成人年齢引き下げ、賃貸経営への影響は?今こそ考えたい 若者の賃貸トラブル


民法改正により、4月1日から成人年齢が18歳へと引き下げられます。今後、18歳を迎えた若者は、親の同意を得ることなく携帯電話やクレジットカードなどさまざまな契約を単独で有効に結べるようになりますが、その中にはお部屋を借りる際の賃貸借契約も含まれます。賃貸経営者として知っておくべき点をまとめました。

【成人年齢引き下げはどうして?】

日本で成人年齢が20歳と定められたのは1876(明治9)年、今から146年も前のこと。それが今になって変更される理由のひとつは「国際社会と歩調を合わせるため」と言われています。

法務省の調査によれば、海外では1960年代から成人年齢引き下げについての議論が活発化。先駆けとなったのはイギリスで、1969年に21歳から18歳への引き下げが実施されて以降、ヨーロッパ諸国やアメリカ各州で次々と成人年齢が18歳へと変更されました。OECD(経済協力開発機構)の加盟38か国においても、現在では成人年齢を18歳と定めている国が圧倒的多数であり、日本はようやく「国際標準」に合わせたことになります。

また、少子高齢化による現役世代減少への対策としての効果も期待されます。各国の成人年齢変更運動も、大元に「若者の国政参加」を掲げたものが大半でしたが、若年層の減少の著しい現代日本においても、若者を早期に社会参加させることは重要課題。18・19歳の若者が自らの意思で人生を選択できる環境を整え、政治や経済への積極的な参加を促すことは、活力ある日本社会を形成するために不可欠な施策なのです。


【子ども名義で契約時「親権者同意書」不要に】

一方で、この変更が賃貸業界に与える影響はというと、実は非常に限定的です。既に「未成年者が契約者となって部屋を借りる」ことが当たり前に行われている以上、目に見える変化は「親権者同意書」が18歳以上で不要となることくらいでしょう。

親権者同意書とは、未成年者との契約行為に親権者の同意があったことを証明する書類です。民法は、未成年者が親権者の同意を得ずにした契約は原則として取り消せると定めているため、後になって契約取り消し・賃料等の全額返金…といったことが起こらないよう、契約時に同意書を作成するのです(親権者を契約者とすることで同様の事態を避ける方法もとられます)。今後は学生入居でも大半が18歳以上となるため、同意書を作成する機会は少なくなりそうです。

【知っておきたい若者特有の賃貸トラブル】

さて、以上のような経緯から、4月以降は「オトナ」の入居が増えるわけですが、やはり18歳は18歳。若者特有の軽はずみな行動で問題を起こしたり、犯罪等に巻き込まれたりといったケースが減るわけではありません。また、お酒やたばこは引き続き20歳からの制限のため、これらに起因するトラブルには厳しい注意も必要。特に4~5月は入居直後でトラブルも頻発傾向にあり、管理会社と二人三脚での対策が欠かせません。

《若者の賃貸トラブルケース》

〈ケース1.無自覚の「騒音トラブル」〉

今も昔も若者は騒がしいものですが、近年増えているのが「大音量で流す音楽・動画」の騒音クレームです。YouTubeやNetflix等で視聴する動画のほか、コロナ禍でのオンライン講義の音もたびたび苦情の原因となっています。

特徴的なのは、本人に大きな音を出している自覚がないことが多い点です。無自覚である理由のひとつが、彼らの育ってきた住環境。2000年4月の「住宅性能表示制度」の開始以降、戸建や分譲マンションの性能は急激に向上しています。遮音性の高い住宅で育った彼らとしては、古アパートでも「まさか隣に音が漏れるなんて」という感覚なのです。

最近では、室内で配信動画を見ながら運動するオンラインフィットネスや、オンラインゲームをしながら通話するボイスチャットなど、新たな騒音源も登場。あらかじめ音が響きやすいことを知らせたり、ヘッドホンを使用するよう指導することも必要です。


〈ケース2.無知による「契約トラブル」〉

電気・水道などライフラインの知識に乏しく、入居後に「電気が使えない」などの苦情が入るケースも増えた印象です。インターネット無料物件のように光熱費も家賃に含まれていると思っていた、なんて入居者もいるため、苦情時は設備故障だけでなく「未契約」「料金滞納」も疑う必要があります。

また、契約関連で心配なのが押し売り・悪徳商法などの被害です。これまでも無知に付け込まれる若者は多くいましたが、4月以降、18歳の「成人」は「未成年を理由とした契約取り消し」ができません。最近はトイレ詰まり等の対応だけで数十万円を請求する悪質水道業者の被害も問題化しており、設備故障時の連絡先を明示するなどの対策が重要。押し売り対策には、モニター付きインターホン等の自衛手段を提供するのも有効でしょう。

〈ケース3.無警戒からの「SNS犯罪」〉

近年はITの発達により、過去にはなかった犯罪被害が増加。中でも注意したいのが、TwitterやFacebook等のSNSを介した犯罪です。SNSでの交流がきっかけとなった誘拐被害や、投稿した写真から場所を特定されるストーカー被害など事例はさまざま。予防策として防犯カメラや簡易ホームセキュリティを導入すれば、被害抑止だけでなく入居満足度の向上にも役立ちそうです。


若者トラブルの多くは一般常識や経験の不足が原因となる以上、入居前や入居直後など、何かが起こる前に「知らせる」ことが何よりも大切。管理会社と一緒に、賃貸住宅に住むうえでのマナーやリスクをまとめた「入居のしおり」を作成するのもいいでしょう。

見方を変えれば、18歳の若者たちは国の都合で急きょ新成人となるわけです。賃貸経営者ならではのフォローをしつつ、大人の先輩として彼らを上手に守り、導けるといいですね。

2022年02月16日