自宅や事業用土地の評価額を大きく低減!「小規模宅地の特例」基本解説


夏休みやお盆など家族で集まる機会が多いこの季節は、将来の相続について話し合う良いタイミングです。円満相続を叶えるための話し合いにあたって、不動産相続の節税の基本「小規模宅地等の特例」を押さえておきましょう。

◆「小規模宅地の特例」は、自宅土地だけでなくアパート・マンション用地も対象

「小規模宅地の特例」は、相続した土地が一定の条件を満たす場合に、その土地の相続税評価額を大きく引き下げることのできる制度です。この特例といえば、多くの方は「自宅の土地」を思い浮かべるのではないでしょうか。

相続税は現金で一括納付が原則ですが、相続財産が自宅の土地くらいしかない、といった場合には、納税資金作りのために自宅の土地を売却する事態にもなりかねず、そうなれば相続人は住む場所を失ってしまいます。そこで、居住地の評価額を大幅に下げられる「特例」が用意されているのです。

そして、この特例は自宅等の「特定居住用宅地等」だけでなく、事業に使用する店舗・工場などの「特定事業用宅地等」、アパート・マンションなどの「貸付事業用宅地等」なども対象としていることがポイントです。納税のために相続した不動産を手放し、事業を廃業する事態とならないよう、特例によって事業継続をサポートしているのです。

◆貸付事業用なら評価が50%減額に

特例による減額幅は土地の種類によって異なります。特定居住用宅地等なら土地の評価額を330㎡まで80%減額、特定事業用宅地等は400㎡まで80%減額となります。

一方、アパート・マンション・駐車場といった貸付事業用の土地は、200㎡までが対象となり減額割合は50%。たとえば、賃貸住宅の建つ200㎡・評価額5000万円の土地は、特例によって半分の2500万円に圧縮されるのです。


◆貸付事業用の小規模宅地の特例Q&A

Q1.土地面積が200㎡を超える場合特例はどうなる?

相続した土地が200㎡を超え、かつ他に特例を併用できる自宅などがない場合には、限度である200㎡分について特例を適用することができます。400㎡・評価額1億円の土地なら、その半分にあたる200㎡・5000万円までが特例の適用範囲となるため、全体の評価額は特例を適用した2500万円(5000万円×50%)と、特例適用外の5000万円を足した7500万円となります。

Q2.相続人が複数いる場合、特例の適用方法は?

相続人が複数いる場合は、相続する者同士の協議のうえ、合計200㎡を上限に何㎡ずつ適用するかを決定します。たとえば兄弟2人が相続人であり、400㎡・評価額1億円の土地を兄300㎡(7500万円)、弟100㎡(2500万円)で相続した場合、特例200㎡を100㎡ずつ分けて兄6250万円・弟1250万円とすることも、兄が単独で200㎡を適用し、兄5000万円・弟2500万円とすることも可能です。

ただし、そもそも不動産の共有相続は後々のトラブルの元となる鬼門とも言える選択肢。できる限り単独相続を目指しましょう。

Q3.無償貸付や低額貸付をしている不動産は対象になる?

親族などに不動産を貸す際、賃料を「無償または低額」に設定しているケースは多いと思います。

しかし、こうした場合は残念ながら特例の対象となりません。なぜなら、貸付事業用宅地等の特例は「貸付事業」が行なわれていることが前提であるため、事業性を度外視した賃料で貸し出されている不動産は対象外となってしまうのです。

事業性の有無は、賃料が近隣相場とかけ離れていないかなどを目安に判断されます。特例を適用したい場合は前もって賃料の見直しをしておきましょう。

Q4.特例が適用される駐車場の条件は?

駐車場や駐輪場が特例の適用を受けるには、「建物または構築物の敷地である」という要件を満たす必要があります。したがって、屋根などの設備がある駐車場(駐輪場)は対象となる一方、土がむき出しの青空駐車場はただの土地として判定されるおそれがあります。

もし、そうした駐車場をお持ちの場合には、今のうちに、せめてアスファルト舗装をして区画線を引き、整備された駐車場の体裁を整えておきましょう。構築物を設けることで特例が適用されるのはもちろん、現金を宅地の一部に替えることで、その分の相続税評価を下げることができます。

◆法改正で「3年以内」の取得物件は対象外に

特例の適用を考える際に気を付けたいのが、2018年4月の法改正で設けられた、相続開始前「3年以内」に貸付を始めた物件は特例対象外になるという新ルールです。賃貸物件を取得しても、3年以上にわたって事業を営んでいないと特例を適用できません。

新ルールができる前は、相続税を減らすためだけに賃貸物件を購入するという行き過ぎた節税策や特例の乱用がみられました。そこで3年という期間を設け、過度な相続税対策を抑制し、本来の事業継続を目的とした特例利用を促したというのが法改正の背景です。

◆事業的規模であれば、3年ルールは適用されない

とはいえ、「3年ルール」には例外もあります。その一つが、被相続人がいわゆる「5棟10室」といわれる事業的規模で貸付をしていた場合。もともと貸付事業を営んでいたのであれば、相続発生の3年以内に取得した物件も、節税対策というより事業目的と考えるのが妥当であるため、ルールの適用外となるわけです。

事業継続をサポートしつつ、相続税対策として大きな効果を発揮する小規模宅地の特例。これを使わない手はありませんが、自宅・事業用・貸付事業用で特例を併用できる反面、併用時には適用面積の制限がある点に注意が必要です。「どの土地にどの特例を何㎡適用するか」で節税額も変わってくるため、まずは基本方針を家族と話し合い、どうしたら最も節税効果が高くなるのか税理士などの専門家の意見も聞きながら、早めに準備を進めておきましょう。

2021年07月01日