早めの値下げの損・得は?空室対策としての「賃料減額」判断基準


春の引越しシーズンも、いよいよ大詰め。特にコロナによって学生需要の戻りが鈍いエリアでは、この3月が勝負どころです。時間的猶予がない場合には、「賃料減額」も視野に入れるべきかもしれません。

☑最大のメリットは即効性

賃料を減額する最大のメリットは、やはり「早期に入居者を見つけられること」です。理想はもちろん、人気設備の導入等で物件の価値を高め、賃料を維持しながら新規入居者を獲得することですが、十分な予算や時間が確保できない中で効果的な対策を施すのは簡単ではありません。

その点、賃料減額は万人に対して効果が期待できるうえ、工事期間等もなく即時に告知しアピールを開始できます。現賃料で空室の長期化が予想されるような物件では、減額によって空室期間を圧縮することで、トータルの収支を安定させる効果も見込めます。

☑リスクを見越した事前対策が不可欠

強力な空室解消力を誇る賃料減額ですが、その一方で気になるのは効果の高さゆえのリスクです。賃料収入の減少はもちろん、それ以外にも次のようなリスクがあることを把握しておきましょう。

▶トラブル発生リスクの増大

賃料を下げるということは、申し込みがあった際の審査基準、特に収入面の審査を緩めざるを得ないということでもあります。必ずそうなるとは限りませんが、それによって家賃滞納やマナー問題などトラブルが増える傾向にあることも事実です。

▶他の部屋からの減額交渉

新規入居者が安い賃料で契約したと知れば、他の部屋が「うちも家賃を下げてくれ」と主張してくるのは自然な流れです。昨今はインターネットで簡単に募集情報を調べられるため、賃料減額交渉が発生するリスクは以前よりも増しています。

▶売却価格の下落リスク

収益不動産の価格は、年間の賃料収入を市場の利回りで割り戻す「収益還元法」で算出するのが主流です。つまり、賃料を下げると分子となる年間賃料収入も減り、物件価格自体も下がってしまうことになります。

 例)利回り8%のエリアで3,000円の減額をした場合…
   3,000円×12ヶ月÷8%=45万円の価格下落

数年以内に売却の予定がある場合などは賃料減額の影響が大きいため、敷金・礼金の免除やフリーレントの採用、募集広告費の増額等、「賃料を維持しつつ費用面で訴求する集客戦略」も検討したいものです。

☑減額目安は空室期間予測から算出

リスクを孕む賃料減額ですが、それでもメリット大、と判断できる場合には、「周辺の競合物件が減額を始める前」に、早急に手を打つべきです。減額の目安は次の計算式で速算できます。

賃料減額幅=
{(①予想空室期間-②理想空室期間)×現賃料}÷(解約発生周期-②理想空室期間)

※解約発生周期=1年÷(年間解約発生戸数÷総戸数)

①予想空室期間とは「このままだと現実となるだろう空室期間」、そして②理想空室期間とは「賃料を下げたからには実現したい空室期間」を指します。

仮に、解約発生周期が4年(48ヶ月)で賃料6万円の物件があり、「減額すれば2ヶ月で決まる、減額しなければ6ヶ月かかる」と予想できる場合、①予想空室期間は6ヶ月、②理想空室期間は2ヶ月と設定され、賃料減額幅は(6ヶ月-2ヶ月)×6万円÷(48ヶ月-2ヶ月)=5,217円と算出されます。つまり、賃料減額によって2ヶ月以内に決まると予測できるなら5,217円まで下げられる、5,217円未満の減額なら空室を6ヶ月つくるより収支はプラスになる、ということです。

賃貸経営者にとって、「できるだけ賃料は下げたくない」という気持ちは当然です。しかし、コロナ禍の出口はいまだ見えず、今年のシーズンも例年通りとは言い難い状況です。難しい判断ではありますが、場合によっては「損して得取れ」の戦略を採用し、経営基盤の早期安定化を図ることも検討していきましょう。

2022年02月08日