節税対策としてメリット多数 経営状況に合わせて検討したい「青色申告」と「法人化」


2月といえば確定申告。一年の総決算の時期となりました。年間の収支をまとめていると、気になってくるのが「青色申告」や不動産経営の「法人化」等の節税策。いずれも事前準備や手続きが必須であることを考えると、それぞれの基本を押さえ、将来的な活用の検討を始めるにはいいタイミングです。

使わないと損?個人事業の節税の味方「青色申告」

個人の確定申告の方法に「青色」「白色」の2種類があるのはご存じですね。「青色申告」は多少の手間はかかりますが、複式簿記により帳簿を作成し、賃借対照表および損益計算書などを提出することで多くのメリットが得られます。特に不動産経営が賃貸物件10部屋以上もしくは5棟以上などの事業的規模であれば、さらに大きな節税効果が期待できるでしょう。

メリット1:最大65万円の特別控除

青色申告の大きなメリットは、課税対象となる所得に対し、要件に応じて最大65万円もの特別控除が受けられる点です。控除額は2020年分の申告から改正され、65・55・10万円の3種類となりました。

65万円控除を受けるには、複式簿記での記帳などの従来要件(55万円控除要件)に加え、「e-Tax(インターネット経由で自宅でも確定申告ができるシステム)による電子申告または電子帳簿保存」が必要。青色申告に挑戦するならe-Taxの準備も忘れず行ないましょう。

メリット2:生計を一とする家族への給与を必要経費に

生計を一とする配偶者や親族への給与は、原則として必要経費にはなりません。しかし、青色申告では「青色事業専従者給与」を利用することで、配偶者等への給与全額を経費化することができます。

制度の利用には税務署への「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出のほか、「(配偶者等の)6ヶ月超の事業への専従」「社会通念上、妥当な給与額」などの要件を満たす必要がありますが、給与全額経費化の効果は魅力的。ただし、制度の利用によって配偶者控除や扶養控除が受けられなくなったり、給与額によっては専従者の所得税や年金、健康保険料の支払いが生じますので注意が必要です。

メリット3:赤字の繰り越し・繰り戻し

青色申告を行なっていれば、その年に出た事業の赤字を、翌年から最長3年にわたり「繰り越す」ことができます。例えば、2020年に100万円の赤字が出たものの、2021年が200万円の黒字だった場合、前年100万円の赤字を繰り越して黒字分から差し引くことが可能に。2021年の課税対象額は100万円となり、税金を安く抑えられます。

同様に、赤字の「繰り戻し」も可能です。その年が赤字でも、前年分の黒字と相殺することで、一度確定した前年の所得額を減らし、払い過ぎとなった税金を取り戻すことができるのです。

注意するべきは、青色申告には、あらかじめ申請書を税務署に提出して承認を得る必要がある点です。申請は申告しようとする年の3月15日まで(※1月16日以後の新規開業の場合は、開業日から2ヶ月以内ならいつでも申請可)。メリットが多い反面、帳簿作成や手続きの手間などから敬遠されがちな青色申告ですが、近年は安価な会計ソフトやクラウドサービスも充実し、申告のハードルも下がりました。申請を考えている方は期限に注意して次回以降の申告に備えましょう。

事業規模に応じて検討したい「法人化」による節税

青色申告と同様、節税対策として検討されることが多いのが不動産経営の法人化です。物件を設立した法人の所有として経営し、税金の圧縮を図ります。特に所得の高い方や相続税が気になる方は、法人化で大きな節税効果が見込める可能性大です。

メリット1:税率差や給与所得控除で税金を安くする

個人の「所得税」は累進課税のため、所得が多くなればなるほど税率も高くなり、最大で45%にも達します。一方で、「法人税」の法定実効税率は最大でも34%程度。法人化はまずこの税率差による節税が期待できます。

加えて、法人から役員報酬を支払えば、法人は課税所得を減らせるとともに、個人は給与所得控除の適用が可能となり、税金総額を少なくすることができます。
一例として、事業所得が1000万円だった場合の

 ①個人にかかる所得・住民税額 と
 ②法人化した際の法人税+法人住民税+個人の所得・住民税の税額(極端ですが、法  人所得1000万円をすべて個人の役員報酬とする)

を概算で比べてみましょう。

計算はあくまで概算で諸条件によって異なります

①個人
【所得・住民税】
 事業所得×税率※-所得税の控除額
 1000万円×43%-53万6000円=276万4000円

②法人
【法人所得】
 事業所得-役員報酬
 1000万円-=0円

法人所得が0円のため発生しません。

【法人住民税(均等割)】=7万円
   +
【所得・住民税】
(役員報酬-給与所得控除)×税率※-所得税の控除額
(1000万円-195万円)×33%-63万6000円=202万500円

税金合計 7万円+202万500円=209万500円
※所得税率と住民税率約10%の合算

このように事業所得は同じでも、法人の給与所得の方が個人事業主の所得より約67万円も節税できることが分かります。また今回は割愛しましたが、社会保険料控除などの他の控除も含めれば、節税額はさらに大きくなります。事業所得が増えるほど、税負担の差はより法人有利となる以上、経営規模が大きい方や今後拡大を検討している方は、早いうちに法人化を検討した方がいいでしょう。

メリット2:法人所有で相続財産を圧縮・移転

法人化におけるもうひとつの節税ポイントが相続です。個人所有の不動産は相続財産となり、被相続人が亡くなった際に少なくない額の相続税を発生させますが、不動産が法人所有であれば相続税の課税対象から外すことができます。

加えて、不動産所得を役員報酬等として家族に支払えば、不動産は法人の所有のまま、家族には給与所得控除を利用しつつ現金を譲り渡すことができます。生前からの財産移転がスムーズに進むのです。

法人化はその他にも、赤字の繰り越しが9年可能だったり、個人より経費計上できる項目が増えたりとメリットが目立ちます。一方で、法人の設立費用や税理士報酬等の維持費が必要な点、赤字でも税金が発生する点、そもそも800~1000万円程度の所得がないと恩恵が小さい点などデメリットも多数あります。法人化を検討する際は、専門家とよく相談したうえで節税効果をシミュレーションし、将来の方向性も含め実施の是非やタイミングを慎重に判断しましょう。

2021年01月18日