配ボックスは、お部屋探しサイトで検索する際の必須条件とする人の数も増加の一途。SUUMOの検索結果(2020年6月・東京都の賃貸物件対象)では、公開942,898件のうち「宅配ボックスあり」の選択で表示される物件は455,987件と、なんと48.3%に! 需要はもちろん、宅配ボックスが「定番化」しつつある実情がうかがえます。

仮に10世帯の物件を想定した場合、ボックス適正数は2〜3個、本体と工事代で10万〜20万円が相場。仮に15万円とすると一部屋あたり1.5万円、月500円の賃料アップが叶えば2年半で回収できる計算となります。

また、「通販」「宅配」環境の整備は、新規顧客だけでなく既存入居者の満足度向上も期待できます。一度「価値がある」と感じると手放せなくなる心理的効果が働けば、新規・既存の両面から稼働率改善が望めるのではないでしょうか。

2020年08月03日

ちょっとした工夫で競合物件に差をつける! アクセントクロス活用術


比較的安いコストで高級感やオシャレ感が演出できる「アクセントクロス」は、今や空室対策の定番商品ともいえます。訴求力や家賃UP、家賃下落防止など、価値向上を叶えるための活用方法の基本と応用編をご紹介しましょう。

◆入居者に響くデザインや機能を選べる

アクセントクロスとは、色や柄の強いクロス(壁紙)をアクセントとなるように使用して、お部屋全体のデザイン性を高める手法のこと。ベーシックな量産型クロスではなく、色や柄の豊富な、業界で言う「1000番クロス」を使用することで、コンセプトやターゲットとする入居者層に合わせたお部屋作りができます。

また、デザイン性に長けているだけでなく、汚れがつきにくく落としやすい、傷に強い、消臭効果がある、といった特別な「機能」の付加された商品バリエーションも。子育て世帯向けやペット可物件など「傷」「汚れ」「におい」が気になりやすい部屋と組み合わせれば、よりターゲットに訴求しやすく、利便性にも優れたお部屋が構築できるでしょう。

気になる費用は、量産型クロスと比べて1.2~1.5倍程度。クロスの張り替えだけ行うと人件費のぶん高くなりますが、原状回復工事と同時であれば低コストで導入できます。

◆壁の一面だけ、または敢えて狭い空間に使って印象的に

アクセントクロスの最も基本的な使い方は、居室の壁一面だけに貼るポイント使い。貼る場所、柄、色を一工夫することで、内見者にオリジナルの印象を与えることも可能です。

応用編として、例えば敢えて狭い場所に限定した使用方法も。キッチンやトイレ、洗面所、洗濯機置場、クローゼットの中など、狭い空間に強い印象のクロスを施工しワンポイントとして見せることで、内見者に強いインパクトを残します。

貼る面積を狭くできるため、施工のコストも割安に。アクセントクロスで部屋全体の印象をがらりと変えてしまうことに抵抗のある方にとっても、狭い空間からなら導入しやすいでしょう。

◆デザインと実益を兼ねる腰高アクセントクロス

壁の全面ではなく、半分だけアクセントクロスを貼る、という方法もあります。腰高アクセントクロスは、床から1mくらいの高さに見切りを取り付け、その下部にデザイン性の高いクロスを貼るという手法です。

全面に貼る場合と比べて、次のような特長があります。

①圧迫感が少なく万人受けしやすい
②希少性・オシャレ度の向上
③下部のみ張り替えで費用節約


デザイン性の高いクロスを壁の全面に貼りつけると、見た目のインパクトが強いために好みが別れ、逆に機会損失を起こしてしまうケースも出てきます。その点、腰高施工であればインパクトを抑えながらオシャレさを演出できるほか、差別化されたデザインによって入居者に訴求することが可能です。

また、壁クロスは上部よりも下部のほうがダメージを負いやすい傾向があります。見切り材でクロスが上下に分かれていれば、原状回復の際も「下部だけ張り替え」といった節約が可能に。最初から傷や汚れに強い素材を使用しておけば、クロスの張り替え頻度自体を下げることもできそうです。

このように、工夫次第で高いコストパフォーマンスを期待できるアクセントクロス。貼る場所や方法を工夫して、ワンランク上の空室対策を目指してみてはいかがでしょうか。

2020年07月28日

アフターコロナ、賃貸需要はどう変わる?

新型コロナウイルス感染症専門家会議の提言のもと、厚生労働省より発表された「新しい生活様式」。緊急事態宣言こそ解除されたものの、今回の騒動によって私たちはライフスタイルの変革を余儀なくされました。

「3密」の回避に始まり、制限は買い物や交通機関の利用、食事、会話、レジャーの範囲にも。そしてその影響は、賃貸住宅の入居者の間にも如実に表れています。

■倍増する騒音トラブル。マナー違反に厳しい目

感染予防対策の本格化を契機として、大きく変わったのは「生活トラブル」の発生数です。

特に顕著だったのが、騒音問題の急増。企業のテレワーク導入によって在宅勤務者が多数発生しただけでなく、学校が休校で子供たちも在宅していたりと、「普段は昼間にいない人々」がネックとなりました。仕事の電話、ゲームの音、足音、笑い声…、換気のため開放した窓と自粛のフラストレーションも相まって、全国的に多数の騒音クレームが噴出。

また、在宅時間が増加したことで、フードの持ち帰りや宅配サービスの利用が拡大し、家庭ごみが大量に発生。ごみの分別マナーやごみ置き場の散乱に関する苦情も増大しました。

■変化したライフスタイルに合うお部屋とは?

こうした変化はピークを越えたものの、アフターコロナも影響は続きそうです。「在宅勤務」は結果的に多くの企業に評価されトレンドが続くことが予想されますし、ビデオチャット機能を用いた「オンライン会議」だけでなく「オンライン飲み会」も一般化しつつあります。

そうなると、これからのお部屋探しには「防音性」などの住宅性能が問われるようになるかもしれません。音の問題は、躯体が原因の大半を占めるため後から解決するのは難しいのですが、対策としてはワンタッチ式の防音壁やクッション性のある床材、後付けの二重窓などで一定の防音効果は期待できるでしょう。コロナを機に、空室対策・解約抑止対策にも新しい発想が求められる時代となりそうです。

2020年07月15日

雨漏りする、その前に… 収益アップへの布石・長期修繕計画の薦め

7月に入り、梅雨が明けたと思ったらもう台風の季節ですが、暴風や大雨への対策は万全でしょうか。昨年、全国を襲った台風被害は記憶に新しいところ。災害時ほど、日ごろのメンテナンスの良し悪しが試されます。毎年やって来る台風に備え、「長期修繕計画」や定期的な「大規模修繕」について考えてみましょう。

◆壊れてからでは損をする。修繕資金の早期積み立てが大切

多額の費用を必要とする大規模修繕ですが、はじめの一歩は長期修繕計画をたてることです。国交省の調査(※)によれば、個人家主1126人のうち、長期修繕計画を保有物件の半数以上に対して用意できている家主は、わずか21.3%に留まったとのこと。大規模修繕を実施しない理由には「資金的余裕がない」という声が最も多く、資金繰りの難しさがうかがえます。

ですが、要修繕箇所の放置は、雨水の浸入や雨漏り、外壁のはく落といった緊急事態につながりかねません。加えて、事故が起こってからの対処費用は、事故を未然に防ぐメンテナンス費用よりもはるかに高額になってしまいます。長期修繕計画を立てておけば修繕する箇所と時期が明確になり、資金も積み立てやすくなります。

◆長期修繕計画の重点チェックポイントと目安

○鉄部塗装
 外廊下やエントランス、階段などの鉄部を塗装します。鉄部は劣化が早く、サビの発 生・腐食によって強度も落ちるため注意が必要です。また、劣化部分は入居者の目に も留まりやすく、物件の印象を悪化させてしまうことも。5~7年ごとに塗り直しが必 要でしょう。

○共用部の防水処理・美観回復
 共用部では防水処理も重要。廊下床やバルコニー床の防水施工、サッシまわりのシー リング工事などが代表例です。防水処理を怠ると、軒天からの漏水や、階下室内への 浸水にもつながりかねません。事態が深刻化する前に手を打ちたいものです。
 また、年月が経つと日常清掃では手に負えない汚れも目立ってきます。美観向上のた めにも定期的な高圧洗浄がおすすめです。

○外壁塗装
 紫外線や雨風により劣化した外壁を塗り直すことで、防水性を回復します。塗装の劣 化を放置すると、外壁に少しずつひび割れが生じ、浸水によって内部の腐食に発展し ます。10~15年を目安にきちんと修繕したいものです。
 外壁は入居者が直接目にしやすい部分であり、美観維持の面からも重要です。色やデ ザインのセンス次第で物件の印象も大きく変わり、賃料に良い影響を与えられる場合 も。

○屋根塗装・修繕
 アパートで最も雨漏りの原因になりやすいのが屋根の劣化です。屋根塗装は、屋根材 を塗膜で覆い、紫外線などから屋根材自体の劣化を防ぐことで物件を長持ちさせてく れます。修繕時期は屋根材によりますが、主流のスレート屋根であれば10年程度での メンテナンスが基本です。
 また、定期点検も忘れてはいけません。屋根材に割れが生じたり、屋根材を固定する 棟板金(ルビ・むねばんきん)が緩んだりしてしまうと、台風時に部材が吹き飛び周 辺に被害を与えてしまうことも。点検による早期の不具合発見は、劣化防止に大いに 有効です。
 なお、屋根の工事は外壁塗装と同様、高所作業のため足場が必要となります。屋根と 外壁の修繕をまとめて実施することで出費を抑えることも可能です。

○屋上防水
 マンションなどの陸屋根では、屋上防水のメンテナンスも重要です。こう配がほとん どないため水はけが悪く、防水を怠れば雨漏りは必至。耐用年数を確認し、表面のひ び割れや水たまり、排水溝のゴミ詰まりなど、予兆が見られないか定期的に点検して おきましょう。修繕時期は防水の種類によって異なりますが、だいたい10~15年にな ります。

◆計画的なメンテナンスは収益増のチャンスにも

修繕の時期や費用は物件によって異なりますが、おおむね表1のようになります。長期修繕計画を立てる際には、何年に一度のペースで実施するか検討し、総工事費に対して毎月いくらを積み立てればいいかを決めていくことになります。

前述した国交省の調査では、長期修繕計画を立てた物件とそうでない物件とを比較し、収益性にどのくらい差が生まれるのか検証する興味深いシミュレーションがあります。それによると、計画のある物件は計画のないものに比べ、8戸(1LDK)の木造住宅で実質利回りが1.30倍、20戸(2LDK)のRC造では1.33倍という結果に。つまり、計画的なメンテナンスは賃料水準の維持や空室日数の短縮、修繕費用の節減に効果を発揮し、収益性を高めるということです。

リスク回避の維持管理だけでなく、前向きな投資行為にもなり得る大規模修繕。安定した賃貸経営を行なうためにも、この機会に長期修繕計画を作成し、「積み立て」を始めましょう。

※ 国土交通省「賃貸住宅の計画的な維持管理及び性能向上の推進について―計画判断  を含む投資判断の重要性―」(2019年3月)

2020年07月07日

人気と普及率の差にチャンスあり 「温水洗浄便座」でお手軽空室対策

TOTOの「ウォシュレット」、LIXILの「シャワートイレ」、パナソニックの「ビューティー・トワレ」等々さまざまな商品名で呼ばれ、各社がしのぎを削る人気商品『温水洗浄便座』。空室対策アイテムとしてもしばしば名前が上がり、昨年の「この設備がなければ入居が決まらない」ランキング(全国賃貸住宅新聞調べ)でも単身向け、ファミリー向けともに5位につけた実力派ですが、どのくらい普及しているかご存じですか。
 2020年3月の消費動向調査※によると、二人以上世帯における100世帯あたりの保有台数は、なんと114.5台。つまり1世帯1台以上で、乗用車やパソコンに匹敵する数字です。普及率で見ても80.2%と、二人以上の世帯では必需品になっていることが分かります。

ところが、これが全世帯の普及率となると73%へと低下。単身世帯では、実に58.5%にまで落ち込みます。さらに民営賃貸住宅における普及率を見ると、二人以上の世帯で47.3%、単身世帯に至っては三分の一をかろうじて超える33.5%という現実なのです。

●二人以上世帯と賃貸単身世帯とでは普及率が大きく異なる


つまり、いま賃貸住宅に住む(あるいは、これから住む)若者の多くは家に温水洗浄便座のある環境で育っており、「これがなければ決まらない」という状況でありながら、私たちの供給する単身物件の7割弱には温水洗浄便座が付いていないということです。世間の普及率の高さから、なんとなく「今さら」な感覚さえある温水洗浄便座ですが、賃貸住宅での普及率を見るとまだまだ差別化の可能性がありそうです。

一般的な商品なら、材工込みでも5万円でおつりがくるお手軽空室対策。設置も簡単なため、入居中のお部屋に設置することも可能です。更新・再契約時のテナントリテンションにも効果を発揮してくれるはずです。

※ 内閣府経済社会総合研究所 消費動向調査

2020年06月20日

新型コロナ騒動でテレワーク需要が急拡大! 「職住融合」で賃貸トレンドはどう変わる?

中国湖北省武漢市における最初の発生確認以降、未だ世界に大きな影響を与えている新型コロナウイルス感染症。東京オリンピック・パラリンピックが延期となり、日本全国に緊急事態宣言が発令されるなど、企業や個人の活動が大きく制限される事態となりました。

一方で、今なお予断を許さない状態が続くからこそ、急拡大しているニーズがあります。事業継続の必要に迫られ、各企業が一斉に取り組んだ「テレワーク」にまつわる需要です。

■トレンド予測「職住融合」が新型コロナで全国的に急拡大

テレワークとは、「情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」のこと。今回の騒動で急激に普及した「在宅勤務」も、テレワークの一種として扱われます。

人々を「通勤」から解放するテレワークは、もともと東京オリンピック・パラリンピックで予想される深刻な交通混雑の緩和策として期待され、東京を中心に政府主導で導入が進められていました。新型コロナウイルスの騒動がなくても、2020年は「テレワーク元年」となり、緩やかに普及が進んだことでしょう。ところが、当の五輪は延期となり、企業は全国的に社員の出社を自粛させる事態に。『職住融合』というキーワードを2020年の住宅トレンドとして予測したリクルート住まいカンパニー社も、まさかこのような形でテレワーク元年が訪れ、職住融合が拡大するとは夢にも思わなかったはずです。

職住融合は、テレワークの中でも特に在宅勤務の普及によって「住まい」と「職場」が融合し「職住近接」以上の距離感になる、という予測から生まれた造語。多くの人や企業が在宅勤務を体験したいま、住まいに職場としての快適性を求める声、立地に縛られない自由な働き方を求める声など、新しいニーズが生まれています。

■職住融合で住まいに求めるニーズが変わった

今回の全国的な「在宅勤務体験」は、多くの人に2つの気づきを与えました。ひとつは、自宅に仕事場としての環境が整っていなければ在宅勤務は難しい、という気づき。もうひとつは、自宅に環境さえ整っていれば、通勤からも解放されてもっと自由に働けるかもしれない、という気づきです。

特に後者の気づきは、今後の不動産市場にも影響を与える可能性大と言えます。なぜなら、通勤から解放されるということは、人々が住まいを選ぶ際に、都心からの距離や最寄駅からの徒歩分数などをそれほど考慮しなくてもよくなることを意味するからです。

これまで不動産は「立地」「交通の便」が絶対的な価値を誇っていましたが、通勤が住まい探しの前提から外れれば、事情は少し変わってくるでしょう。これまで「立地が悪いから」と諦めていた物件にも、価値の見直される機会が訪れるかもしれません。

事実、リクルート住まいカンパニー社の調査(※)によれば、約57%の人が「テレワークができるなら、通勤時間が長くなること(遠方への引っ越し)を許容できる」と回答しているとのこと。静かな環境や自然の豊かさ、実家からの距離や子育てのしやすさなど、「通勤時間」を考慮しなくていいなら優先したい、という条件は多々あります。会社から近いものの狭くてうるさいお部屋と、会社から遠いぶん広くて在宅勤務のしやすいお部屋であれば、テレワークの普及はおそらく後者の価値を高めていくことでしょう。

■自宅に仕事環境整備をプラスして空室対策に

では、実際にテレワークニーズを捕まえるには何をすればいいでしょうか。まず考えられるのは、最初から快適な仕事環境が備わったお部屋の提供です。

昨今は仕事をするうえでインターネット環境が必須である一方、なんでもスマートフォンで済ませられるからと、PCも持たず、家にインターネット回線も用意しない若年層が増加。彼らは今回の騒動で「ネット環境がなくて在宅勤務できない!」という問題に直面しました。人気の「インターネット無料」のお部屋は、今以上に注目を集めそうです。

また、住空間に予めワークスペースを用意することも検討できるでしょう。たとえば、仕事机、ワークチェア、手元照明、本棚など、すぐに仕事を始められる家具つきのお部屋や、DEN(デン)と呼ばれる1~2畳の独立空間が用意されたお部屋。空室対策としては多少コストがかかりますが、テレワークを視野に入れて部屋を探す人々の目にはきっと魅力的に映るはずです。

法人向けにテレワーク機能をアピールするという手もあります。企業によっては、自宅に作業環境のない社員のためにワークスペースを用意しようという動きもあり、まとまった空室がある物件は法人需要のチャンスかもしれません。仕事向けの家具に加えて、冷蔵庫や電子レンジ、コーヒーマシン、食器洗い機など、仕事環境を快適化する家電を用意すれば、企業のニーズとも合致。こうしたケースでは、一般的な賃貸借契約はもちろん、スペースシェア・時間貸しなど貸し方の工夫も検討できそうです。

決して望ましい形ではなかったものの、世界的に急速に普及したテレワークという働き方。どこでも働けるという発見は、不動産業界に決して小さくない影響を与えるはずです。果たして、テレワークは人々を満員電車や渋滞から解放し、不動産の価値さえも変えていくのか?

これからのテレワークの進化と住まいニーズの変化に注目し、先手を打っていきましょう。

※ リクルート住まいカンパニー「テレワーク×住まいの意識・実態調査」2019年

2020年06月10日

新制度で注目 家族の絆を守る「遺言書」早期作成のススメ

時に「争族」と揶揄されるほど、親族間での争いがつきものの相続。トラブルを防ぐための最初の一手は、やはり「遺言」の活用です。特に、不動産という分割しづらい財産を所有する賃貸経営者は、円満相続の実現のためにも積極活用が不可欠。以下にポイントをまとめました。

遺言は「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」の3タイプ

「公正証書遺言」
 証人2人の立会いのもと、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取って作成する遺言。内  容に不備が生じる可能性が低く、遺言書は公証役場で保管されるため、偽造や紛失の リスクも回避可能。手続きの手間と費用はかかるものの、3つの遺言の中では最も確実 に遺言内容を実現できるとあって、全国の作成数はここ10年で1.4倍以上に。

「秘密証書遺言」
 遺言内容を記載した書面を、2人の証人と同行して公証役場に持ち込み、封印・封書を して作成する遺言。署名押印だけ行なえば、内容は自筆でも代筆でもワープロでも可 能。内容を公開する必要がないため、遺言の存在は明らかにしつつも内容は秘密にで きるのが最大のメリット。反面、内容に法律的な不備があれば遺言が無効となる、自 分で保管するため紛失があり得る等のリスクもある。

「自筆証書遺言」
 その名の通り、遺言者がその全文、日付および氏名を自筆し、これに押印して作成す る遺言。秘密証書遺言と同様、内容に不備があれば無効となってしまうが、費用がか からず手軽に書ける、いつでも何度でも書き直せる点がメリット。相続法の改正によ って、2019年1月からは財産目録のパソコン等での作成や、必要書類(登記事項証明 書や預金通帳等)のコピー添付が可能となり、遺言の作成自体が容易となったことか ら注目されている。

自筆証書遺言の保管制度、7月開始

遺言の中で最も身近な自筆証書遺言、2020年7月10日からは遺言書を法務局で保管してもらえる「自筆証書遺言保管制度」がスタートします。作成から保管まで自分で行なう自筆証書遺言には、常に偽造や紛失のリスクがつきものでしたが、同制度の開始によって遺言書の破棄・隠匿・改竄・紛失といった心配がなくなりました。

保管申請の費用は、1通あたり3900円。もちろん、保管開始後の閲覧(要手数料)や撤回(無料)も可能です。一連の手続きは遺言者本人にしかできないため、遺言内容を相続人等に知られることなく、保管証等によって遺言書の存在だけを明示することも可能になります。

また、自筆証書遺言は遺言者の死亡時に「検認」という家庭裁判所での手続きが必要でしたが、予め法務局に保管されていた場合はこれも省略できるようになります。検認が速やかな遺産分割の障害となってしまうケースも少なくなりそうです。

遺言書作成時の注意点

認知症などによって意思能力が認められない状態になってしまってからでは、有効な遺言書は作れません。また、全ての財産を漏れなくリストアップし、誰にどの財産を相続させるか明確にする作業は、とても一朝一夕では不可能です。相続人の不公平感、遺留分の侵害、納税額…、遺言書を一通作るだけでも様々な事情を考慮する必要があります。こうした点を考えれば、遺言作成の最大の秘訣とは「なるべく早く、元気なうちに作り始めること」と言っても過言ではないでしょう。

「まだ若いから」と遺言作成を後回しにしている方も少なくないと思いますが、突然の病気や事故に見舞われる可能性は誰にでもあるもの。こんなご時世だからこそ、遺される家族の将来と円満相続について考えてみてはいかがでしょうか。

2020年06月05日

中古マンション購入案件1(リフォーム編)

 

仙台市太白区にある築37年の区分マンションの一室の購入案件です。
売買契約時は売主様が居住中でした。
内覧時は少し狭いかなと思いましたが、家具・家電がさほど多くなく、2階角部屋で道路向かいが公園であること、徒歩2,3分程度の距離に商業施設の予定地があることから購入を決断しました。
収納スペースが少し狭いのがデメリットですが、収納家具を購入すれば解決可能と判断しました。

引渡し翌日から、キッチン交換・クロス貼替・カーペットからフローリングへ貼替・木枠塗装・畳交換・襖交換・トイレ交換・エアコン設置などを行いました。
工期は約3週間、費用は約300万円です。

その他、洗濯パンを幅800mmから640mmに変更して洗面所の収納スペースを確保したり、キッチンの通路部分の幅が770mmしかないので、動線確保のためにキッチンの冷蔵庫置場の壁に露出で設置されていた厚さ60mm程の給水管を壁裏に移設したりと、細かな変更も加えました。

リフォーム工事前の写真・間取図はこのような感じです。

そして、リフォーム工事後は以下のようになりました。
洗濯パンの寸法以外、間取図に変更はありません。

フローリングはオーク調でLL-40、クロスは白基調でトイレ壁1面、洋室壁1面、キッチン壁全面をアクセントクロスとし、洗面所・トイレ・キッチンのCFはテラコッタで明るめに仕上げました。

ちなみに、トイレの便器は中国製のため新型コロナウイルスの影響で納品が遅れており交換未了ですが、6月中には施工予定です。

2020年05月20日

ブログを始めました。


これまでの取引事例・活用事例・問題解決事例を模式化したものや時々刻々の不動産市況・情勢などを、備忘録的に記載していきたいと思います。

2020年04月13日