新制度で注目 家族の絆を守る「遺言書」早期作成のススメ

時に「争族」と揶揄されるほど、親族間での争いがつきものの相続。トラブルを防ぐための最初の一手は、やはり「遺言」の活用です。特に、不動産という分割しづらい財産を所有する賃貸経営者は、円満相続の実現のためにも積極活用が不可欠。以下にポイントをまとめました。

遺言は「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」の3タイプ

「公正証書遺言」
 証人2人の立会いのもと、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取って作成する遺言。内  容に不備が生じる可能性が低く、遺言書は公証役場で保管されるため、偽造や紛失の リスクも回避可能。手続きの手間と費用はかかるものの、3つの遺言の中では最も確実 に遺言内容を実現できるとあって、全国の作成数はここ10年で1.4倍以上に。

「秘密証書遺言」
 遺言内容を記載した書面を、2人の証人と同行して公証役場に持ち込み、封印・封書を して作成する遺言。署名押印だけ行なえば、内容は自筆でも代筆でもワープロでも可 能。内容を公開する必要がないため、遺言の存在は明らかにしつつも内容は秘密にで きるのが最大のメリット。反面、内容に法律的な不備があれば遺言が無効となる、自 分で保管するため紛失があり得る等のリスクもある。

「自筆証書遺言」
 その名の通り、遺言者がその全文、日付および氏名を自筆し、これに押印して作成す る遺言。秘密証書遺言と同様、内容に不備があれば無効となってしまうが、費用がか からず手軽に書ける、いつでも何度でも書き直せる点がメリット。相続法の改正によ って、2019年1月からは財産目録のパソコン等での作成や、必要書類(登記事項証明 書や預金通帳等)のコピー添付が可能となり、遺言の作成自体が容易となったことか ら注目されている。

自筆証書遺言の保管制度、7月開始

遺言の中で最も身近な自筆証書遺言、2020年7月10日からは遺言書を法務局で保管してもらえる「自筆証書遺言保管制度」がスタートします。作成から保管まで自分で行なう自筆証書遺言には、常に偽造や紛失のリスクがつきものでしたが、同制度の開始によって遺言書の破棄・隠匿・改竄・紛失といった心配がなくなりました。

保管申請の費用は、1通あたり3900円。もちろん、保管開始後の閲覧(要手数料)や撤回(無料)も可能です。一連の手続きは遺言者本人にしかできないため、遺言内容を相続人等に知られることなく、保管証等によって遺言書の存在だけを明示することも可能になります。

また、自筆証書遺言は遺言者の死亡時に「検認」という家庭裁判所での手続きが必要でしたが、予め法務局に保管されていた場合はこれも省略できるようになります。検認が速やかな遺産分割の障害となってしまうケースも少なくなりそうです。

遺言書作成時の注意点

認知症などによって意思能力が認められない状態になってしまってからでは、有効な遺言書は作れません。また、全ての財産を漏れなくリストアップし、誰にどの財産を相続させるか明確にする作業は、とても一朝一夕では不可能です。相続人の不公平感、遺留分の侵害、納税額…、遺言書を一通作るだけでも様々な事情を考慮する必要があります。こうした点を考えれば、遺言作成の最大の秘訣とは「なるべく早く、元気なうちに作り始めること」と言っても過言ではないでしょう。

「まだ若いから」と遺言作成を後回しにしている方も少なくないと思いますが、突然の病気や事故に見舞われる可能性は誰にでもあるもの。こんなご時世だからこそ、遺される家族の将来と円満相続について考えてみてはいかがでしょうか。

2020年06月05日