安定経営のために知っておくべき「減価償却」の基礎知識

 不動産投資や賃貸経営をするうえで必ず目にする「減価償却費」という言葉。よく聞くけれど詳しくは分からないという方、ここで基本を押さえておきましょう。

【減価償却費とは複数年に分けて計上する経費】
 家賃収入が80万円あったとしても、この80万円全額に対して税金がかかるわけではありません。経営のために事務用品5万円分を買ったとしたら、この支出は「経費」として収入から差し引くことができ、残った75万円の利益に対して所得税が発生します。
 では、建物本体を取得した場合はどうでしょうか。建物本体の支払いも経営のために必要です。家賃収入80万円、建物1000万円の場合、80万円−1000万円で920万円の赤字、利益が発生しないので税金なし、とはなりません。事務用品のように短期間で価値や効果のなくなるものと違い、建物等の固定資産は相当の長期に渡って価値が持続します。そのため全額をその年の経費として扱うのではなく、毎年一定の額や割合で分割して必要経費とするルールとなっているのです。
 そして、この分割した経費が「減価償却費」です。減価償却費を計上すると、その分だけ帳簿上の価値(建物の固定資産の額)も減ることになります。仮に一年分の減価償却費として50万円を計上したとすると、建物の価値1000万円は計上によって950万円に減ります。そしてその「減価」された分が利益80万円から差し引かれることとなり、手元には80万円があるにもかかわらず、税金は30万円分で済むようになるのです。これが手残りを増やすうえで減価償却費が重要視される所以です。
 ちなみに、減価償却費を計上できるのは建物のみです。土地は時間が経過しても価値が減らないと見なされ、減価償却を行えません。

【賃貸経営では定額法にて算出】
 減価償却費の計算方法には、毎年同額を計上する定額法と、計上額が逓減していく定率法の2つがあり、収益不動産は定額法を用いるのがルールです。計算式中の償却率は国税庁「減価償却資産の償却率表」にて定められており、法定耐用年数に応じたものを使用します。

定額法
 取得価格×定額法の償却率=減価償却費

定率法
 未償却残高(帳簿上の固定資産残高)×定率法の償却率=減価償却費


 償却率・耐用年数は、ご覧のように建物構造だけでなく用途によっても異なります。これは賃貸経営などの事業では毎年の経費を多く計上できるように、マイホームなどの非事業用では売却時の税金がなるべくかからないようにする国の配慮です。
 なお、減価償却の対象は建物本体だけではありません。給排水設備やエレベーターといった建物附属設備も対象であり、建物本体とは別に計上します。物件購入当初は設備と建物の両方の減価償却費を計上できるため、税金も安くあがり安定的な経営が叶いますが、建物より短い設備の耐用年数が経過する頃になると、計上できる減価償却費が減って税金がかかる(手残りが減る)ようになってきます。借り入れの状況等によってはこのタイミングで買い替えを検討される方も多いようです。

【中古・耐用年数経過後の減価償却】
 先述の償却率表を用いるのはあくまで新築の場合。中古物件・耐用年数を経過した物件は、減価償却費を導くための耐用年数を特別な計算式で算出します。

中古物件
(耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2

耐用年数経過物件
 耐用年数×0.2

 銀行の融資を受けにくい面もありますが、ごく短期間で多額の減価償却が叶うため、節税を目当てに築古物件を購入する人もいます。
 手残りと返済、税金の支払いに大きく関わる減価償却。一度、金額や残年数を確かめてみてもいいかもしれません。

※記載の利益計算例は概念的なものです。確定申告等実際の計算の際には税理士等の専
 門家または管理会社にご相談ください。

2020年09月28日